- 人を見たら泥棒と思え -

壱◆9

 昇る朝日が賢者の目元を照らした。調息しながらも一応眠ってはいたらしい賢者の瞼が光に反応し、薄く目を開けた。灰色の目は数秒真正面を見つめた後、何かを探すように動き、私を見つけ、ぱちくりと瞬いた。


「驚いた。一晩中そうしていたのか」

「うっせぇ……」


 賢者が眠る前とまったく同じ姿勢のまま座り込んでいた私は、彼と目が合うとようやく凍り付いたみたいに動けなかった体をほぐすことが出来た。いくら妖怪と言えど、同じ姿勢のまま夜を明かすと体が痛い。


(えへえへ、寝覚め良いタイプか~。っぽい、ぽい!)


 徹夜ぐらいどうということはないのだが、疲弊する私とは裏腹に元気な思考に腹が立つ。


「頭の中でお前のこと語ってたら夜が明けてたんだよ」

「そうか。あらぬ誤解を受けるだろうから人前では言わない方がいいよ」


 冷静を通り越して嫌味な返答に「言わんし……」と小声で返す。凝り固まった筋肉をほぐし、ついでに畳みの上に転がりだらしない恰好でいる私とは正反対に、チャキチャキ動いて布団を畳み終えた賢者が口を開く。


「今日は南監獄に行くよ。大人しくするなら拘束はしないであげよう」

「監獄……しかも南っつーことは、重罪人のとこか」

「ああ」


 扶桑国には、北と南に監獄がある。軽罪ならば北、重罪ならば南と分かれており、南監獄では流刑か斬首の二択しかないと言われる程の罪人ばかりと聞く。巫女時代にも行った記憶は……無いな。


(原作だと設定だけあったけど、結局ストーリーじゃ拾わなかった要素だ……!)


 物語の裏側を見られるかもしれない、という気持ちからそわそわする思考を押さえつつ、前世の記憶を探る。監獄という言葉で思い出せるのは、四体の妖怪と、二人の仙人、それから一柱の神仙で、どれも荒くれた見た目ではあるもののどこか派手な印象だ。


(監獄脱走組は有用な攻撃スキル持ちが多くて、対戦でよく使われてたっけ。そのキャラのフレーバーテキストで初めてそういう場所があるって分かるだけで、実際の監獄の様子は分かんないんだよね、見れるのかな……!)


 前世の記憶もアテにならなさそうだ。そんなところに何の用かと聞けば、賢者は「昨日の金霊狩りの首謀者と思われる人物を確保したそうだよ」と身だしなみを整えながら答えた。


「ほーん……。……ア? どこ情報だ、ソレ?」


 昨晩は一瞬たりとも賢者から視線を逸らしていないのだから、宴の最中に里民から聞いたのだろうか。目を合わす事なく、賢者は私の疑問を掬う。


「夜中に父から連絡が来てね。話しを聞くように言われた」

(脳内に直接声かけて来るシステムなんだ!? しかもパパでしょ、反抗期大変そう……あったのかな、賢者君の反抗期……)

「……高木神仕えも大変なこって」

「いつもの事だよ。まあ、君にはお勧めしない」


 言われなくてもお前と同じ神には仕えん。言葉にせずとも覚の力で視線が合えば感情は伝わり、賢者は「だろうね」と呟くように相槌を打ち、結わえた髪を一度解いて手櫛で整えながら視線だけをこちらに寄こした。


(髪下ろすと結構長いんだねぇ。あの長さと髪型でこそ賢者君なわけだけど、やっぱこうして生きているってことは髪も伸びるわけで、ざっくり切ることもあったりするのかな)

「預言者は監獄については何か言ってるかな?」

(髪はどこで切ってますか?)

