第2話 『聖光譚』

 『聖光譚』は登場人物と交流し、協力して敵を倒していくRPGである、俗にいう乙女ゲーではない。主人公は男女から選べるし、登場人物と恋愛することも出来るけれど絶対ではなく選択と分岐による。恋愛するしないに拘らず選択によっては物語に影響が出るので恋愛主体というより物語主体といった方が良いだろう。

 ボスは所謂ところのラスボス、裏ボス、隠しボスに2周目ラスボスを加えた4種類。ラスボスと裏ボスは1周目でも倒せる仕様で、隠しボスと2周目ラスボスは2周目以降に物語の分岐を選択し、指定された条件を幾つか満たすと辿り着く形になる。

 『復讐の魔女』は2周目ラスボスで、ゲームでの適正レベルを参照するならばボス4種の中で最強だ。ゲームでの外見は焼け爛れた肌や足元まで伸びる乱れた黒髪、魔女らしい服装で辛うじて女性と判断し得るような酷い外見なのだけれど、それもその筈、この魔女は15歳で火炙りにされている。


 『復讐の魔女』、レナ・ウィル・ローダネラはローダネル伯爵の長子としてこの世に生を受ける。彼女が14歳の時に王宮の占術師が「ローダネル伯爵の子に光の祝福が降りる」と宣言し、彼女は『光の聖女』として宮仕えとなることが決定した。

 ところが1年後。彼女は内なる能力を鑑定する式典で『光の聖女』ではなく、忌避すべき『闇の魔女』と示されてしまう。彼女はその場で捕らえられ魔女である彼女を生んだ両親と共に火炙りとなる、筈のところを、父親であるローダネル伯爵は落胤がいることを告白し、降爵処分で平民となり、改めて『光の聖人/聖女』を育て上げることを条件に処刑を免れる。ローダネル元伯爵が養う子供が式典で『光の聖人/聖女』の称号を得たことところから『聖光譚』は始まるのだ。

 この事実が明かされるのがゲームでは2周目以降。1周目の終了時に主人公のステータスが一定以上に達していること、2周目の開始からラスボス決定の分岐までに魔女の情報を幾つか集めておくこと、それに加えて幾つかの条件をクリアしてラスボスは『復讐の魔女』に変わる。


 『聖光譚』というゲームで最も後味の悪い内容がこの分岐だ。発端が親切な養父だと思われていた実父の浮気、生きていただけで何もしていない伯爵令嬢とその母の火炙り、復讐を遂げた後は何をするでもなく害になるか否かも分からない魔女になった人間を斃し、『復讐の魔女』以降は口直しになるだろう物語もなく終わる。

 1周目の『復讐の魔女』がどうなっているのかは、設定資料集を兼ねた公式の攻略本にも載っていないので知る由もないが、推察するに設定としては1周目では火炙りにより死亡、2周目以降では何かしらの方法で生存した魔女が復讐を実行、と考えるのが妥当だろうか。ゲームでの呼称が称号の『闇の魔女』から『復讐の魔女』へと変化したのは彼女が再び王宮に姿を現し、王を殺した後に実父を殺し、その一連の事件を主人公達が追う中で彼女の行動が復讐であると明らかになるからだろう。最終決戦も攻略本も、呼称は『復讐の魔女』で統一されている。

 とはいえ今は現実であり魔女になる前の私はそんな未来を望めないので、使者に『光の聖人/聖女』はローダネル伯爵の落胤、という事実の端を掴ませて王宮に送り返すのである。

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