第3話 ソレの名は
「お邪魔しまーす」
なにに?
いえ、森に。何かいるかもしれないし。
「ぷぷぅ」
なぜか森に入ってもついてくる。
まぁ、飽きたらどこかに行くでしょ。今のところ無害だし、好きにさせておこう。
さわさわさわ。
木々のざわめき。
木漏れ日の中を抜ける、爽やかな風。
(すごいなぁ、これ、全部ゲーム《作り物》なんだよね)
そう、私は正直忘れていたのだ。
ここが、ただのハイキングコースではなく、ゲームの"戦闘エリア"であることを。
ぴょこん!
少し離れた茂みから白くてもこもこしたモノが飛び出した。
「わ。うさぎ!」
声に応えるかのように駆けてくる、真っ白なうさぎさん。
「わー、おいでおいで!かーわい…」
近づいてきたうさぎさんを見て、
走りながらだんだん大きくなってきたので、見上げて、
「で、でかー?!」
うさぎは驚いて立ち尽くす私に向かって、真っ直ぐに突進してきた。
「きゃ?!」
「ぷ!」
ぽよんっ!
目の前に現れた黄色い盾のようなモノに今や巨大うさぎとなった白いモンスターがぶつかる。
跳ね返されたことに驚いたのか頭を振って、
もう一度突進する巨大うさぎ。
でもまた、
ぽよよんっ!
黄色い盾に跳ね返される。
しばらくそんなやりとりをぼんやり眺めてから、
「あ」
遅ればせながら、自分の背中にあるものを思い出す。
私は、弓使いだ。
現実世界で弓なんて持ったことない。
それにもかかわらず、弓を持って相手を見つめると自然と身体が動く。
そういえば、お兄ちゃんがシステムアシストとか言ってたっけ。
ひゅんっ!
風を切る音がしてすぐ、
どさ、と巨大うさぎが倒れた。
そして鳴り響くファンファーレとアナウンス。
"フローライトは
バルーンラビットを討伐、経験値が入ります。
フローライトのレベルが上昇
Lv.1→Lv.2
アビリティ、"連射"がアンロック
アビリティポイント獲得"
「え、ちょ、なに??」
ゲーム初心者には早口すぎる。
「ちょっと!せめて、もっとゆっくりお願いします!」
とりあえず虚空に向かって叫んでみる。
"… プレイヤーフローライトは
バルーンラビット、先ほどの巨大なうさぎを討伐、
それによりフローライトに経験値が入ります。
フローライトのキャラクターレベルが上昇
Lv.1→Lv.2
未取得アビリティのうち、"連射"がアンロックされたのでアビリティポイントを振り分けることで取得できるようになります
アビリティポイント獲得"
親切仕様だった。
「あ、どうもありがとう」
お礼を言ってから気づく。
さっきの黄色い盾。
あれは…
「キミ、だよね?」
足元で揺れていた、黄色いぷにょぷにょしたソレに声をかける。
「ぷぅ♪」
「ありがとう、助かりました」
「ぷぷぷぅ♪」
ソレは楽しそうに揺れながら、おそらく、返事をした。
「これ、好きかわからないんだけど、干したフルーツってことだし、甘いと思うんだ。よかったら一緒に食べない?」
「ぷぷっぷー♪」
多分、肯定と受け取って、街で買ってきた干しフルーツを分けて食べる。
レーズンみたいな感じ、でも少ししょっぱい?日持ちのためかなにかで味付けがされているのかもしれない。
「もっ、もっ、もっ」
どこが口なのかわからないけど、黄色いソレはうまく食べているようだった。
途端に、目の前にポーン!という音と共にメッセージが現れた。
"イエロースライムが仲間になりました。
名前を入力してください"
「え?えぇ?!」
仲間?なんで?
あ、餌付けしたから?
そんなんでいいの?
頭の中で色々な疑問符が浮かんでいると
"名前を入力してください"
急かされた。
「あ、はい、すみません、ちょっと待って。
うーん…名前、名前…。あれ、さっきこの子の名前なにか言ってた?」
"イエロースライムが仲間になりました。
名前を入力してください"
「あ、それそれ、イエロースライムか。ありがとう」
相変わらずの親切仕様だった。
「うーん、スライムかぁ。スライム…っていうより、この揺れっぷりは、プリンみたいなのよねぇ」
「ぷーりん♪」
なんか発音できてるし。
「よし、決めた。キミは、プリンだ」
「ぷぷー、ぷーりん♪」
まぁ、私らしいネーミングだよね。
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