電灯が点くとき惑星で文芸部が手袋を滅多刺した

この話は部活が人の姿を取っているという前提のもと成り立っています。こうなった理由…誰がの項目が文芸部員でなく文芸部だったからです。






とある高校。普段通りの生活を教師、生徒全員が送っていた。ここでは問題が起きることもなかった。


しかし、その裏では多くの教師、生徒に関わる大事件が起きていたのである。



この高校の部活は不思議な存在である。部室にそれぞれの部活の守り神が存在している。ただしそれらは人に姿を見せることはない。例外があるとすれば、その部活が廃部になるとき姿を現すこともあったということである。しかし、廃部になった部活全てに守り神が現れたのではなく、一部の部活のみに現れている。これらの守り神はその部が大きくなるのか小さくなるのか、それとも亡くなってしまうのか…その事を顧問と部員に事前に伝える事が出来る。そんな事があり得るのか。だが普通はあり得ない事が守り神達の存在により実現しているのだ。


今起きている問題とは文芸部の存亡をかけた決闘を生徒会執行部が申し込んだことから始まる。



この高校には現在36個の部活が存在する。それはつまり、この高校には守り神が36柱いるということである。そして、その使いが36体存在する。

月に一度、その月のはじめの新月の夜に学校の異空間内で守り神達による両翼会議が開かれ次の両翼会議までの予定や部の運営についての話し合いが行われる。また、守り神は部の部員数と大会や文化祭等で上げた成果が両翼会議での発言権に大きく影響する。



そして、11月の初めの新月の夜。今月も両翼会議が開催された。今回の議題は現在、数が多くなりすぎてしまった部活数の削減、つまり廃部する部活を決めるのである。この議題は以前から提示されるのではないかと噂されていたが遂に現実となってしまったのである。勿論部員数が少なかったり、成果があげられない部活にとっては悪夢の始まりと言っても過言ではなく、それらには文芸部も入っていた。




「あー!もうヤダ!なんでうちが廃部になる可能性があるのさ。わけわかんない」


そう言って机に座る小さな妖精。この妖精こそ文芸部の守り神である。しかし、部員数の少なさ故に守護する力も両翼会議での発言権も弱くなってしまっている。


「そうは言っても僕たちの部活は部員数が少ないしどれだけ頑張っても成果を出す機会自体が少ないからね。お金もある程度かかるし…」


そう言って妖精がいる席の隣に座る少年。彼は化学部の守り神である。


「いいじゃんアンタのところは。部員数もそこそこいるし、成果だって出してるんだから」


「でもね、リテラ。運動部の全国大会での活躍とかと比べてよ。うちは全然目立たないよ」


ちなみにリテラとはここ最近新しく文芸部の守り神として生まれたのである。先代が部員数激減により急死したものの文芸部がなくなったわけではなかった為、新たな守り神が必要となったのである。部のピンチのとき新たに生まれたリテラを助けたのがこの少年である。その時から二人は一緒にいることが多い。


「あーもー、どーしよー。このままじゃ廃部になるよー」


「はぁ、うちもだよ。一応廃部候補に載っちゃったんだよね」


そんな風に話しているうちに他の守り神達が続々と集まってくる。この二人のように仲が良い者たちは珍しい。よって会話が聞こえてくるのはこの二柱からだけである。


そうしていること数分……


「静粛に。これより両翼会議を始める」


この合図により両翼会議が始まる。元々静かだったが、全員が更に静けさを感じた。得に文芸部と化学部の守り神の近くにいる者たちがそれをもう一つの意味でよく感じたと言えるだろう。


「今回の議題は部活の削減についてである」

 

話している者は両翼会議における最高決定権を持つ生徒会執行部の守り神である。


「今回、両翼の3大代表に全ての部活の活動報告書を提出してもらった。その報告書をもとに生徒会執行部含め7柱で今回廃部候補にあがったものの内から実際に廃部にする部活を決定した。ただし、この結果を聞き不満を持つものには異議申し立てを認める。それでは、発表する」




緊張が走る。それもそのはず。会議が始まりこんなにも早く発表に移るなど誰も予想していなかったからだ。この議題を提示した時から必ず異議申し立てをされる事を考えて今夜中に終わるようにという生徒会執行部の守り神、セシルの行動だ。


「今回廃部とするのは清掃部、ルービックキューブ部、文芸部である」


清掃部は周辺地域の清掃を目的とした部活である。また、ルービックキューブ部は部員がルービックキューブを楽しみ、新しいルービックキューブを生み出して行くという部活である。

「ちょ、なんでアタシの所が廃部なのよ!おかしいじゃない」


「ああ、それにうち…清掃部は地域に貢献する良い部活動じゃないか」


「廃部がどうなるのかは置いといてルービックキューブ部ではない、ルービックキュー部だ。そこを間違えて貰うと大変困るんだが」


三部の守り神達が一斉に抗議する(一つは批判するとこを間違えてはいるが)。そして化学部の守り神も今回廃部の対象にはならなかったものの、文芸部が廃部決定(仮)となってしまったが為にまだ緊張が解けないようである。


