第15話 開会式前の一幕

神宮大会が開幕された。

開会式を待つ全国から集まった猛者たちの中には、勿論だが聖陵もいる。

緊張の面持ちで待機をしている選手達だが、数名は違っていた。


(早く始まらないかなぁ)


 その内の1人は俊哉だ。

 開幕を今か今かと待ちわびているようにも見えている彼に、1人の選手が声をかけてくる。


「おう!俊哉―!」


「お、おぉー 竜太郎」


 声をかけてきた主は東海大会決勝で激戦を繰り広げた愛知明工のスラッガー立松。

 2人は仲良さそうに握手を交わし談笑をする。


(トシはすげぇな すぐに色んな奴と仲良くなれる)


 そんな俊哉の姿を少し離れた場所で見ているのは秀樹。

 彼にとって俊哉の誰とでもすぐ仲良く出来る性格が羨ましくさえ思っている。


(そういや俺、昔から友達作るのあまり得意じゃ無かったよなぁ シニアでもホント数人としか野球以外でつるまなかったし・・・いや、むしろほぼあいつ等と遊んでなかった様な・・・?いやマジか・・・)


 秀樹の頭の中でぐるぐると過去のシーンが甦っており、半分自己嫌悪さえも感じてしまう。


(ウソ・・・俺、友達いなさすぎ?!)


 一人ガックシと項垂れている秀樹。

 するとそんな彼の姿を遠くで確認した体格が良く高身長、そして眼鏡をかけた選手が驚いた様な表情を見せると、走って近づいてきた。


「おいおいおいいぃ!!お前まさか・・・!!?」


「え?」


 秀樹と、その選手の目が合う。

 驚きの表情を見せる選手に対し、キョトンとしている秀樹。

 だが次第に驚きの表情を見せていた選手は笑顔へと変わっていく。


「お前、望月じゃね!?」


「は?」


「俺だよ俺!!丹羽豊実にわとよみ!!ほら覚えてんだろ?シニアの時にスカウトした・・・!!」


「丹羽・・・あ」


 奥深くに眠っていた記憶が、一気に秀樹の脳内に溢れかえる。


「丹羽か、ホントに?」


「バッカ!そりゃ俺の台詞だっての!マジかよお前、聖陵だったんかー!!」


 笑い声を飛ばしながら興奮鳴りやまない丹羽豊実と自分を呼ぶ選手。

 その光景を俊哉や立松達は当然目撃していた。


「おい俊哉 アイツってさ・・・」


「うん 丹羽豊実だよ てかヒデと知り合い?」


 俊哉も立松も驚きを隠せないでいるが、俊哉はそれ以上に秀樹との関りがあった事にも驚いていた。


「まさか本当に会えるとはな」


「いや、俺も驚いた」


「しかも神宮大会でな あんときの約束通りになったとはねぇ」


「あはは・・・」


「しかも静岡聖陵とはね 俊哉もいるんだろ?」


「あぁ居るよ おいトシー」


 秀樹の呼びかけに俊哉は立松との会話を終え別れると、そのまま2人の元へと向かう。


「おう俊哉」


「久しぶり丹羽」


「お前ともシニア以来だな」


「だねぇ」


「いやいや まさか望月と俊哉が同じチームとはな そりゃあ強いわけだ」


 2人をべた褒めする丹羽。

 俊哉と丹羽の2人はシニアの全国大会で対戦経験がある為、自然と会話が出来ている。

 すると大会運営の人が選手らに号令をかけ始め、3人も会話を止めて自分たちのチームへと向かおうと動き出す。


「秀樹 俊哉 2回戦でな」


「おう」


「あぁ」


 最後に丹羽がニカッと笑みを見せながら二人に言葉を投げかけると、俊哉と秀樹も同じように笑顔を見せながら答える。

 歩いてい丹羽の背を見ながら俊哉は秀樹と会話をしながら歩きだす。


「丹羽と知り合いだったんだね?」


「あぁー・・・そういや前に話したことあったろ?約束したって」


「そういえば・・・」


「その約束の相手が丹羽だよ」


「え?どういう流れで?」


「実は中学ん時にな、彼奴がスカウトしに来たんだよ 俺と同じ高校行かねぇかってな」


 秀樹からの言葉に驚きを見せる俊哉。


「正直地元の高校以外考えてなかったんだけどよ 迷ったよマジで 新しく高校が出来るからそこに入ろうってさ なんかワクワクしちゃってさ」


「でも、なんで断ったの?」


「んー、やっぱり地元から出るのは考えてなかったし あと逆にさ、そんな高校と対戦してみたいって思うじゃん?しかも強豪校じゃなくて弱小校とかでさ 漫画みたいで超すげぇって」


「無茶苦茶だねぇ」


「トシ 人のこと言えんのかよ?」


「確かに」


 秀樹のツッコミに大笑いをする2人。

 ただ俊哉には秀樹の話す表情をみていて、やはり彼も野球が大好きすぎて仕方がないんだなぁと感じていた。

 スカウトを断った相手と試合で再会するために、しかも強豪校ではなく弱小校で。

 それを思えば、俊哉と秀樹にはそんな共通点があるんだと改めて感じる事が出来た開会式前の一幕となった。


「でもさヒデ 丹羽のいるチームはすげぇ強いよ」


「あぁ・・・ そうなんだよなぁ よくあのメンツ揃えたよな」


「ほんとだよね それに何よりさ、陵應を二度負かしてる相手なんだよな」


「うん しかも二度目は甲子園大会優勝した後の秋大会だろ?」


 二人の会話からわかるように、丹羽のチームは村神秀二率いる陵應学園を二度勝っている。

 しかも二度目は今年の夏の甲子園大会で全国制覇を果たしたあとの秋季大会とあって、全国的にも衝撃が走ったニュースだ。


「きょう勝てば次だよな」


「そうだね」


「まぁ・・・でも やるしかねぇな」


 秀樹の言葉に頷く俊哉。

 彼らが見るのは初戦であり、先を見てばかりでは足元をすくわれかねない事は十分承知の上だ。


「よし、まずは初戦 頼むよヒデ」


「トシもな」


 互いに笑顔を見せながら言葉を交わす。

 そして俊哉達聖陵学院は、初戦へと向かう。


(今日勝てば、次は丹羽のいる関東大会覇者 悠岳館か)


 次回へ続く

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