壱◆4

 騒動の後。


 夜は明け陽が昇り、柔らかい日差しが差し込む頃、予定通り始まった問答の場に集まった神仙の数は七。白神しらのかみ空神そらのかみ誘神いざないのかみ高木神たかぎのかみ陽神ひのかみ火神ほのかみ山神やまのかみ……人神妖の盟約の際に署名した神々だ。それと、白神のひざ元に白神姫がちょこんと座っているのも見えた。自分を傷つけた私がどうなるか、様子見に来たのだろう。


 妖怪一匹相手に層々たる面子に、巫女時代の私なら委縮しているところだが、生憎と、中途半端にしか覚えていない過去の感性よりも好き放題生きた妖怪の感性の方が勝っているらしく(それとついでに、前世の感性も見知った『きゃらくたー』に興奮はしていたが怯えてはいなかった)、私はうんざりこそすれ、特に恐れることなく足を崩していた。


 そんな私を隣に置いて、賢者は神仙に「少しお話があるのです」と切り出した。娘の呪いを解いてもらい上機嫌の白神が「構わぬ。申せ」と了承したのを聞き、賢者は口を開く。


「謝罪を一つさせていただきたく存じます。此度の神位継承認定の儀で、狼藉者が現れることを私は知っておりました」

「……何?」


 途端に空気が張り詰める。神仙の中でも特に発言力の強い者が集まった空間で、よくまあ取り繕うことなく正直に言えるものだ。一方で私の思考は、


(目上の人と話す時は一人称が変わる……! 原作では賢者君より上の仙人との絡みなかったから知らなかった情報が……っ! くそ! 拘束されてなければメモ取ってたのに! 神様との会話も全部メモ取りたいのに! ログ確認できないんだから……ッ)


 よかった、手が自由じゃなくて。遠い目をする私を横目に一度見て、賢者は続けた。


「こちらの天邪鬼が申しますには、未来の事を知り得た、と。夢で預言者が語ったそうでございます。そして彼女は“黒妖姫”なる仙人が儀式に現れると私に告げました」


 静寂。それを、続きを促されているのだと捉え、賢者は臆さず言う。


「そこで私も、未招待ながら式を見守っていたのですが、天邪鬼の言う通りの時間に、かの仙人は現れました。何らかの事情で、白神姫様にかけられる呪いが黒妖姫の想定していたものとは異なる事、そして呪いを解く手順を術者である彼女自身も分からなくなってしまう事、合わせて聞いておりましたので、黒妖姫の動きを注視し、私は解呪することができました」


 一拍置いて、賢者は丁寧に頭を下げた。


「しかしながら、事が起こる可能性を視野に入れておきながらそれを告げず、次期白神様となる白神姫様を危険に晒したのも事実でございます。誠に、申し訳がございませんでした」

「……良い。解呪は叶った。生命を吸われた仙人らも回復の兆しがある。問題はなかろう」

「ありがとうございます。──この件についてもう一つ、お話しておきたい事がございます」


 幼い見目に似合わず、本来の年齢を考えれば妥当に、冷静さを保ち彼はあらゆる展開を想像して進言する。


「私は、天邪鬼の言う預言者の夢は真と判断し、これを持って黒妖姫のこの先の行動を封じる必要があると考えます」

「何故? あやつからは既に力を奪った、もはやか弱き者である。その必要や無し──」


 白神の言葉を、私は鼻で笑う。静かな空間では響いてしまったようで、白神は言葉を紡ぐのを止め、「言いたい事があるなら申してみよ、落ちぶれた巫女よ」と私を指名した。


「いや……お前も娘の事となると甘い事言うもんなんだなぁ、って思っただけだよ。なァ、分かってるか? 、アレ」


 神仙の苛立ちが空気を揺らす。どうせ空従に戻る気もないし、ここで死ぬならばと私は遠慮せず続けた。


「桃源郷の統治者白神。お前の力を少なからず引き継いで生まれた娘が、妖力を一度盗られた程度で何もできずにじっとしてると思うのか?」

「貴様、」

「飛ばした場所も悪かったなァ。それともどこに飛ばしたか分からずやったのか? ナナシ山なんて、妖力の宝庫だ。黒姫さまは必ずここに帰って来る」


 私は知っている。前世が語る黒姫は、情に厚く友人思いである以上に傍若無人で根に持つ性質だ。経験を積んで妖力を取り戻し、多少の障害程度は乗り越えて見せるだろう。私は確信している。


(さあここから神様たちを襲撃だぁ! ってところで更新が止まって運営に放置されたあげく、半年後にはサービス終了のお知らせが来たから、どうなるかは分からないけど帰っては来る!!)


