第29話 真相からの推察
「もう少し、この魔法陣を借りても良いかい?」
私が俯いていると、あろうことか父は血の虚偽断罪陣を起動させたまま出逢った時から今に至るまでの母に対する想いの丈を当人へ語り始めた。母の性格で好きな所、容姿の美しさ、出逢いから変わったところ、変わらないところ、熱が入り過ぎて魔法陣の描かれた紙を握り締めてしまった為に魔法陣が作動しなくなっても気づかずに語り続け、父が語り始めて早々に私が談話室を出たのにも拘らずその後も出てこない父母を案じて見に来た執事に指摘され、漸く魔法陣が作動していないことに気付いて語り足りずに残念がる父と、真っ赤になっている母とがその場に残されていた、とその場を回収した執事から翌朝になって聞いた。
我が父ながら情熱的なお方だ。両親が元の温かい関係に戻り、互いへの愛情の再確認が出来たことに安堵しつつ私が考えていたのは、魔法陣の作動に対する反応からして両親共に魔法素は視えていないらしい、ということだ。ただ執事は視えているかもしれない。
「ごめんよ、レナ。借り物だったのだろう?」
「いえ、本で見たものを、自分で描き写しました」
「本当かい!? まだリムに語りたい愛があるんだ」
どういう本か、自分でも描けるか等の魔法陣に関する質問で捲くし立てられたけれど、言うまでもなく血の虚偽断罪陣はエティの魔導秘法館の書庫で見つけたものを開発室にあった塗料で描き写してきたものだ。4代目もまさか愛の証明に使われるとは思いもしなかったのではないだろうか、何にしろ本は簡単に見せて良いものではなく、図も描かせられものではない。仕方ないので魔法陣の描かれた紙は念の為に回収し、もっと安全な仕様の魔法陣か魔法道具を是が非でも探す、あるいは創るかして父へ贈ることにして、どうにか父を言い包めた私は自室へ引っ込んだ。
昨日に父母を残して談話室を去った後に、何処までが『聖光譚』の筋書をなぞらされたのかを考えていた。
結論は、私が『聖光譚』の内容を夢に見て、前世を知って行動を起こした時までの全て、だ。『復讐の魔女』を生み出す為にローダネル夫妻が必要だったから出逢わせ、『聖光譚』の主人公である『光の聖人/聖女』が生まれる為に父とジェーンという女性が必要だから通じ会わせた。
主人公が必要なのは分かるが、ならば最初からジェーンに逢わせてしまえば良いのにそれをしなかったのは、私という『復讐の魔女』も物語に必要だったからだろう。
最終最大最強の敵役として。
主人公、否、プレイヤーからしてみれば、物語の終わりを飾る最強の敵との戦いは達成感を大いに満たしてくれるだろう。ラスボス系統の敵は全て、倒し甲斐のあるキャラクターに過ぎない。
しかし当人からしてみればふざけた話である、私はその為に母と火炙りになり、終いには斃されるのだから。
何度だって思う、冗談ではない。だから私は『聖光譚』の通りには行動しない。『聖光譚』よりも早くエティの魔導秘法館を手に入れられたのは幸運だ、最悪の場合でも死ぬ前に家族と共に逃げられる。ギリギリまで誰も招く心算はないけれど、計算だけはしておかなければ。
魔法館の清掃、食糧の調達、家具の新調、他にもやることは多い。
15歳の誕生日まで、私に暇はないだろう。
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