第13話 センバツへ

 大歓声に包まれた草薙球場。

 その中心にしたのは静岡聖陵学院高等学校野球部だ。


「勝てた・・・」


 そう思わず呟いたのは春瀬監督だった。

 野球部の監督となって数年が経つが、自分自身まさかここまでチームが躍進できるとは思ってもいなかった。

 それも全ては俊哉たちが入学してから始まっていた。


(最初の夏は初めて初戦を突破して四回戦まで出れた その秋は桐旺にボロ負けして各々が課題を見つけ、そして今年の夏は決勝戦まで登り詰めた そして秋季大会は組み合わせもあるが優勝してそのままの勢いで東海大会へ行き、優勝した ホント・・・アイツらには驚かされてばかりだよ、全く・・・)


 ベンチに座りながらここまでの歩んできた道を思い返しながら、最後に笑みをこぼす。

 そしてフツフツと勝利を実感する。


「次は、甲子園だ」


 この瞬間、静岡聖陵学院の選抜高等野球大会への出場が決まった。


 喜びを爆発させている選手達。

 しかしいつまでも喜んでいる訳にはいかず試合終了の為整列をする。


「試合終了!互いに礼!!」


『ありがとうございました!!』


 両校がお辞儀をし球場中にサイレンが響く。

 両校の選手が握手をする中、立松がちょうど並んでいた俊哉と秀樹の元へ歩み寄る。


「俊哉、望月」


「おう、立松」


 秀樹が最初に反応する。

 立松はニカッと満遍の笑みを見せながら秀樹に手を差し出す。


「今日は完敗だ!」


「ホームラン打っといて何言ってんだ」


「結果的にそれだけってことだ!しかもその後は完璧に抑えられたからな!チームも負けちまった」


 本当なら悔しくて仕方がないだろう。

 しかし立松は最後まで笑顔で秀樹と会話をしていた。

 その2人の会話を隣で見ていた俊哉に、すぐに視線を向ける立松。


「俊哉も!今日はナイバッチ!!」


「いやいや 立松の完璧なホームランに比べたら」


「何言ってんだ!あのホームランが出たから聖陵は勢いに乗れたんだ!俊哉の打撃があったからチームに勝ちを呼び込んだんだ!胸を張ってくれい!」


 バシンと俊哉の背中を思いっきり叩くと、やられた俊哉はむせて咳き込んだ。


「あはは、ありがとね立松」


「苗字で呼ばれるのは何かこそばゆいな・・・竜太郎って呼んでくれよ!」


「お、おぅ」


 ニカッと笑顔を見せる立松に俊哉は驚きながら後退りしていた。


「そしたら、竜太郎」


「おう!」


「次はセンバツで会おう」


 手を差し出しながら話をする俊哉に、立松は一瞬驚いた様な表情を見せるもすぐに笑顔になり俊哉の差し出した手をギュッと握る。


「おう!!」


 互いに返事をし合い別れると、立松は彼が戻るのを待つチームメイトらと目が合う。


「悪りぃな、負けちまった」


 ニカッと笑顔を見せながら謝る立松。

 強がっているのが手にとるように判ったのだろう、チームメイトの1人が立松の背中を叩くと彼もまた笑顔を見せながら話す。


「お前だけのせいじゃねぇよ 俺らも実力不足だったんだ」


「あ、あぁ・・・」


「だからよ・・・リベンジしようぜ?甲子園で」


「お、おう!!そうだな!!」


 笑顔で言葉を交わす立松ら愛知明工の選手たち。

 彼らは負けてもなお、最後まで笑顔で東海大会を終えた。


 閉会式が終わり、聖陵の選手らは球場の外で集まっており春瀬監督を中心に囲みミーティングをする。


「ほんとお前らには、驚かされると言うか何というか・・・ ありがとな」


 開口一番でてきたお礼の言葉に選手らは、思わずキョトンとしてしまう。


「監督・・・」


「お前らのおかげで、ここまで来れた これでセンバツはほぼ確実に行けると思う そこに向けて全員が怪我無く今以上の力を付けていけるように頑張ろう」


『はい!!』


 全員で返事をする選手たち。

 そして彼らは春瀬監督の言葉にあった『センバツ』というワードに対し、試合が終わってから一気に現実味がでてきた。


(そうか、試合中は無我夢中で意識してなかったけど)


(東海大会に優勝したって事は・・・)


(選抜大会、甲子園に行けるって事なんだ)


(甲子園・・・)


 来年の3月に行われる選抜高等野球大会への出場をほぼ手中にした事。

 そして何より、甲子園に行けることへの嬉しさに彼らは次第に感じ取れるようになる。

 それは家へと戻る帰路の中まで続き、家に戻って落ち着いたら喜びを爆発させたのはまた別の話である。


「ただいまぁー」


 家へと戻ったのは俊哉と亮斗。

 亮斗とは部屋の前で別れ、俊哉が自室で荷物を置くと何処か時間が止まった様な感覚を覚える。


「あぁ・・・勝ったのか 俺ら」


 今日の試合が終わってから閉会式、そして家に着くまであっという間に終えた感覚だ。

 何処か意識が飛んでいった様なフワフワした気持ちがまだ終えれずにいる俊哉。

 その意識を一気に吹っ飛ばしたのは・・・


「あ、司ちゃん」


 司からのメッセージだった。

 “おめでとうございます!私、とても感動しました!また学校で、色々お話聞かせてください!”

 彼女からのメッセージに俊哉の表情が綻ぶ。

 照れ臭い気持ちと嬉しい気持ちが彼の中に一気に沸き起こる。


「ありがとう また学校で色々話すよ と・・・送信」


 返事を打ち一息つく俊哉。

 そして彼もまたフツフツと湧き上がる嬉しさを爆発させるように、1人部屋の中でガッツポーズを取っていたのであった。


 その翌日、学校で俊哉はネットニュースを見た竹下から知る事になる。


 今年の夏の甲子園大会覇者である神奈川陵應学園が関東大会二回戦で敗退したことを。

 その結果は、神奈川陵應学園がセンバツへの切符が絶望である事を意味していたのであった。


 これにて全日程が終了。

 東海大会は静岡聖陵学院高等学校の優勝で幕を閉じた。


 そして、聖陵学院は次なる舞台。

 神宮大会への出場を決めたのであった。


 次回へ続く

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