 そう、帰ってはくるがそれ以降どうなるかはさっぱりわからん! 肝心な部分は不明だが、とりあえず神仙の不安だけ煽りに煽って混沌とさせてからこの世から退場しようと、私が更に言葉を重ねようとした時だった。


「申し上げます、申し上げます!」

「何事か」


 部屋の外から天仙が駆け込んできた。修練に修練を重ね、滅多なことでは取り乱すこともないはずの彼らが、冷や汗をかき、慌てて告げる。


「ナナシ山の大王・おぬが、黒妖姫なる者の陣門に降るとの声明を出しました!」


 ざわめく神仙にニヤけていると、隣からの鋭い視線が飛んできた。賢者だ。


「ナナシ山に飛ばされた後、黒妖姫はどうなるか聞いていなかったね」

「状況が状況だったもんなァ? 死ぬ前にお前に一杯食わせることができて、他に望むことは無いね」


 首を伸ばして、目一杯煽る。賢者は僅かに顔を険しくした。


(ナナシ山の大王陰って、編成によってはレベル1の味方三人でも倒せちゃう弱ボスなんだよねー……一応妖力が少しだけ回復するイベントがあったはずだけど、一晩でそこまで行けたってことは、初回ガチャで良いキャラ引けたんだろうね。黒姫さま、仲間運はやっぱりあるな~)


 現実的に考えれば、桃源郷の一角だった山を一つ奪い取った妖怪の長が、妖力を根こそぎ奪われた少女一人に屈したとは思えない。だが、一目でも黒妖姫を見たから分かる。陰はおそらく手を抜いたのだ。彼女が持つ純粋な妖力がわずかでも回復していたのなら、それがどれほど惹かれるものか、妖怪・天邪鬼の私には分かる。


 黒妖姫の妖力が一部回復する事、陰がそれに屈する事……『げーむ』としても現実的にもどうなるか知っていて、私は賢者に全てを言わなかった。当然だ。事前に黒姫の行動を伝えれば、こいつは間違いなく全てを丁寧に潰すに決まっている。そして神仙を守った功績を手に入れるのだろう。誰がそんな事になると分かっていて手を貸すか!


(それに、黒姫さまの活躍が……原作の続きが見れなくなっちゃうのは困るかな!)


 前世女の感性としても、賢者に協力はしないと分かっていた。こいつは賢者の信者ではあるが、それと同時にこの世界が辿る運命の物語を好いている。物語が大きく変わる事に反発があるのも、大方予想がついていた。


 まあ私はこれから死ぬので、黒妖姫の今後が見られないことに変わりはない。これで散々私に恥をかかせた前世女にも、仕返しが出来た。もはや悔やむ事などない。


「さあ、どうなるだろうなァ? 私は知らないよ、知らないな。勝手に怯えて、その時が来るのを待つんだな」


 怒りに震えているのか、霧の形が安定しない白神に向けてニタニタ笑って舌を出す。隣で賢者が握り拳を作ったその時だった。


「──ねえ、それより天邪鬼はわたくしの可愛い空従に戻ってくれるの?」


 場の空気を読まない、おっとりとした声にこの場にいる全員の気が逸れる。声の主は空神だ。妙齢の女性の姿を模った神仙で、緩く結んだ髪を今日は晴天色に輝かせている。


「いや、今はそれどころでは……」

「黒妖姫という子のことで忙しい? 今は屋内にいるみたいだから、よく見えないけれど……でも白神さんのところの娘さんでしょう? ならきっといい子よ。陰大王と打ち解けられるなら、器の大きな子ねぇ」


