魔女改め巫女の生存戦略 ─暗闇魔法は使いたくない─

ヒコサカ マヒト

1章 運命回避

第1話 夢から覚める

 走馬燈とはこういう感覚なのだろうか、ある物語が高速で脳裏を過る。

 1人の少年、或いは少女が『光の聖人/聖女』として選ばれ、学園に通うこととなり、それから様々な人間関係を経て成長していく物語。

 RPG『聖光譚』の夢を見た。何で、と疑問に思う間もなく、目を開けた瞬間に別の情報処理に脳が占領される。


「!!」


 文字通り跳ね起きて部屋の扉を開け、転がるように走り出て応接間へ向かう。記憶が正しければ今日の筈だ。

 途中でお嬢様、如何なさいましたか、と甲高い声で私を呼び止める使用人達の声が聞こえるけれど今は構っていられない。病み上がりの身体で使用人達を振り切るのは大変だけれど、あの夢が現実ならば間に合わなければ大変なことになる。

 辿り着いた応接間の扉を叩き、返事も聞かずに開け放ち、叫ぶ。


「その署名はどうかお待ちください!!」


 突然に現れた私に、署名しようと羽ペンを握っていたこの館の主人が動きを止める。その夫人が寝巻姿で現れた私に眉を寄せ、王宮からの使者は何事が起きたのか分からずにただ驚愕に目を開いていた。


「このような恰好でその上の非礼をお詫び申し上げます、使者様。ですが今し方に見た夢が現実になるならば、わたくしはそれを防がなければならないのです」


 寝間着の裾を摘まみ上げ腰を折り頭を下げ、服の所為で形にすらならない礼をしながら私は続ける。


「私は『光の聖女』ではありません」

「な!?」


 ガタ、と音を立てて使者が椅子から立ち上がる。


「馬鹿な!! 宮廷占術師が「ローダネル伯爵の子に光の祝福が降りる」と宣言したのですぞ!!」

「仰る通りでございます」

「ローダネル伯爵の子は、レナ・ウィル・ローダネラ、貴女だけではないか!」

「その点が見た夢と異なります」


 声を荒げる使者に私はゆっくりと頭を上げ、その時には既に顔の蒼くなったこの館の主人を冷たい眼で見やる。


「光の祝福が降りるのはローダネル伯爵の落胤です」


 ローダネル伯爵、つまり私の実父が浮気した相手との子が『聖光譚』の主人公であり、

 私、レナ・ウィル・ローダネラは2周目以降の条件付きラスボス『復讐の魔女』なのである。

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