第42話 確認
貴女様が可愛がっている第二王子に成り済ましている輩こそが今回の騒動の黒幕です、と言えればどんなに楽だろうか。この国を裏切るのではないし陛下との口約束はどの程度まで有効なのか、とつい考えてしまう。
「先方は最初から私を名指ししてきました。第二王子殿下を巻き込んでしまう結果となり、申し訳なく思います」
私は再び頭を下げた。こう言えば敵対的な態度に変わるだろう、と思ったことは否定しない。今後の対応がやり辛くなるかもしれないけれど、妃殿下も王族なのだ、積極的に関わりたくはない。
「だとしても成人したばかりの、しかも女性を脅威に晒すことに変わりはないでしょう?」
「私が何かを仕出かして魔人種に目をつけられ、その結果としてこうなった、とは思わないのですか」
恐らく、そういう陰口を叩く者は既にいる、そしてその陰口が妃殿下の耳に入っていない筈がない。
「秋に、貴女は自分は聖女ではないと言って使者を送り返してきたわね」
「仰る通りで御座います」
「自分に不利益になることを正直に話す貴女が、我が国へ不当な働きをするとは思えないわ」
妃殿下からしてみればそれもそうなるのか、と頭痛がし始めた。私にとっての不利益は王族の方々に関わることの方なのだけれど、妃殿下を始め凡その者には秋の行動は私の不利益と映る。生き残ることに必死過ぎて客観視をする余裕が私には全くなかったようだ。恐らくまだ見落としがある、今すぐに帰って落ち着いて考えたい。
「あとは、将来有望な人材への先行投資かしら。宮仕えはしない、ということだったけれど、心変わりはない?」
「御座いません」
「残念だわ。でも御礼はさせてちょうだい」
「では陛下にこれ以降の極秘の要請を控えていただきたい、と、どうかお伝えください」
「状況によっては叶えられないから、別のものを考えておいてね」
考えるより関わりを断ちたいのに考えなければならない謝礼が増えた、本当に帰ってしまいたい。
──駄目だ、確認しなければならないことがある
嫌で仕方がないけれど私は一度頭を上げ、部屋に足を踏み入れた後、再三ながら頭を下げた。
「直問をお許しいただけるでしょうか?」
「それを御礼にはしないでね」
何かしら、と首を傾げる妃殿下へ、私が渋っている所為で待たせてしまっている侍女が扉を閉めてから問う。
「妃殿下は、そこの方も、何処まで知っていらっしゃるのですか?」
これを確認しないままでは帰れない。私は誰にも許可を出していない、そして陛下に何事かあったという伝令が王宮を走っていない、つまり陛下は妃殿下やこの侍女へ何も伝えていない。だというのに妃殿下は協力的で、侍女はただ黙って此処にいる。
「何も知らないわ。私も、そこの娘も」
やはりそうなのか、と礼をしたまま続きの言葉を待つ。
「誓約書を見たわ。だから、私も署名する、と言ったのに、させて貰えなかったの」
それはそうだろう、陛下は国の混乱を回避することは勿論だけれど、妃殿下に悲しい思いをさせたくなくて魔王を処断するのを避け、第二王子殿下に成り済ましている現状を容認している。妃殿下に署名を許す筈がない、そして妃殿下に許されないことが、妃殿下付きだという侍女に許される筈もない。
しかしだとするならば、妃殿下からすれば今の私は完全に不審者だ。その不審者が巫爵となり、今を以て王族に関わることを許す上に謝礼までしようとしている。そのことに理解が出来ず、顔を伏せているのを良いことに私は眉を寄せた。
「誓約書の内容をご覧になったのなら、私を逆賊と見做して糾弾する方が自然かと愚考致します」
「でも貴女は国の味方だと、あの人が言ったのよ」
頭を下げたまま私は瞠目した。
私が陛下を敵と見做して警戒していることも、国が私を裏切ったその瞬間に私が報復に出ることも分かりきっていらっしゃるだろうに。
その私を、他ならぬ陛下が敵ではない、どころか、味方だと仰ったのか。
「なら私も信じるわ」
そして妃殿下はそれを信じると仰るのか、陛下を窘めるのも国母の勤めではないのか。
「顔を上げて、すぐに巫爵になるお嬢さん」
どんな顔をして良いのか分からないまま、仰せに従って私は顔を上げる。
「優秀な魔法の使い手が我が国の味方で心強い限りだわ」
妃殿下は屈託のない笑顔でいらっしゃった。
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