第16話 埼玉悠岳館
聖陵学院にとって初めての神宮大会。
その戦いが始まった。
初戦の相手は青森上田高校。
甲子園にも出場経験のある強豪校である。
聖陵側のベンチにて緊張の面持ちで待つ選手たちに春瀬監督は、全員の顔を見渡し口を開く。
「よし、まずはこの神宮大会がお前らの実力を見る最初の機会だ そして相手は甲子園常連校 そりゃ緊張するよな」
春瀬監督の言葉に耳を向ける選手達。
「でもな、静岡県大会に東海大会 ここまで勝ち上がってきたって事は決してお前らが全国で通用しないって事を証明してきた事でもある 自信を持て お前らは強い」
その言葉に彼らの表情が変わる。
決して口数が多い訳ではない春瀬監督から出た言葉に、彼らから緊張が少し消えた気がする。
「よし 行くぞ」
『はい!!』
試合開始後の聖陵野球部の選手たちの表情や動きは先ほどまでの緊張が噓のように吹き飛んでいた。
それを物語っていたのが先頭打者の俊哉だ。
試合開始の合図がかかった初球を捉えると打球は快音を残し左中間を真っ二つに割る二塁打を放つ。
続く2番に入った内田も単打を放ち一三塁と繋ぐと、3番宮原は甘く入った3球目を弾き返しセンター前へのタイムリーで1点を先制。
そして神宮大会第1号本塁打を放つと宣言していた4番明輝弘の打席は・・・
「よし」
カキィンと快音を響かせると、明輝弘は確信したのかバットを放り一塁へ走り出す。
グングンと伸びていく打球は、そのまま角度が上がらなかったのかライトフェンス上部ギリギリに激突しグラウンドへと落ちた。
「な・・!?」
確信していた為か走るのを緩めていた明輝弘は、少し慌てながらスピードを上げていくも二塁には行けずシングル止まりとなってしまう。
「オラァ!ちゃんと走れー」
一塁ランナーコーチに入っていた鈴木に言われるが、何も言い返せずにただ黙って一点を見つめる明輝弘。
(まぁ次だな 次こそ大会1号を・・・)
次の打席でホームランを・・・
そう意気込んでいた明輝弘の目の前で振り抜いたバットから快音が響いた。
「あ・・・」
そう言葉を発したのは打席の堀。
堀の振り抜いた打球がレフト方向へ大きな放物線を描くと、レフトスタンド上段へと飛び込むホームランとなったのだ。
「お、おぉぉぉ・・・・」
気の抜けた声を出しながら一塁を回る堀。
しかも満塁本塁打である。
内田、宮原、明輝弘がホームを踏み最後に打った堀がホームを踏む。
そんな堀に最初に近づいたのは明輝弘。
「ナイバッチ堀君」
「あ、ありがとう」
大会1号を宣言していただけあって、何か言われるのではと内心びくびくしていたが意外とも言える言葉にキョトンとしながらもお礼を言う。
「あるぇ 大人な対応じゃんかぁ」
そのやり取りを見ていた竹下が揶揄う様に明輝弘の肩に腕を回しながら言葉をかける。
「打った事実は事実だ チームメイトとして褒めるに決まっているだろう」
「え、お前本当に明輝弘か?熱あんのか?まさか宇宙人に攫われて改造された!?しかも良い方に!?」
「・・・殺す」
明輝弘のおでこに手をやりながら慌てる竹下に明輝弘の右ストレートがクリーンヒットしたのは別の話でいいのだろうか。
ベンチへと戻る明輝弘の後ろではお腹を押さえながら撃沈する竹下がいた。
その後も試合は聖陵ペースのまま進んでいき大量13点を奪う形となる。
投手陣もエース秀樹を筆頭に長尾、鈴木、廉と短いイニングでの継投で青森上田打線を抑ええていき無失点。
結果試合は13対0と大差を付けての大勝となった。
神宮大会初戦を勝利で終えた聖陵の選手らが喜び合う姿をスタンドから見ていた集団がいる。
「あれが聖陵学院か 中々打つね」
「上田の投手陣が酷過ぎな気がするけど」
「まぁ初っ端満塁本塁打含む5失点じゃあねぇ」
1人は眼鏡をかけた端整な顔立ちをした選手が最初に発言をすると、次に発言をしたのは開会式で俊哉と秀樹と会話をした丹羽。
そして最後に発言をした二人に比べて背は低く顔を含めて地味な雰囲気を見せる選手である。
勿論丹羽以外の2人も悠岳館のユニフォームを着ており次戦で当たるであろう聖陵の偵察に来ていたのだ。
「ヒデも3回で降りちまうし よく見れなかったな」
「まぁ序盤で大差付ければ監督さんも継投で行くという欲も出てくるよね」
「そんなもんかねぇ」
丹羽と眼鏡をかけた選手が会話をしている横で、試合中もただ黙って見ていた目が隠れそうになりそうな前髪と若干長めの髪の毛。
暗い感じの雰囲気を醸し出すその選手がおもむろに立ち上がり背を向け帰ろうとする。
すると丹羽がその選手に見ながら呼び止める様に言葉を投げかける。
「どうだ?聖陵は」
そう言葉を発する丹羽に、その選手の足が止まる。
クルリと振り向き丹羽を見ながら小さな声で言葉を出す。
「別に 豊実が面白いからって言うからきたけど 何も感じなかった」
「あはは相変わらずだなぁ北山は ヒデとかトシはどうだ?」
「ピッチャーは豊実達に任せるから良い あの打者は・・・」
俊哉の事になり少し間が開く北山と呼ばれた選手に、丹羽は何かを感じたのかニッと笑みを見せる。
「・・・別に 僕が抑えるから どうでもいいよ」
「の割には間が空いたじゃん」
ニヤッとしながら言葉を返す丹羽。
北山と呼ばれた選手は、それ以上は何も言わずにスタンドから姿を消していった。
彼の名前は北山彰弘。
埼玉悠岳館の背番号を付けるエース。
そして今年の夏覇者である陵應学園を二度敗北させている投手である。
「相変わらずだね北山」
「まぁ口数しゃべる奴じゃないしね 今回はよく喋った方」
眼鏡をかけた選手の言葉に笑いながら反応する丹羽。
「まぁ北山の言う通りさ、俺らは負けねぇけどな」
笑みを浮かべながら言葉を発する丹羽。
そんな丹羽らが擁する悠岳館は大会3日目の二回戦目に当たる。
次回へ続く
青色の下で・・・Third season オレッち @seisyun25
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