「む、本当だ。だがルービックキュー部ではないぞ、ルビルク。ルービックキュー部部だ」


「そんなことはないだろ。俺はルービックキュー部として登録用紙に書いた筈だぞ」


「確かにお前はルービックキュー部と書いた。だが部活登録名の欄には既に部という漢字が印刷されているのだ。だからお前の部活はルービックキュー部部なのだ」


「マジかよ…部が二つ、だとッ…」


いきなり三部の内一部が折れてしまった。これでは本当だったらルービックキュー部となるはずだった物がたとえ今回廃部を免れたとしてもルービックキュー部部であるのだ。今からでも名称を変えなければならない。そんなことであっても彼にとっては損な事…いや、衝撃の事実であったのだ。


「他二つはともかく、うちは違うだろ。うちがなければこの地域の清潔さは損なわれるのだぞ」


「清掃部があることでこの地域一帯の清潔さは勿論高い、だが最近は地域住民や本校生徒等々の意識が高まりつつある上、条例改訂の影響もあり清掃が不要になっているのではないか?」


これはセシルが清掃部の存在意義を否定しているに等しい発言である。いや、どちらかというと現在の事実が清掃部の存在を不必要としているのかもしれない。


「それならば現状維持するためにもこの清掃部が必要ではないか。意識というものはいずれ低下する。また条例があるからと言って全てのゴミが無くなるのではない!」


これは正しい言葉である。それに清掃部は地域の清掃を行っているだけではないのだ。地域住民の生活を支える為、彼らの家や庭その他敷地などの整備を手伝っているのだ。流石にそれは清掃部がなくなると住民に負担がかかってしまう。元々これらは本人がやるべきだが、障害や病気、年齢など様々な要因で出来ない、一人では行えないという助けが必要な人もいるわけである。


「今回、清掃部が廃部となる理由は清掃部の部室が第二校舎にあり、そこは来年から工事に入る第三校舎のクラスになる予定であり、清掃部が持つ道具を収納する余裕がなくなるからである。それに道具と言っても単に清掃のためだけでなく地域住民援助のための物もあり入れられる場所など限られてしまうからだ」


「限られるってことは一応あるってことでいいな?」


「その通りだ。だが、複数箇所に分かれている空き倉庫を使ってもらう事となるが良いのか?それにあまり大きさはないのだぞ」


「ああ、それでも廃部になるよりかは絶対に良い。」


「そうかでは七天柱と共に検討するとしよう。」


七天柱とは以前書いた両翼の三大代表と生徒会執行部で構成される組織である。ここが両翼会議の最高決定権を持っている。

「はぁ、これでなんとか…」


「だが、あくまで保留とするだけなのでどうなるかは分からないことを覚えておけ。結果は来月の両翼会議で発表する」


「ッ、そうだな」


これで精神的ダメージを負っている者と保留となった者を除けば残り一柱、リテラのみである。

「最後はアタシね」


リテラは緊張しつつも堂々と宣言した。勿論廃部を阻止できるかどうかは運次第ということもあるが、望みがないわけでもない。


「ほう、何かあるのか?」


「あったりまえじゃない!」


リテラは考える、ルビルクはともかくクリストフのような地域への貢献があるわけでもない、活動内容にもよるがお金も使うことがある。学校内でも知名度はない。知名度がある部活は大体運動部、文化部の中の大きな部活や活躍している部活、例外として名前や活動内容奇妙…というのか奇抜な部活しかない。学校内で知られていない部活など意外に多くあるのだ。

現在文芸部にそのようなものは当然ない。

しかし、いくつか生き残る方法をリテラは知っている。これまで廃部になった、なりかけた部活の記録を読み漁っていたからこそ思いつくものだった。

それは、活動場所の変更や大会などでの優秀な成績への期待、来年度以降に期待できる新入部員である(期待期待と何度もすまない)。リテラはこれまでいくつかの部活の廃部危機の資料を読んできた。それは自らが廃部危機となってしまった時、乗り切るためにと自主的に行っていたのである。その中で最も廃部を免れている確率が高いのが活動場所の変更である。ただこれは受け入れ先で活動している部活動の意見も絡んで来てしまうので成功率は決して高くない。だがそれらの問題が解決出来てしまえば廃部になることはほぼありえないのである。

