第43話 礼装
動揺している間に侍女により化粧が施され、妃殿下によりドレスが選ばれ、ドレスを着つけられる。青地に銀の刺繡が入り、白い飾縁の多いプリンセスラインのドレスだ。正直に言おう、布が多いので私物のドレスより重い。そこに装飾品も加わるから更に重くなる。
「……分不相応では」
布や飾りの多さは裕福さの象徴ともとれる故に爵位が上がる程に華やかになり、王族の方々の着るものは豪奢の一言に尽きる。今、私がお借りして着ているドレスはこれでも飾りが少ない方だ、それでも重い。
「青いドレスって着る機会が少ないの。そのまま貰ってくれても良いくらいよ」
炎熱魔法の使い手が多く炎熱の神を祀る普人種の国を治める王族の方々は赤い礼装をお召しになる機会が多い、公務や祭礼の際も凡そは赤を基調とした礼装だ。なので青いドレスをお召しになる機会が少ないというのも分かるけれど、私にこのドレスは不要というか、長く着ていると疲れてしまうだろう。
「お言葉だけ、有難くちょうだい致します」
「あら、似合っているのに」
今日は仕方がないとしても次の機会は心底から遠慮したい。また巫爵は階級に属さない、即ち布や飾りの多さを問われることはないのだから軽いドレスが良い。そして装飾の華やかさよりも質の良さを重視したい。
「女性巫爵の皆様がどういったものを着ていらっしゃるのかお教えいただきたいのですが」
「人に寄るわね、それぞれ好きなものを着ているわ。……好きなものしか着ないのよねぇ」
ぽつり、と最後の方はかなり声が小さくなっていたけれど、聞こえてしまった。さすがに社交の場に白衣で出るような猛者はいないと信じたい。
「ありがとうございます、参考にさせていただきます」
それはそれとして服装自由の情報は得た、ならば私が長時間着ていても苦にならない且つ社交の場に出ても問題ない服を調達すれば解決だ。帰ったら父母に服飾店を紹介して貰おう。
そして動揺したりドレスに苦しんだり今後を考えたりしている間に身支度が済んだ。気が逸れていたので抵抗感が薄れ、侍女の手を振り払う、という無礼を働かずに済んだのは不幸中の幸いだ。
「ありがとうございました」
私服より布も飾りも多くふんわりとしたドレスを着て実家の使用人が施すものとは異なる化粧をし、髪を纏めてドレスと揃えて誂えたと思しき髪留めで留めた私が鏡に映る。妃殿下付きの侍女は達成感の隠しきれていない表情をしていた。妃殿下とは骨格も肌の質も違うからやり辛かったに違いなく、王宮付きの侍女の身分が低い筈もないので、もしや伯爵家より上位の家の出身の方であった場合に大変なことをさせてしまった、という思いから、私は丁寧に頭を下げて礼をする。同じく丁寧な礼を返されたので、侍女は既に私を巫爵扱いしているのかもしれない。
この後は移動してまた先程の応接室へ行かなければならないのだけれど、やはりドレスが重い。次から水を持参して湖上の時のように移動に使っても良いだろうか、無作法だから許されないだろうし、ただでさえ低い身体能力が更に落ちる可能性があるから止めた方が良いだろうけれど。
「本日は身に余る待遇をいただき、感謝申し上げます」
退出の際に妃殿下へまた頭を下げる。
「次に会う時の貴女は巫爵だもの、少し早いだけのことよ」
妃殿下はころころと笑っていらっしゃった。
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