第6話

 二十二歳の夏。私は男と結婚した。式には彼女も招待したが、来なかった。

 男はクズだった。その本性を表したのは結婚後で、結婚するまでは良い人だった。一鶴ちゃんはきっと、この外面に騙されたのだろう。


 やがて彼は、私に暴力を振るうようになった。死に慣れていた私は、殴られたくらいの痛みなんてどうってことなかった。多分彼にとって私は、殴られても泣かない気味の悪い女だっただろう。暴力は日に日に酷くなった。

 そろそろまたやり直そうと、ロープを買いに行った日に、彼女と偶然再会した。


「竜胆?」


「一鶴ちゃん……」


 彼女の姿を見た瞬間、涙が溢れた。彼女は心配して、私の話を聞いてくれた。

 暴力を振るわれていることを話すと、彼女は「一緒に逃げよう」と私の手を握ってくれた。嬉しかった。

 そうか、こうすれば彼女は私を求めてくれるんだと私は気付いた。可哀想になれば、追いかけてくれる。でもきっと、可哀想じゃなくなったらまた捨てられる。


「ごめん……それは出来ない」


 DV夫と離れたら、私は可哀想じゃなくなるから。だから私は、夫とは離れられないのだと話した。だけど、貴女の愛は欲しい。愛してるなら、そのわがままにも答えてくれるよね?


「約束して。一鶴ちゃん。私を裏切らないって」


 小指を結んで約束を交わす。その日から私は、夫に内緒で彼女と愛を育んだ。不倫を疑われたことはあったが、会っているのが男じゃないと証明するだけであっさりと疑いは晴れた。


「知ってる? 一鶴ちゃん。同性同士って、不倫にならないらしいよ。だからこれは、何も悪いことじゃないの」


 彼女には何度もそう言い聞かせたが、やはり罪悪感があったのか、ある日突然「もうやめよう」と言い出した。


「裏切らないって言ったのに。嘘吐き」


「ごめん……でも……」


「もう良いよ。一鶴ちゃんがそうしたいなら、そうしようか」


 私は彼女の要求を呑み、彼女と別れた。ショックだったが、平気だった。捨てられた現実は、なかったことにできる。私はそれを知っているから。

 だけどせめて、この世界の彼女が私を忘れてしまわないよう、彼女の誕生日を私の命日として塗り替えることにした。

 一月二十一日。次にまた死に戻りをする時も、その次も、私はわざわざその日を選んで死ぬようになった。彼女の中で私の存在が永遠になることを祈って。

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