封印された力

 ミーアは戦場を脱兎のごとく駆け回り武器を直し、傷を治し、兵士たちを守った。その行いは一国の姫とは思えないほど勇敢なものであり、このおかげもあって兵士たちの士気は下がらずに戦況を維持し続けた。

 空の戦いをほぼ制したことで空中からの攻撃がなくなり、地上部隊はより機敏に入れ替わりながら戦うことができた。

 勝利への光が見え始めてきたところで、カナリアは想像していなかった巨大な魔力反応を感知する。


「なんだこの魔力!? ……いや、この魔力は一度みたことがある。そうだ、巨人の力か!」


 カナリアが伝えるよりも先にミーアたちは昇る朝日に巨大な人影を見た。


「な、なにあれ……。ウィーク! あれはなんなの!!」


 問い詰めるミーアの声など一切聞こえてなかった。


「漆黒の槍が俺を導いている。あいつだ……あいつが王だ!!!」


 ウィークは一心不乱に巨人へと迫った。兵士を蹴散らし巨人へと飛びかかると、巨人は巨大な剣を一振。巨大な斬撃がウィークを襲う。漆黒の槍の力で対抗しようとしたが、力の増幅が間に合わず吹き飛ばされる。


「ウィーク!!」


 黄金の槍の光を放出しウィークを受け止めゆっくりと地上におろす。口からは血を吐き声とも息とも言えない音が口から漏れていた。すぐにマグナが駆けつけ状態を確認すると、内臓が破裂し骨が肺を刺していることが分かった。


「少しだけ時間稼ぎをお願いします!」


 ミーアは戦争で何度も回復やバリアを使った。まだ完全に槍を自分のものにしていないため、力の乱用で徐々に回復時間やバリアの耐久性が落ちていた。そのため、ウィークを瞬時に治すことができない。だが、敵は無慈悲にも迫っている。


「ここが正念場か。あれほどの化け物相手なら、俺の本気を見せてやろう」


 マグナが槍で地面を叩くと、体全身から強力な赤い魔力が噴射される。紅蓮の槍はメラメラと魔力を揺らし、マグナの瞳には炎が灯る。


「三騎士、あのでかぶつを倒さなきゃどれだけ兵士を倒したところでこの国は終わりだ。命を燃やす覚悟はできてるな?」

「王国のため、散っていった者たちのため、ミーア様のため、この命を全力で使う!」

「次こそは俺の手で崩壊を防ぐ」

「もう少しだけ本気でやってみるよ。終わればたくさん休めるよね」


 レイは光り輝く翼を、ボルトックは電撃を纏い、ウォースラーは氷の鎧を作り出し、それぞれ最後の戦いへ向けて全力の状態で挑む。


「師匠!」

「ビート、なぜここに」

「あんなの見たら来るしかないでしょ。それに、あいつ止めなきゃ町を守ってたって意味がないし」

「少しでも油断すれば死ぬぞ」

「死ぬ気は毛頭ないって。それに、私だってもう強いんだから」


 紫色の魔力を全身に纏いビートは言った。

 覚悟の決まった目を見てマグナは小さくうなずく。


「俺らで奴を止める。ほかの者はジャクボウ兵士を一歩も町へ通すな!」


 マグナたちと巨人が衝突する。

 ジャクボウ兵士はマグナたちに攻撃しつつも七割の兵士がスバラシアの町に向かって進軍。強化兵士と違い重厚な鎧を身に纏い長槍で叩いても完全に倒すことはできない。同時に強化兵士とは違い不用意な接近をせず確実にスバラシアの兵士を仕留めるため戦略が組まれていた。

 しかし、マグナたちにそれをカバーする余裕はない。三騎士、ビート、マグナが全力を尽くした上でようやく巨人と対等に戦えるのだから。


「我ら三騎士の力を合わせるぞ。――天に輝く三つの綺羅星!」

「一つは空を!」

「一つは海を!」

「そして、大地を!」

『すべての悪を穿つスバラシアの光! 聖なるホーリー三ツ星のトライアングル栄光ストリーム!!!』


 三人が槍を巨人へと向け強力な魔法攻撃を放つ。巨人は魔力を込めた剣でそれをガードするが、完全に受け止めきれず体は後ろへと下がっていく。


「私も本気出さないとね。煉獄の因果よ、今こそ罪人の魂を穿て。カオスクライシス!!」


 天高く投げた槍は空間に無数のゲートを開け、そこから鎖に繋がれた槍が無数に巨人を襲う。


「魂の躍動が炎となり万物を食らいつくす。生命の賛歌、フレイムビヨンド!!」


 巨人の周りを炎が包み、火柱となり天高く伸びる。周囲にいる兵士は鎧ごと溶かされ消し炭となる中で巨人はいまだに戦闘を止めようとはしなかった。この戦場で最強の槍使いたちが全力を尽くしても足止めがやっとであり、攻略法などまったく思いつかない。ただ必死に攻撃をし続けた。そうすることでしか未来を勝ち取る方法がないから。

