第3話 これからすべきこと

 思惑通り、『光の聖人/聖女』はローダネル伯爵の落胤、という私の発言を受けて使者はローダネル伯爵に署名を許すことなく王宮へ帰還した。私は寝間着のまま使者を見送り、使者が帰った後のローダネル伯爵夫婦の修羅場を横目に先程から今現在の騒動に狼狽えている使用人達を宥めながら自室に戻り、これからを思案する。

 あの夢は確かに『聖光譚』というゲームの内容だった、しかし今は現実のこととなっている。成り代わりだろうか、それとも転生だろうか。私が得た情報の中に前の人生と思しきエピソード記憶はなく、『聖光譚』の内容以外はこういう文化の元で生活をしていた、というものだけだ。因みに魔法のない科学中心の世界で西暦2000年から2050年くらいの日本という国での一般人の文化が情報の中心で、それまでの情報は歴史として付随しているという形だった。ただあまりにも他人事の情報というか、一般的に衝撃的な事例にも感情がほとんど動かないので下手をすると前世など存在すらせず、その情報と『聖光譚』のそれがどういうわけか私の頭に流れ込んだだけかもしれない。考えても答えは出ないので取り敢えず前世ということにしておくが、どちらにしろ、私はレナ・ウィル・ローダネラとしてこの世界でやっていくしかないのだろう。


 ならばこの世界で生きていく、その前に生き残る為に行動しなければならない。『聖光譚』の展開通りに進むなら1年後に火炙り、その後にどうにか生き延びても醜い姿で潜伏し、最終的に主人公達に斃される。考えなくても嫌だ、普通に生きたい。部屋に置かれた鏡台を見やれば腰まで伸びた黒髪に黒い眼をした白皙の、少し背の高い少女が映る。これがあの酷い姿になる程の火炙りに遭う、なんて考えたくもなかった。


 とはいえ、現状で私に出来ることは少ない。ゲーム内での身分通りに貴族社会に身を置いていている上に子供の身では物理的、法律的に限界がある。家出という手段も浮かんだけれど『光の聖人/聖女』候補だった私は王宮から完全に目をつけられている。そうなると完全に相手の出方次第で対応を変えなければならない。たかが伯爵家令嬢が王族に勝てる社会ではないのは、14歳まで生きてきて分かりきったことだった。


 なので私に出来ることは考えること、そして──……。

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