 くすくすと笑って空神は報告に上がった仙人らを「ありがとう、わたくしたちで話すから、下がって頂戴ね」と帰してしまった。


 まずい。空神の調子に飲まれると、『黒妖姫のことは一旦置いといて……』という空気にされる。そうなると非常にまずい。


 この空神は、一見して穏やかな人柄に見えるが、一度気に入ったものに対する執着が強く、自分の手元に置いておかねば気に食わないという束縛心の強い神だ。過去には、空従や空守の役についていた仙人が引退を決意したのを認めず、四六時中戻って来るようにと追いかけまわし、空神の目が届かない屋内から一歩も出られない生活を強要し廃人にしたという逸話を持つ存在だ。このまま話の主導権を握られては、強引に空従に戻されるのは目に見えている。


「っも、≪戻ってやる≫からな! ──!?」


 言葉が口から吐き出た途端、音を変えた。ぎょっとして賢者を見やるが、こちらも少し驚いた顔をしていて、ゆっくりと灰色の目をある方向へ向けた。視線の先にいたのは長い髭を蓄えた老人──高木神だ。賢者の一時しのぎの解術を無効化したらしい。


 私が口をぱくぱくさせるのを見下ろし、高木神は薄く微笑んだ。


「続けてみなさい」


 勝手に口が開く。神通力で無理矢理にでも言葉を引き出そうとしているのだと分かり、私は抵抗する。


「ッが、あ」


 今声を出せば、全て言葉の意味が反転する。空従に戻るものか、妖怪のまま死んでやる、お前ら神の好きに生きてたまるか──思えば思う程、それらは喉から引きずり出されて、反転する。


「も、もど、≪戻りたい≫、空従になど、私は……ッ、妖怪のまま≪死にたくない≫、お前らの神仙の、≪結果≫通り、≪生きたい≫……ッあ、ぐぐ」


 言葉を重ねていく度、空神は花でも咲かせんばかりに明るい笑みを浮かべて、嬉しそうに前のめりになって、私の頭などひと捻りで握りつぶせてしまいそうな巨大な手で私を包み込んだ。


「妖怪になり記憶を失って尚、わたくしと思いを通わせてくれるのね……! 嬉しいわっ! ねえ、誘神さん、そう思うでしょう?」

「絆の糸はとうに切れておる……お前さんの執着心が相変わらずだな、という感想以外なにも無いが」

「ありがとう!」


 話しを振られた精悍な青年、誘神こと出会いを司る神仙を引かせても気に留めず、空神は苦しむ私をそっと抱き寄せて(賢者の拘束はこの瞬間に解かれたが、逃げ出す前に空神の手指に捕まってしまった)頬ずりをした。細かな傷が神力で焼ける。


(うわーッ! これが、黒姫さまが陽神と握手した時に言ってた『神力でビリビリするわね……』って感覚か~! 痛い~! この体が頑丈でよかったー!)


 良くはねえ! 痛みで暴れる私を造作もなく押さえつけ、空神は満面の笑みで他の神仙に話しかけた。


「これでこの子は、わたくしの可愛い空従に戻ったわ。天仙を目指し、わたくしの傍に仕えられるよう頑張って頂戴」

「待て待て、空神。俺はまだ反対だ」


 慌てて反対意見を出してきたのは火神だ。燃える髪を揺らめかせ、皮膚に細かく走った亀裂から溶岩を覗かせた筋肉質な男は、拳を畳に叩きつけた。


「こやつはうちの火守に嘘を吹き込むだけでは飽き足らず、使いの者を討たせるという非道な行いを指示した! 例え空神への忠誠心が残っていたとしても、到底許せん!」

「火神に同じく、私も反対」


 続けて意見をしたのは山神だ。骨に皮膚が張り付いた、と形容しても過言ではないほどの細い体を隠すように、幾重にも着物を重ね着た老女は、山への信仰と共に、死者への弔いを司る神だ。彼女は俯きがちに仮面の下で口を動かす。