「っあー…………よく知らんってさ。黒姫さまとはあんまり関係なかったんだろ」

「……へえ、そう」


 寝返りを打ち、賢者の視線を避ける。脱走者がいることは黙っていよう。黒妖姫の強力な味方になりうる人物たちなのだ、既に監獄を抜けているならともかく、まだ脱走計画を立てている途中だったりしたら、先手を打たれて阻止されかねん。余計なことは言わんに限る。


 黙る私に、賢者は言う。


「天邪鬼。今日は随分大人しいじゃないか」

「いや。ちょっと色々考えてな……」

「うん?」


 一晩考えて思ったが、賢者から逃げるにはもう少し相手に油断させる必要がある。そもそも賢者の守備範囲が広すぎる。今までは私の悪戯にも大目に見て適当なところで解放してくれていたが、神仙の頼みで本気で私を監視している現状では、一時的に逃げおおせても後で必ず捕縛される。昨日のような手が、次も有効とは限らない。打つ手なし、と言ったところだが……。


 昨晩の彼の行動を見て、私は確信した。賢者は未だに、空従の巫女に対して期待がある。妖怪・天邪鬼の中に、模範的仙人の巫女がまだいることを心のどこかで望んでいる。何せ、ちょっと捜査協力してやっただけで(別の思惑があったと分かった上で)賢者自ら拘束を解いているのだ、私が協力的な風を装えば、いずれは油断し切るに違いない。単独行動を許す程に信頼を得て、ついでに賢者の神力を封じられれば、黒妖姫と合流して神仙との約束など有耶無耶にしてくれる。


 私は黒妖姫を理由に部分的に改心したフリをして、しおらしく演じる。


「黒姫さまに関する事なら……ちょっとは協力してやってもいいかと思うてな」

「そうして行く行くは、黒妖姫と合流して共に神仙襲撃してやろうと、そういう魂胆かな」

(わァ)


 ぎくり。最小限にとどめたものの肩が揺れてしまった私は、しどろもどろになりながら「……や、そういうわけではないが」と声を小さくして返すと、賢者は「そういうことにしてあげてもいいけど」と続けた。


「君、何か忘れていないかな?」

「ア?」


 何が? と、相手の方に、チラ、と視線をやり──想像よりずっと近くにいた賢者がしゃがんで私の顔を覗き込んでいたものだから、固まってしまった。淡い桃色の髪が垂れて、私の頬を掠めている。触れているわけではないのに相手の体温で皮膚の表面が反応し、果実のような乳のような日向のような何とも言い難い甘い香りに生唾を飲めば、灰色の大きな目が無邪気に細められた。


(近、あ、ぇ)


 私の意思を無視して、みるみるうちに、顔に熱が集中して熱くなる。きっと真っ赤になっているだろう私に向かって、賢者は優しい声で言う。


「ほら、起ーきて」

(ひゃいっ!!)


 言葉で操られたのかと思う程の勢いで、私は立ち上がった。そしてそのまま素早く後退して賢者から距離を取った。


「っ!? ア!? なんだ!?」

(あざとい賢者君という概念が存在してッ!? やばい震えるぁアアアアアこの耳録音機能がない!!)

「うるッせえ!! 震えるな落ち着け!」


 脳みそ全部それ一色に塗りつぶさんばかりの大きさの前世の思考を、額を柱に叩きつけて黙らせ、わなわなと震える手足を抑え荒い呼吸をする私を見て賢者は小さく噴き出した。


「僕の信者を抱えて、僕から離れられるわけがないだろう? さあ、君も支度を済ませてね。もう出るよ」

(完璧にコントロールされちゃった、へへ……っ)

「遊びやがって……ッあー! お前も喜んでんじゃねえよ気色が悪ィ!」


 前世の記憶を封じたら覚えておけよ。と勇んだのはいいものの、支度をする賢者を眺めていると動悸が激しくなるやら思考がやかましくなるやらで、私は視線を外に向けた。空神は上機嫌なのか、いやに良い天気だった。


 エナンジを出、南監獄へと向かう。隙を見て逃げる為にも、ここは一旦大人しくついていくことにして、私は(当初は後ろについていたのだが、視界に賢者がいると前世の思考がうるせえので仕方なく)賢者の隣を駆ける。