これまで文芸部が使用していたのは冰涼館の一角である。冰涼館とは武道館の隣に位置する床が全て畳が敷かれている建造物である。武道館と共に畳上で行う競技が授業で扱われるときに使われる施設である。ここは普段柔道部が使用しているが近年柔道部部員が増加していてこの一角(と言ってもかなり広く使っているが)も使用したいとの申出があったのである。これも廃部候補となった理由の一つである。ここでリテラは第一校舎の作法室に目をつけた。そこは月曜日と土曜日に茶道部が、火曜日と日曜日に華道部が、水曜日から金曜日に新聞部が使っているのである。リテラは作法室を一週間で三日使う新聞部に三日のうち一日譲ってもらう作戦を立てる。


「まず文芸部はこれから冰涼館ではなく作法室を使わせて貰うわ」


「ほう、休日にでも使うつもりか?」


勿論その手もあるが作法室は休日、茶道教室と華道教室をやっている。教室午前なので本来使えないことはないが、午後は使用禁止となっている為使えない。


「まさか。アタシは新聞部から一日貰う積りよ!」


リテラはこう宣言した。新聞部への明確な敵対行為である。


「ぇ…マジ?」


新聞部の守り神、ニューは完全に気をぬいていた。廃部候補にもなく話題にも出てこない。今回は無関係だと思っていたからだ。しかし、いきなり小さな妖精がこの議会で自分のところから一つ曜日をもらうなどと宣言した。驚きと同時に怒りに染まった。


「私から一日奪うとでも?それは許さない!」


「誰も奪うとは言ってませんよ~。アンタがアタシにくれるんだよ」


リテラは奪うとは言わないただで貰うと言った。ニューは理解できなかったが自ら大切な日々を関わったこともない妖精にあげられるわけがない。それにまるで自分が相手にただで渡すように言っており、これがまたニューを怒らせた。


「いいわよ。決闘を行いましょう!私から奪えるものなら奪って見せなさい!」


そう言ってニューははめていた手袋をリテラに投げつけた。いや、投げつけてしまった。偶然にもそれはリテラに直撃し、リテラを地に堕ちさせた。


「アンタ、手袋を投げたわね。いいよ受けて立ってあげる!」


本当はリテラからニューに決闘を申し込む必要があるのだが、ニューは先にリテラに決闘を申し込んでしまった。形式が反転してしまったのである。

そして、リテラは手袋を拾った。


双方に剣が渡された。…がリテラは身体が小さい。渡されたものは長針であった。そう、皆ご存知裁縫道具の一つ長針である。一方、ニューにはレイピアが渡された。レイピアは細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣である。護身あるいは決闘の際の武器として用いられていたものだ。貴族の間では騎士道精神の象徴や、過度の装飾を施された芸術品として扱われた。しかし、今回は装飾はなく至ってシンプルなものである。


リテラは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王(生徒会執行部の守り神、セシル)を以下略…

 そんな冗談を言っている場合ではなくこんなにも不利…勝利不可能な程の圧倒的不利な状況を覆すことなど出来はしない。決闘のルールとして審判が一方が戦闘不能と判断した場合または対戦者が降参した場合のみ決闘が終わるのである。リテラからすれば自分との何十倍も大きい剣をふるニューに勝つことなど不可能としか考えられない。また長針で何度も指したところで戦闘不能になるはずもなくニューが痛みに耐えられなくなるまで突き続ける必要があるのだ。しかし一度でも相手の剣が当たれば撃ち落とされ戦闘不能となってしまう。


「こんな勝負、受けるわけがないじゃない!」


そう言って、文芸部の守り神、リテラはその長針でニューの手袋を滅多刺した。





























だがそれでも、リテラの味方をするものなどそういない。化学部の守り神がひたすら

「こんな不平等な決闘があるか!」

と叫ぶも虚しく会場に響くだけである。




「そうだな。俺も不平等だと思う。お前はどうだセシル」

そういきなり話し始めたのは剣道部の守り神、レイである。彼は七天柱に次ぐ程の発言力を持っている守り神。彼が喋った事で彼とセシルに注目が一気に移った。


「ああ、確かにこれは不平等だな。リテラにも勝ち目はあるが、かなり低くなってしまった」


「その通りだ」


二人の会話は続く。


「だが、リテラが手袋を拾った以上決闘を行う事は決定している。そして決闘は剣によって行われる。不平等な場合代理人を立てることも出来るがリテラの代理もまた小さく、いやリテラ以上に小さいため代理の意味がない」


「そうだな。だから他の方法で決闘を行えばいいではないか。この形で決闘を行えないというのに決闘を行う事が決まっている。それならば他の方法で決闘を行えば全て解決だ」


「ほぼ平等な決闘の形か…ならばこうしよう…」






この決闘の結果がどうなったかは人の知るところではない。人が知ることの出来るものではないからだ。勿論あのルービックキュー部部がどうなったかも知ることはない。ここで起きたことは結果のみ現世に反映される。我々は彼等の決定しか知ることが出来ないのだ。



このような事件がある高校の裏側で起きていた。そんな話である。

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