 しかし、進んだジャクボウ兵士たちは次々とスバラシア兵士を蹴散らしこのままでは数分と持たず町へと到達してしまう。


「ウィーク、大丈夫?」

「ミーアのおかげでなんとかな」

「あれがもしかして」

「あぁ、ジャクボウの王だ。体が変わっても伝わる魔力の感覚までは変わらないようだ」

「じゃあ、あいつを倒せばいいんだね」

「殺さなきゃいけないぞ」

「あいつが兵士たちをぞんざいに扱い、こんな悲しい戦いを発生させたのなら、その責任を取らせなきゃ。ウィーク、力を貸して!」

「やってやろう。俺らの力で!」


 ミーアとウィークも巨人と戦おうとし走り出すが、後ろから兵士たちの悲痛の声が聞こえる。物量と防具の差で押されてしまい作戦が機能せず兵士たちは次々とやられていっていた。


「ミーア、どうした」

「た、助けないと!」

「師匠たちだって完全には抑えきれていない。判断を間違えると全滅するぞ」


 巨人の力は想像を超えるものだった。ずっと力を温存してきたマグナや、力を隠してきたビートが本腰入れているというのに、ここまでの戦いで大きな成長を遂げた三騎士が本気で挑んでいるというのに、足止めだけで勝利の兆しはいまだ見えない。

 どちらかを選べばどちらかで確実に死者が出る。究極の選択を迫られていた。


「わ、私は……」


 その時、じっと傍観していた存在が二方向から同時に戦場へと近づいてきていた。


「ミーア! 隠れてたやつがそっちに向かってる!」

「このタイミングで増援!? 私たちにはもうそんな余裕はないのに」


 突如、閃光が走りジャクボウの兵士たちを一層した。さらに巨人へといくつもの魔法が放たれる。何が起きたかわからないスバラシア軍の前に現れたのは、予想外のものたちだった。


「まったく、武器だけじゃさすがに悪いと思って来たけど。まさか、あんなのまで出てくるなんてね。助太刀させてもらうよ」

「ハーバルト王国の第三騎士団……。それにあなたは」

「久しぶりねミーア。崩壊前に会った以来だね」


 ハーバルト王国はかつてスバラシアと同盟を組んでいた国だ。この戦いにおいても武器や物資の支給をしてくれた。そして、第三騎士団の団長を務めるのはミーアの友であるエレナ・ウェンロード。


「本当にエレナなの? 見違えたわね」

「いっぱい訓練して戦うために髪も切っちゃったからね」 

「でも、第三騎士団はお兄さんが務めていたはずじゃ」

「ケガしちゃってね。代わりとして私が来たの。おっと、身の上話はまた今度。これからハーバルト王国第三騎士団と第四騎士団がスバラシア王国の援護をするよ。それに、ミーアを助けてくれるのは私たちだけじゃない」

「えっ?」


 エレナが空に指を向けると、そこには竜騎士たちがやってきていた。


「おーーい! ガルガリアも増援に来たぜ!」

「ガルガリアの天空勇士!?」


 ハーバルト同様に今回の戦いで支援を行ってくれた王国ガルガリア。空での戦いを得意とする天空勇士たちがやってきていた。スバラシアの援護という目的もあるが、同時にジャクボウが空船を開発している国を支配した話を聞きつけ、空の治安を守る者として明確にジャクボウに対し宣戦布告をしたのだ。


「ほら、早く巨人にところへ。私たちじゃあんなでかぶつ倒せないけど、二人がもってるその槍なら人を超えられるんでしょ。兵士や騎士は私たちに任せて」

「えぇ、このお礼はかならず」

「女王になってからたんまりと返してもらうからね~!」


 ミーアとウィークは巨人の下へ向かう。すでに三騎士もマグナたちも疲弊し一つの油断で誰が死んでもおかしくない状況。


「弱い、弱いなぁ~。いや、巨人の力が強すぎるということか。もう槍など必要ないわ! 巨人の力さえあればこの島にある国をすべて納められる。そして、大陸へと進軍するのだ」

「随分と大層な野望を抱いているようだが、お前は槍の力を根本的に理解していない」

「過去の英雄が何をほざくか。貴様もあの槍がなければただの人。所詮は巨人の力の前には無力だ」

「俺の過去を知っているか。確かに当時ほどの力はない。だが、次世代に槍を託したのは無駄じゃなかったさ」


 巨人の肩を二本の槍が貫く。一つは黄金、一つは漆黒。


「貧弱な姫と没落した王子がァ! 手を組んだところでこの俺に敵うものかァ!!」


 巨人の体は体内に宿る力で回復していき貫いた箇所は完全に治癒していた。


「俺は貴様を倒すために槍を手にし、一度は殺した。だが、まだ未熟だった俺は完全な消滅ではなく肉体の破壊で終わらてしまった。今回は違う。完全に貴様を消滅させる!」

「あなたが殺したすべての人々、生活を奪われた人々、ぞんざいに扱われた人々。そして、支配欲に飲まれたジャクボウ王国を作った責任。あなたの死をもって償わせるわ!」

「大地に眠る巨人の力をたかだか人が使う武器で勝てると思っているのか。その驕りは正してやらねばな」


 ミーアは槍を掲げ黄金の光を放つ。疲弊していたマグナたちの体も魔力も回復させ最終決戦に挑む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る