「んで、首謀者が見つかったんだっけ? 誰だったんだ?」


 前世の記憶を探ってみたが、金霊狩りは『常設いべんと』として終わる事なく常に開催されていたので、首謀者が誰だとかどこで誰が買い取ってるだとかは分からず、素直に聞けば、賢者は「弓武ゆみのぶだよ」と教えてくれた。


「弓武って……」

(“武”って、ゲーム内の属性の他にも公職とかって設定じゃなかったっけ。しかも弓か~。強武器に補正かかるから重宝したな~)

「はー……武家が関わってたって?」


 意味の分からん前世の言葉の羅列は無視して、賢者に聞き返す。“武”とは主に真人が就く、治安維持や外敵との戦闘を目的とした役職で、昔は武器ごとの達人に付けられていたが、現在は代々その家の人間が継ぐことから総じて武家と呼ばれる。弓武ということは、弓の達人のその子孫というわけだ。私の問いかけに、賢者は少々苦い顔をした。


「そう。しかも弓武と言えば、現在の武門会同の会長だ」

「ああ、武家が持ち回りでやってる集会か……」

「その上、今回逮捕された弓武は、真人でありながら桃源郷への立ち入りを許可され、仙人になったお人でね」

「っは」


 面白い状況に、思わず鼻で笑ってしまった。


「つまり何か? 神仙のお墨付きの武人が、悪事に手を染めてったって? 人を見る目が無さすぎるだろ」

「君の言い方は癪に障るが、まあ実際その通りだよ。彼女が本当に罪を犯していたのなら、神仙にも影響がある。そこで、僕に調査依頼が来た」

「まさか、隠蔽じゃねえだろーな」


 ニヤつき質問する私を横目に、監獄そのものが見えて来る中、賢者は淡々と告げる。


「神仙からの願いだとしても、僕は嘘偽りに加担するつもりはないよ。罪があるなら償わせ、無いならば真犯人を探すまでだ」


 前世が息をのむ。遠い、しかしあまりにも明瞭な私ではない私の記憶で描かれる賢者の言葉と、その文字から目を離せなかった前世が、嬉しそうに頬を綻ばせた。ああ、そうか。その人の努力を正しく評価しようとする姿勢が、前世の私には好ましかったのか。


(どぅっふ……最高一致の賢者君ありがとう……)


 合掌……じゃねえ! 合わせていた両手の平を振り回して解き、私は好意を全力で放り捨てて抗議する。


「っアー!! 前世を喜ばせるような言葉を吐くな! 付き纏って勝手な想像で作ったお前を本にするぞ!」

「どういうことなのかな、それ……」


 水の上を移動して最短距離で監獄の入り口にたどり着く賢者から数秒遅れて、私は木の幹を渡って到着する。私の姿を見た門兵は警戒態勢になったが、賢者に制されると渋々引き下がった。


「暴れたところで、僕がすぐに制圧するから気にしないで」

「ッチ。まあ、今日は面白いもの見られそうだから、大人しくしてやるよ」


 嘘ではない。前世は勿論だが、今の私自身も、初めての場所というものに些か興奮を覚える。


(へえ〜、地下に向かって縦に長い建物なんだね。もしかして、海に突き刺さってる感じ? 潮の匂いがする)


 どこまで続いているのか見えやしない地下へと続く螺旋階段を覗き込み、私は感嘆の息を吐く。想像していたよりも小綺麗だ、職員たちの生真面目さにはさすがに賞賛しよう。


(下からここまで上がってくるだけで体力使い切っちゃいそう。よく脱獄できたなぁ……それともエレベーターみたいなものがあったりするのかな? 実装されてないキャラもいたりして……)


 実装云々はよく分からんが、黒妖姫の味方になるかどうかは……。まあしかし、ここに収監されているのはどいつもこいつも重罪を犯した者ばかりだ、性根はともかく腕っぷしのある奴も一人や二人ではなかろう。檻の鍵を一つ壊しただけでどれほどの阿鼻叫喚を生み出せるか、想像するだけで浮き足立つ。


