第40話 登城要請

 翌朝、月2回程の遣り取りで使われる紙飛行機が町屋敷へ飛んで来た。登城の要請だけれど、極秘会議とするので公にせず、学園の昼休み終わりの鐘が鳴る頃に件の転移で報告の際に使った部屋へ来るように、とのことだった。しかし謁見の為の礼装は自分独りで整えられるものではない。2度も王族に相対するのに相応しくない装いで臨めというのだろうか、と眉を潜めながら読み進めていると、王宮に着き次第で宮仕えしている誓約書への署名はないが口の堅い侍女に服装は整えさせる、との一文まで書かれていた。此方の不都合を読まれている、何が何でも今日中に登城させる心算らしい。この家の使用人以外に身支度をされたくはないのだけれど、通りそうもない。


 本日の予定は2日前までなら休息と明後日にローダネル伯爵領へ帰還する準備、昨日になってからは除爵の準備、今日になったら登城、と目まぐるしく変わっている。少し休ませて欲しい、状況が許さないのも分かるけれど。


 仕方がないので外せない用事が出来た、と断って父母に私本人が必要になる準備の予定を変更して貰う。昨日のことで何かあるのだろう、とは勘付かれただろうけれど、事実として私は何も伝えていないので糾弾されても言い逃れする心算でいる。準備の為に動いてくれていた使用人達にも詫びを入れて、私は町屋敷の自室に引っ込んだ。


 叙爵して家を出れば自分で使用人を雇う必要がある。母も元は市民であり、前世の知識もあるから最低限は自分で出来るようにしてはいるけれど、飽くまで最低限だ、貴族としての作法や生活の基準には遠く及ばない。だから住居を探し、人員を揃えなければならず、またその為に領地を持てない巫爵故に何処に住むか、というところから決めなければならない。恐らくは陛下がお決めになるのだろうけれど、私単独なら最初以外の移動には苦労しないので物理的な距離より質を重視して欲しい、質は良くても王都は嫌だ。自分の意見を徹す為に有力でいた方が都合が良い。幸いにも魔法関連の力と知識量なら誰よりある、そして陛下含め3人がそれを知っている、無下にされることはないだろう。


 最低限の身嗜みの為に服と装飾品を選び終わったところで昼休みが始まる鐘が聞こえた。これから昼食と休みを取って午後の授業が始まる、といっても、貴族の子女が多い学園の午後はそのほとんどが交友関係の構築に充てられるようだ。そういえば私は学園に通う必要があるのだろうか、エティの魔導秘法館に書庫があるし、無制限絶対的記憶力の技能もあるし、不要であればこのまま通わずに済ませたいのだけれど。


 そんなことを考えながら自室を出て、昼食の為に食堂へ向かう。私の成人祝いがまだ尾を引いているのか昼食が少し豪華だ、叙爵祝いが加わったからかもしれない。私本人が叙爵したくない、とは思っていても伯爵家としては我が子の昇進を祝わない訳にはいかないのだろう、複雑な思いで席へ着いた。少し遅れて来た父母と共に食事開始の挨拶をして、滞りなく食事が進み、談話室へ移動してデザートを食べながら少しの歓談をしていれば、もうすぐ昼休みが終わる鐘が鳴る時間になる。父母に挨拶をして自室へ戻り、着替えて薄く化粧をして装飾品を着け、鏡で自分の姿を確かめてからエティの魔導秘法館へ転移、更に王宮の応接室へ再転移した。


「レナ・ウィル・ローダネラ、参りました」


 転移した先の応接室には宮廷魔法導士様が既にいて、私はすぐに頭を下げて礼をする。まだ叙爵前で私はただの伯爵令嬢なので立場が上の方への挨拶は先に行う。叙爵しても宮廷魔法導士様は年上なので、きっとそのままだ。


「呼び出しに応じていただき、感謝する」


 宮廷魔法導士様が礼をお返しになってきた。頭まで下げての丁寧なそれに驚いて頭を上げてしまうと、宮廷魔法導士様は少し困った表情をなさる。


「貴女は、もう既に賓客だという自覚をした方が良い」


 言いながら宮廷魔法導士様が呼び鈴を鳴らし、少し後に入って来た侍女に丁寧に頭を下げられる。陛下をお守りしたことも、鑑定で結構な結果が出たことも公になっていない筈で、こんなに丁寧な扱いを受ける筋合いはないと思うのだけれど、


「妃殿下より巫爵となられる貴女様へのお世話を仰せつかりました。此方へどうぞ」


何故か此処で妃殿下という言葉が出てきた。

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