最終話
彼女に捨てられるたびに時間を繰り返してきたが、ある時、彼女に変化があった。
私があの男と付き合っていることを知ると「その男、やめた方が良い」と言い出したのだ。いつもの嫉妬だと、最初は思ったが、彼女は緊迫した様子でこう続けた。「そいつ駄目だよ。やばいやつだよ」と。
この世界線の彼女はまだ彼と会ったことはない。なのに何故彼がヤバいやつだと知っているのか。彼女も記憶を引き継いでループしてきたのかもしれないと仮説を立てた。いつからかは分からないが、話すうちに、私がループに気づいていることには気づいていないとわかった。ここ最近はループのことを話していなかったから、彼女がループに気づいたのはおそらく二、三回前くらいからだろう。
今の彼女なら、私とずっと一緒に居てくれるかもしれない。そんな淡い期待を一瞬だけ抱いた。しかし、今まで何千回も裏切られたきたのだ。そう簡単には信用出来ない。今はまだ、恋人を悪く言われて怒るふりをしておこう。
それから三年後。二十二歳になる年に私達は再会する。そこで彼女に、夫から暴力を振るわれていると打ち明ける。いつも通り、彼女は心配してくれた。けれど、いつも以上に深刻だった。
「今からでも遅くない。逃げよう。竜胆」
「……出来ないよ……」
「逃げなきゃ……このままじゃ貴女は死んじゃう」
出来ないと断り続けていると、彼女は「信じて貰えるとは思えないけど」と前置きをして自分がループしていることを打ち明けてくれた。丁度三年後の自分の誕生日に、私が死ぬのだと。彼女がループしていることに気づいたことを確信した私は、いつも通りの台詞を言い、いつも通りの行動をする。
「私はあの人から離れられないんだ。離れたら殺されちゃう。君も、私も」
あの時と同じ台詞だ。
「だから、君のところにはいけない。いけないけど——」
君の愛は欲しい。わがままでごめんね。
そう言って、彼女の唇を奪う。いつものように。
いつもと違うのは、彼女から突き放されたこと。初めてだった。いつもなら流されるままなのに。
「一鶴ちゃんは、私が嫌いなの?」
「違う! 違う……好き……好きよ……大好き……」
「私も好きよ」
「だったらなんであの時私を選んでくれなかったの……」
それはこっちの台詞だ。いつもいつも、裏切るのはそっちだったくせに。今更被害者面しないでよ。
言葉を飲み込み、形だけ謝り、また彼女にキスをする。そして耳元で囁いた。「一鶴ちゃんの家に行きたい」と。彼女は黙って私を家に連れ帰り、抱いてくれた。いつもみたいに優しくなかった。苛立ちが伝わるような、乱暴な手つきだったけれど、それもアリだなと私は思った。
行為が終わると、彼女は言った。「一つだけ、約束して。何があっても死なないって」と。
「……分かった」
小指を結んで交わした誓いは、はなから守るつもりなんてなかった。
「次もその次も、その次も、ずっと、私を助けることだけ考えてね。一鶴ちゃん」
この地獄は何度だって繰り返す。貴女の心が壊れて、私以外のことを考えられなくなるまで。何度でも。
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