(悪い事考えると、賢者君が見つめてくる……んへへ、可愛い)


 おっと。前世と混じった意識の方が先に賢者の視線を感じ取って、へらりと口の端が緩んだことで、私も遅れて刺すような彼の視線に気づく。こと賢者に関しては、前世のおかげで察知能力が上がって助かる。話を戻そう。


「でぇ? 捕まった弓武はどこにいんの?」


 案内をする看守は私の観光気分な物言いに嫌な顔をしたが、賢者と目が合うと姿勢を正してキビキビと「こちらです」と檻の一つを手で指した。


 錆びた匂いのする檻の向こうで、女が顔を上げた。白髪混じりの灰茶色の髪を一つにまとめ、浅葱色の袴を履いたその人は、歳は五十代そこそこに見える。仙人とは思えぬほどの筋肉質な手足は枷で動きを封じられているものの、なるほど確かに武家の者らしい体格だ。前世が反応しないということは、『げーむ』には登場していないのだろう。黒妖姫の物語とは関係なさそうだ。なら気楽に構えてもいいか。


 じいっと弓武を見つめていると、彼女はしばらくして「あら?」と小首をかしげた。手が自由だったのなら、頬に手を添えるような動きをしていただろう、と想像させるぐらいには、私は彼女のその声と、動きを知っていた。


「巫女さまではありませぬか」


 女はそう言って微笑んだ。巫女時代の知り合いらしい。そうは分かっても、名前も、以前の姿も、どんな関係だったのかすら、思い出すことはできなかった。



「弓武。齢は四百年余り。五十二の時、桃源郷に招かれ、神仙から不老長寿の薬を受け取り仙人に。武門会同の現会長……間違いはないね?」


 その場で施設職員から受け取った調書の一部を読み上げた賢者の声に、弓武は「はい」と頷いた。


「形式的なものとはいえ、むず痒いものですね、賢者様」

「まあね。四十七年ぶりか、久しぶり」


 賢者とも知り合いらしい。わざわざ向かい合って正座で話す二人は、間に檻が無ければ玄関先で雑談を交わす知人同士の何気ない日常風景の様だ。檻を背もたれにして立つ私に、弓武は視線をくれると会釈をした。


「巫女さまも、お久しゅうございます。長年の楽し気な御活躍、耳にしておりましたよ」

「もう巫女じゃねえし……お前のことも覚えとらん」

「記憶をご自身で封じられたと噂はございましたが、本当のことだったのですね……」


 心から労しい、という表情をされて、なんとも居心地が悪くなり私は顔を逸らした。厄介者扱いや茶化されることこそあれ、真摯に向き合う者など妖怪人生で一人として会った事がなく、どう反応していいのか分からん。困る私を見かねてか、弓武は「麻幸あさゆきでございます」と名乗った。


 突然のことにその場にいた全員(それこそ前世の思考すらも)が面食らい、慌てて看守が「いけません」と彼女を宥めた。


「真名は、縁を繋ぐ者にしか明かしてはなりませぬ」

「勿論、分かっております。しかし私は真人から仙人になった身。既にこの名は多くが知っております故、妖術や神術に名を使われたとしても、それほど大きな傷は受けません。それに、巫女さまもこちらの名で呼んでおりましたから……」

(だ、だとしても仙人にとって、名前を使われた術って、特攻ダメージ受けるって設定でしょ!? だから皆、役職で呼ばれてるのに、こんな誰が聞いてるか分かんない場所で……)


 そう。人の身でありながら体内に妖力や神力を持つ仙人は、名前を組み込まれた術の効果が大きくなる性質を持つ。勿論、治癒術などの効果も高くなるので、悪い事ばかりではないのだが……攻撃に転じられるおそれの方が強い。故に、近親者や生涯を共にする約束をした者でなければ易々と教えてはならない、のだが。