「そもそも、今のは高木神の反転術で言わせた事。仙人としてやり直す気兼ねの無い者を、空従に戻したところで問題を起こすだけ」

「私は彼の者の、“嘘を吐き続けたい”という願いを叶えたまでだ。反転したとしても、吐いた言葉は取り消せないだろう」


 あっけらかんと答えるところは息子とそっくりに高木神は答えると、「貴方はどうか、陽神よ」と黙って事の成り行きを眺めていた女神に声をかけた。


 陽神。扶桑国の統治者で、太陽を司る神仙だ。一見して男性的な容姿だが、本人曰く一応女性の形をとっているつもりらしい。人と神、妖怪、それぞれの立場に対して中立的で、『げーむ』では黒姫とお友達の関係になる程だ。余計な事を言うなよと念を送るが、無駄だった。


「そうですね……私は、天邪鬼が持つ預言者のお話が気になります。賢者……高従のお話を聞く限り真のようですし、黒妖姫の今後の動向を事前に止めるには、その力をお借りしたいですわ」

「なるほど、良い考えではありませんか」


 高木神はそう言って一度賢者に視線をやり、それから白神の方に顔を向けた。


「ならば、こうするのはどうだ? 天邪鬼には地仙としての修練についてもらい、黒妖姫がこれから起こす悪事を止める役を与える。その行動をもってして、もう一度空従に戻すべきか否かの判断しよう。やり直すつもりがあるのならば、地仙としての修練を積みながら黒妖姫の悪巧みも止めることができる、良い手だとは思わないか」


 白神は返答を渋った。代わりとばかりに、誘神が「そういうことなら俺は様子見としよう」と口を挟む。


「俺にはとうに、空従の巫女に対する信頼などない。猶予を与えたところで、こやつには無理だと見切りをつけているんでね。お前たちの好きにしろ」


 まずい。空神の強引な調子に引きずられて、高木神の提案にまとめられて、丸め込まれてしまう。私はまだ不満げな火神や山神に止めろ、と視線を送るが彼らは少し考えてから、「あい分かった」と膝を打った。分かるんじゃねえ。


「ただし、猶予は一年とする。その間に成果がなければ、その妖力を剥いで首を斬る!」

「肉体が朽ちる場所は我が領地を貸す。場所は空けておく」


 七人の内六人が乗ったところで、全員の視線が白神に向いた。白神は少し黙った後、娘である白神姫に「お前はどうか」と問うた。


「わ、私ですか……?」

「お前は天邪鬼に傷つけられた。黒妖姫の事も、天邪鬼が誠実に生きていれば賢者もその言葉を信じ、事前に対処できたはず。お前は天邪鬼をどうしたい?」


 突然決定権を渡された白神姫は戸惑いながら、他の神々の顔を順に見やった。最後に空神を見、それから空神の手に握られ神力で焼かれている私の方を見た。


「私は……反省をしていただけるなら、猶予を与えても良いかと思います……。この者が空従だった頃の話は、聞いてはいますが……なにぶん生まれる前の話ですので、詳しくありませんし……」


 優柔不断ながらも、白神姫は高木神の案に乗り、「それに」と、チラリと賢者の方を見て唇を結んだ。見られた当人は視線を下げていたので(おそらく覚の力を神仙相手に使わない為だろう)気づいていない様子だったが白神姫は白い頬を赤らめて、少しもじもじとした。


(わーお! フラグ立ってる! そうか、二度も助けてもらってるから恋が芽生えちゃったか〜! カプ成立ですおめでとうございます!)


 私をダシにして恋だの愛だのやられて腹が立つ気持ちと、何故か無性にお祝いをしたい気持ちになって、私は内心大きめのため息を吐いた。


 娘の言葉を受けて、白神は言う。


「高木神の案を受け入れよう。天邪鬼にはこれから一年、地仙として修練に励んでもらう。そして我が娘、黒妖姫の動向を探り、止め、これ以上の悪事を企てぬよう諭せ。それらの功績を持ってして、お前を空従に戻すか否かを再び判断する。空神も、よいな」

