第15話 欲しいもの

 エティの魔導秘法館とは、この世界の何処かにある館であり、『聖光譚』では『復讐の魔女』が隠れ住み、その物語の内で復讐を遂げた後に主人公達と対峙する最終決戦の場『魔女の魔法館』でもある。

 今世の私が知っているエティの魔導秘法館は、ある程度は魔法が使える者でないと辿り着くことすら出来ない仕様になっている上に、魔法による仕掛けが館内中に組み込まれているので所有者でないと灯すら点けられないらしい、という噂のある館だ。『聖光譚』の情報と照らし合わせても所有者以外が侵入すると面倒な防犯機能という名の罠が作動するので、概ねはその通りだろう。

 何故に『聖光譚』の夢を見るまで魔法の練習をしたこともなかった私である『復讐の魔女』が、魔法を使わないと辿り着けないエティの魔導秘法館に辿り着けたのかは分からないけれど、魔法素だけなら平均的な普人種よりもかなり多い『復讐の魔女』だから偶然に辿り着いた、と考えている。

 行き方は分かるけれど何処にあるのかは『聖光譚』の情報にもなく、恐らくは国外だろうから、私は無条件出入国自由の権利が欲しいのだ。


「お前は所有が出来るのか」

「夢の中では私の所有でした」


 陛下は頭を抱えてしまった。


「…………まず、出入国自由の権利を簡単に許可することは出来ない」


 それはそうだ、と再び思うし、そう簡単に許可されても陛下の神経を疑ってしまっただろう。


「同行者を必ずつけるのは外せない条件だ」

「それを外していただく、というのが私の望みでございます」


 しかしエティの魔導秘法館への行き方や館内の設備を余人に知られるのは避けたい。万が一に備えて、私は私だけの隠れ家が欲しい。


「他で代えられないか」

「欲しいものは、他にありません」


 将来的に私はローダネル伯爵領を継ぐことになっている。宮仕えになっても代官を雇い、伯爵位は継続する予定になっていた。後継者の教育も受けているし前世の情報も魔法もある、金銭を含む資産に困る予想は今のところはない。爵位も同じく、領民の期待に応えれば伯爵位を維持するのは可能だろう。その前にローダネル伯爵が降爵処分になる可能性は出てきているけれど、ならばこそ余計に移住先は欲しいところだ。

 陛下もそんな少し考えれば分かる私の現状を思い出し、頭を抱えている上に小さく唸り始めた。


「昇爵は」

「公的に陛下をお護りしたのではございません、余人に説明がつかないでしょう」


 昇爵に興味はない。より正確にいえば、ローダネル伯爵が(辺境伯になることはないだろうから飛ばして)侯爵になろうと私の人生に何も影響はない。もっといえば、前世の情報を活用して国に貢献すれば昇爵は自力で出来ると考えている。更に本音をいえば、王族との距離もその分だけ縮まるのであまり昇爵したくない。

 ついでに建前の言葉もあって陛下はお声は唸る、というより呻く、に変わり始めた。


「……かの魔導秘法館を所有したとして、お前に何の益がある?」


 暫くあって、陛下は低く小さなお声で私に問う。


「お前の真の目的は何だ」


 代替案を諦めていないようだ。


 そろそろ頃合いのらしい。私は茶器に残った僅かな香茶を飲み干して咽喉を潤して一息吐く。


「──先に私が何者なのか、をお話しましょうか」

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