第14話 明治神宮大会

10月下旬。

春瀬監督と竹下は東京都に来ていた。

二人とも緊張の面持ちを見せており、竹下はどこか落ち着かない様子でソワソワしている。


(やべぇ、今頃になって緊張してきやがった)


在来線に揺られながら、竹下の鼓動も大きくリズムをとるように打つ中、二人が向かった先は明治神宮球場。


「神宮球場・・・」


 そうポツリと呟く竹下の目の前には明治神宮球場と書かれた建物が見える。

 東京のプロ野球のフランチャイズ球場でもあり、大学野球でも使われ超が付くほどの有名な場所だ。

 そんな神宮球場に二人が足を運んだ理由は11月初旬から行われる明治神宮大会の組み合わせ抽選会だ。


 明治神宮大会とは、大学の部と高校の部に分かれて行われるトーナメント大会。

 高校の部では秋季大会で各地区大会を勝ち上がってきた10チームが優勝を目指して試合をする。

 そして聖陵にとっては、この神宮大会が初めての全国大会となる。


(10チームしか出ていなくても、日本中の激戦区を勝ち抜けてきた 強豪校しか居ないって訳だ)


 改めて考えて、ヒリヒリと肌に伝わる緊張感。

 そして見渡せば秋季大会を優勝し勝ち上がって来た高校の威圧感さえ感じる。

 竹下は、そんな高校らと戦えることが恐ろしいと同時に楽しみでさえ感じていた。


「竹下、入ろうか」


「は、はい」


 春瀬監督に促されるように神宮球場の中に入ると、少し開けた空間に大会役員と制服を着た選手とスーツを着た監督らしき人物が大勢いた。

 竹下と春瀬監督が入ると、一斉に目線が二人に集中する。

 その視線に驚きながらも竹下と春瀬監督は彼らに近づいていく。


(すげぇ、これ全部全国から来た高校かよ)


 彼らから醸し出される威圧感にも似た雰囲気を肌で感じながら抽選会が始まるのを待つ。


「では、ただいまより高校の部の抽選会を始めます」


 大会役員だろう、各校の生徒と監督に向けて話を始める。

 役員の男性の後ろには抽選箱が置いてあり呼ばれた順番でくじを引いていくという流れだ。


 北海道代表の高校から順に呼ばれていき、選手がクジを次々と引いていく。

 呼ばれていく高校はどこも聞いたことのある高校ばかりで、竹下の緊張がより大きくなっていく。


「東海地区代表、静岡聖陵学院高等学校」


「は、はい!」


 ついに呼ばれた聖陵学院の名前。

 竹下が若干声を裏返しながら返事をすると、他の高校の選手らが一斉に竹下を見る。


(あれが聖陵学院か 静岡明倭や愛知明工を破って来た・・・)


(初出場の高校か ウチと当たんねぇかな)


 視線を向ける選手らがそんな事を考えている中、竹下は緊張の面持ちでクジの入っている箱へと手を伸ばす。


(どこと当たっても…俺らは常に挑戦者だ!!)


 ゆっくりと手を引き出す竹下。

 彼の手には“6”と番号の書かれたカードを手に持っていた。

 役員男性がカードを受け取ると番号の数を読み上げる。

 そして、聖陵学院高等学校と書かれたボードがトーナメント表の櫓に掛けられる。


「大会1日目の2試合目」


 くじ引きの結果、大会1日目の2試合目。

 対戦する高校は東北地区代表、青森県代表で甲子園にも出場経験がある強豪校青森上田高校だ。

 主将同士が握手を交わし地方記者のカメラマンが何枚もシャッターを切る。


(いきなり青森上田高校かよ でもまぁ、やるしかないわな)


 若干ひきつる笑顔を見せながらシャッターを切られる竹下。

 抽選会が無事に終わり竹下は、安堵の息を大きく吐きながら神宮球場を後にする。


「お疲れ様、竹下」


「はい、ありがとうございます」


 一気に疲れが来たのか元気がない竹下。


「選抜前の良い腕試しだ 思い切って戦っていこう」


「はい!勿論です!」


 春瀬監督の言葉に強い声で応える竹下。


抽選会の翌日に部活動のミーティングにて抽選結果とトーナメント表を発表する竹下。


「初戦いきなり青森上田かよぉ」


「竹下くじ運良すぎ」


「うるせぇな!仕方ないだろ ってか、どこと当たっても強い所ばかりだよ!」


 山本や青木らからツッコまれる竹下は反論をする。

 そんな中、秀樹と明輝弘と俊哉はトーナメント表をジックリと見ながら話をする。


「出場校からみても、青森上田と当たるのはまだ良い方かな」


「まぁな 初日でも北海道聖帝と当たったら面白かったかもだけどな」


「ん?強いのか?」


 秀樹から出てきた高校名に反応を見せる明輝弘。

 すると俊哉が割って会話を入れてくる。


「北海道地区じゃあ甲子園常連校だね 特に一つ下の学年に良いピッチャーが入ったって聞いたよ?」


「ほう楽しみだな 当たるとしたら決勝戦か まぁ行けるだろ」


「そんな悠長な道のりじゃねぇよ明輝弘 初戦勝ったとしたら次戦は・・・」


 楽観的な言葉を言う明輝弘に対し、秀樹が苦笑いをしながら答える。

 その秀樹の目線の先にはトーナメント表で勝ち進めば2回戦で当たる高校に目が向いていた。


「なぁトシ 初戦勝てば次は・・・」


「うん 今年の甲子園覇者、陵應学園を破った高校 埼玉悠岳館だ」


「そんなに凄いのか?」


「まぁ、陵應学園を2度破ってる高校だしね それに、悠岳館にいるよ?全国区の4番打者」


 俊哉のその言葉を聞いて、明輝弘はメラッと闘志を燃やす。


「ほう それは楽しみだ そいつより打てば・・・俺が上に行けるって事だな」


「そういう事 頼むな明輝弘」


「あぁ任せとけ まずは初戦勝とうぜ」


「おぉー」


 闘志をメラメラと燃やす明輝弘に俊哉と秀樹が互いにニッと笑みを見せる。

 そして月日はあっという間に流れていき11月。

 ついに聖陵学院にとって初めての全国大会。

 明治神宮大会が開幕する。


 次回、神宮大会がいよいよ開幕。

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