「仕方がないわ……。天邪鬼、また昔のようにわたくしを信じ崇めてね」


 不満そうに空神は私をそろりと畳の上に戻した。ようやく強大な神力から解放されたが、全身が痺れるような痛みはまだ続いており、私は吠える。


「私は≪戻ってやる≫からな、≪知恵者≫、私は神に≪従う≫……!」


 どんなに悪態吐いても、否、悪態だからこそ言葉は反転して賛辞となり、歯ぎしりをする私を見下ろして、高木神は言う。


「見張りには我が息子をつけよう」

「え」「え」


 私と白神姫の声が重なった。


 一年もこの男と行動しろと? 鬱陶しい事この上ない! 大体、一年をどうにかやり過ごしたところで、反転術がある以上、私がどんなに拒絶の言葉を重ねたところで『神の意向に従い、空従に戻りたい』という言葉になり、空神が大喜びで自分の手元に置くという結論になりかねないではないか!


 私が憤慨する一方で、白神姫はオロオロとしていた。彼女の視線は賢者と親である白神とに交互に向けられている。


「あ、あの、でも、その……賢者様は、そろそろ天仙になっていただいて、常世に来てもらった方が……天邪鬼の見張りなら、他の地仙にお任せしては……」

(おおっと。もしかして白姫さま、賢者君を自分の傍に置こうとしてる?)


 今の賢者は地仙。現世で修行をする身だ。桃源郷には入れても、桃源郷を統治する神の傍には行けないし、天にある神仙の住まいの常世に立ち入りもできない。白神姫が白神の後を継げば、(今回みたいに)わざわざ現世に降りて来て姿を見せない限り地仙と会う機会はほとんど無いだろう。気に入った仙人を近くに置きたいのなら、常世で神の補佐が出来る天仙になってもらった方が気楽に会えるわけだ。


(愛じゃん……本気じゃん……時間できたら描くか)


 そうだなまずはネタをまとめてから……じゃなかった。危ない、かなり思考がつられてきた。


 だが正直、こちらとしても賢者には天仙になってもらった方が助かる。その辺の地仙なら、私の妖術で逃げ切れる。ここは白神姫の意見に合わせて──。


「白神姫さま。賢者と呼ばれる高従だからこそ任せられるのですのよ」


 私が何か言う前に、陽神がにこやかに白神姫を諭した。


「白神姫さまから見れば、一妖怪に何をそこまでとお思いかもしれませんが、天邪鬼はかつて天仙にあと一歩のところまでたどり着いていた仙人。その身に宿し育てた膨大な神力の全てを妖力に変えた妖怪です。本人の性質か、悪戯程度の事にしか使っていませんが、並大抵の地仙では逃げられてしまいます」


 さすがに陽神の統治下である扶桑国で暴れていては、観察もされるか。今まで文句の一つも言ってこないからと舐めてかかっていたが、案外腹に据えかねない思いを抱えていたようだ。


 他の神々に有無を言わさず、陽神は微笑みながら賢者に釘を刺す。


「よろしく頼みますね、高従」

「…………神仙の命ならば、慎んでお受けいたします」


 不服を飲み込んだ間の後に、賢者は丁寧に頭を下げて承った。


 顔を上げた賢者は涼しい顔をして、オロオロとする白神姫に会釈し、それから私に視線をやった。


「それじゃあ。一年、真面目に頼むよ。地仙・天邪鬼」

「誰が≪やってやる≫っ!」


 指を突きつけて断ったつもりが、言葉は反転して受けて立ってしまった。あっ、と気づいた時には時遅し、神々は、


「では、本人も了承したということで」

「お開きにしましょうか」


 などと言いながらぞろぞろと退出してしまっていた。膝から崩れ落ちる私に、賢者が「そろそろ学習しなよ」と声をかけてきたので文句を言おうと顔を上げると、神々に背を押される形で立った白神姫が、私を一睨み(頬を膨らませて、薄っすらと涙目になっていたので怖くはない)して去っていくのが見えた。


(ジェラってる~! かわいいーっ! 原作だと、呪われてるせいか余裕が無くて、ピリピリしてることが多かったから、可愛さ全開の白姫さま見れて感激……!)


 大喜びの前世女の感性がうるさくて、私は頭を掻きむしった。

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