 それをこんな人前で、悪戯妖怪だと分かっている私の前で、ただ過去がそうだったからという理由一つで明かしてしまう彼女の愚かなまでの善性に、私は堪え切れずに笑い声をあげた。


「っははは! 馬鹿だな、お前! それだけの理由で!」

「思い出していただけましたか?」

「いーや? でもその根性は気に入った」


 にやついても、弓武は怯まない。それどころか、嬉しそうにニコニコしている。肝が据わってやがる。私は賢者の手元の調書を盗み見、「へーえ」とわざとらしく声を上げた。


「金霊狩りの関与を否認か。ま、そうだろうな」

(わざわざ賢者君が呼ばれたんだから、捜査が難航しているとか、何か知恵が必要ってことだもんね!)


 全部に目を通す前に、賢者が調書を閉じてしまったので詳細は分からないが、もう読む必要はあるまい。


「証拠は?」


 横目で賢者に問いかける。彼は数秒考えるように目を伏せた後、顔をあげ「状況証拠ばかりだよ」と答えた。


「君が見つけた金霊狩りの売買所の奴らいわく、取締役が月に一度、領収書を回収しにやって来るそうだ。顔は隠れていて分からない。そしてその人が現れた日に、弓武が外出していた事。その日の動きを証明できる者が他にいない事。大量の金霊を運び移動できる腕力や術を使える事。そして決め手は、売買所の者たちが弓武を見た時に全員が口を揃えて『この人だ』と答えた事……」

「お前は納得してねえよな、それ」

「……まあね」


 やや意外そうな顔をした賢者に、脳内が騒いで(正直何言ってるのか聞き取れん程の大騒ぎだった。脳内で奇声を上げるのはやめろ)顔の熱が上がりそうになり、私は急いで手で顔に風を送り、苛立ちと興奮で妙な表情になりながら続けた。


「武家の人間、それも武門会同の会長が、即日容疑者に上げられるだけでも可笑しいんだよ。よっぽどの荒くれ者なら話は別だが、こいつはそういうのじゃねえんだろ?」

「ああ」

「なら、誰かに嵌められたな。しかも、南監獄にぶち込めるだけの証拠を事前に用意してるっつーことは、よっぽど恨み買ってんぞ」


 人は見かけに寄らねえな。と付け足して、せせら笑う私をしばし見上げていた賢者は、「では、君はどうすべきだと思う?」と問いかけて来た。


「ア? 知らん知らん。私には関係ないし、そっちで犯人捜ししてろよ」

「おや、そうかい。弓武は空神仕えだから、記憶封じの術についても知っているかもしれないが……まあ、興味がないなら仕方がないね」

「まずは売買所にいた奴らに洗脳か催眠の術がかかっていなか確認すべきだな。容疑を否認したい奴だっているはずだろ、全員が顔も知らねえ首謀者を明確に『こいつだ』って売るのは違和感しかねえ」

「よろしい」


 手の平で転がされている気がしなくもないが、一旦そこには目を瞑り、私はきょとんとする弓武に顔を寄せる。


「そこの阿呆爺が私のいらん記憶を掘り起こしてくれやがったせいで、大変なんだよ! 解決したら頼むぞ!」

「あらまあ……」


 それは大変ね、とでも言いたげな顔をした弓武は、「では、私からも一つ」と穏やかな顔をして告げた。


「真犯人を見つけましたら、どうか私の前まで連れて来てくださいまし」

「分かった! 分かったから、絶対記憶封じのやり方、教えてくれよ! 絶対だぞ!」


 檻を両手で掴み、必死に訴える私の襟首を掴んで、賢者は看守に「では、犯人たちの下までお願いします」と話を通すのを聞きつつ、私はギリギリまで何度も「頼むからな!」と叫び、賢者に引きずられてこの場から離れた。



 ……遠く、私の耳が届かなくなった檻の向こうで、麻幸は小さく噴き出した。


「変わっていませんのね、巫女さま……」

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