第32話 鑑定

 父母が誓約書に署名した。因みに内容の書き換えはない。家族を赦したくて血の虚偽断罪陣を使ったのだから、未遂とはいえあれ以上の流血沙汰は必要性ないだろう。陛下をはじめ、私を殺す可能性の消えない相手には容赦が出来ないけれど。


「ではこれより、レナ・ウィル・ローダネラの成人式典を始める」


 首座に坐す陛下が宣言し、宮廷魔法導士様が壁際に置いてある大鏡から保存の為の魔法陣が刺繍された布を取り払った。この部屋は王族の方々が使う成人式典の為の部屋のようだ。そこまでの部屋を使わせていただけることになるとは露程も思わなかったけれど、先の誓約もあるので陛下の配慮に感謝して使わせていただくことにする。


「レナ・ウィル・ローダネラ伯爵令嬢、鏡の前へ」


 父母が見守る中、私は独りで鏡の前に立つ。普通の鏡で私を鑑定しようとすると鏡が鑑定されてしまい、私自身は鑑定されないのだけれど。



鑑定鏡

 鏡に映る者の能力を鑑定する為の魔法道具。

 姓名、人種、能力、保有称号等を表示する。



 鑑定によって目の前の魔法道具はそう表示された。私が他者を鑑定しても同じように表示されるから、私に鑑定が出来ないのは私だけ、ということになる。……この鑑定鏡、エティの魔導秘法館で再現は出来ないだろうか。


「鏡面に触れて下さい」


 式典用なのだろう、丁寧な言葉遣いで宮廷魔法導士様が指示を出してくる。言われるままに私は鏡面に触れた。


「!」


 それだけで魔法素が少し抜き取られる。エティの魔導秘法館の1階で石台に触れた時と同じ感覚だけれど、あの時のように強引且つ大量に抜き取らるようなものではない。前世でいうと採血検査くらいのものだと推測する。

 私から魔法素を抜き取った鏡面は渦を巻き始め、やがて青紫色の文字を表示させた。



レナ・ウィル・ローダネラ

 人種:普人種

 物理強度:弱

 精神強度:耐

 魔法適性:全陰性 (保有:無限 / 保存:任意)

 保有称号:【かげの巫女】 / 【魔導秘法館の主人】 / 【縺セ縺倥i繧後◆縺溘∪縺励>】



「え……?」


 姓名は良い、間違いなく私の名前が表示されている。

 物理強度も、市民の子女より弱いとは元より自覚していた。

 精神強度は、知らなかったからそうなのかとしか言えない。

 魔法適正は、そうなるように私自身が努力したからそれが実って嬉しく思う。


「魔女、ではないが」


 保有称号に問題しかない。


 まず【陰の巫女】なんて称号は『聖光譚』にはない。似たような称号は『光の聖人/聖女』か『闇の魔女』とそれが変化した『復讐の魔女』だけだ。だというのに、目の前の鏡面には間違いなく【陰の巫女】と表示されている。



陰の巫女

 陰性に適性のある魔法素を多大に保有し、その扱いに優れた女性に与えられる称号

 保有技能一覧

 ・魔法素無制限保有

 ・魔法素極速回復

 ・魔法素任意認識

 ・魔法素運用完全制御

 ・魔法素干渉

 ・精神干渉耐性

 ・鑑定



 しかも鏡面の鑑定内容が私の技能で再鑑定された。私が鑑定したものなので空中に文字が浮き、詳細は恐らく私以外に見えていないだろう。そして明らかに称号下の技能が個人情報へ影響を与えている上に、技能に変化がないとも限らない。この鑑定鏡は再現する必要性が増した。


 話を称号下の技能に戻す。


 【陰の巫女】という称号下の技能についてはほとんど魔法関連のものしかないけれど、魔法に限ればかなり強力な技能を授かった。たとえ一つでも普人種でこの域に到達が出来る者はかなり少ないだろうし、この技能全てを纏めて授かれる可能性も恐らく相当に低い。そんな技能を私が授かったことは伏せておきたい、脅威として排除されかねないので。

 例外の一つである鑑定については何故に【陰の巫女】の技能として分類されたのか皆目見当もつかないけれど、有難い技能なので今後も活用させて貰うことにする。


「レナが、エティの賢者……?」


 【魔導秘法館の主人】という称号そのものについて語ることはない、そのままでしかないので。しかし表示されてしまったことで父母に私がエティの魔導秘法館を所有していることが知れてしまった。『闇の魔女』対策に感け過ぎたことと、『復讐の魔女』がエティの魔導秘法館を所有したのが式典の後だったので『聖光譚』本編では表示されず、攻略本も仲間はともかく敵の称号については書かれていなかった為に、私は【魔導秘法館の主人】が称号として表示対象になっているとは気づかずに何の対策もしていなかった。他に鑑定の技能を持っている誰か、例えば『光の聖人/聖女』に私が鑑定されると拙い。これは早急に対処が必要だ。



魔導秘法館の主人

 エティの魔導秘法館を所有する者に与えられる称号

 保有技能一覧

 ・魔導秘法館所有権

 ・無制限絶対的記憶力

 ・誓言内容強化

 ・門番召喚

 ・身分隠匿

 ・収納



 早々に鑑定への対処の緊急性がなくなったのは喜んで良いのだろうか、拍子抜けとは正にこのことだ。


 さて置き他の技能に関しては【陰の巫女】に比べ直接的な脅威ではないけれど、敵にすると厄介なものが多い。籠城され、追えば門番が立ち塞がり、それを超えても罠か暗闇の中を歩き回ることを強要され、歴代主人の創作物や収集物まで使われて抵抗される。私が追跡者側だったら絶対に相手をしたくない、今の私のことだけれど。


「…………これは、何だ?」

「読めませんね」

「こんなことは初めてだ」


 最も問題のある最後の称号に関しては私にも何も分からないし、知れることがあるなら私も知りたい。鑑定結果が所謂ところの文字化けをするなんて誰も思わないだろう。



縺セ縺倥i繧後◆縺溘∪縺励>

 たとえそれが脚本通りの展開だとしても、あんな物語の結末は許せない

 保有称号一覧

 ・『聖光譚』情報

 ・異世界知識

 ・運命改変

 ・言語

 ・強運



「!?」


 再鑑定の結果に思わず息を呑んだ。あの日の夢から今日まで私を動かしてきた情報の根源はこの得体の知れない称号が保有する技能であり、


──日本語!?


その内容だけ前世と思しき世界で使われていた文字で表示された。

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