前線の戦い

 大砲、弓、爆石による攻撃は想像を超える勢いで敵兵力を削いでいった。そもそもこの作戦は強化兵士という捨て駒のように扱われる存在に対して提案された特別な作戦。もし、相手に優秀な軍師がいたならば通用しないし、広範囲に広がる魔法を得意としていたならば爆石は簡単に除去されていたことだろう。戦いの始まりはスバラシア王国のリードで進む。

 

 ジャクボウは大量に散っていく兵士たちを見てさすがにまずいと思ったのか、魔法使いが前の方へと現れバリアを展開し上空の攻撃だけでも対処しようとするが、全域をカバーすることはまず不可能。そのための面に対する攻撃なのだ。

 MCICには魔力の動きと兵士の動きが手に取るようにわかる。カナリアの情報から大砲兵と弓兵は射撃の角度を計算し攻撃を放つ。使い慣れていない兵器や武器でここまで精密な攻撃ができるのはカナリアのおかげでもあるが、同時に兵士たちの練度のおかげでもある。

 しかし、突如としてジャクボウ側に強力な魔力反応が現れた。それは同時に生物反応でもあり次々と町に向かって進んだ。


「このスピードで爆石の影響を受けないってことは。――竜騎士が向かってきてるわ。弓兵は上空に警戒を。大砲はどうせあたんないから地上攻撃に集中して!」


 その時、黒い竜を先頭に深緑の竜の大群が目視できる範囲で百以上は迫ってきていた。


「ミーア様、ここは私が対応します」

「一人であれと互角にやれるの?」

「優秀な兵士たちのアシストもありますからだいじょうぶです。しかし、危険ですのでいざとなればすぐにでもバリアの展開を」

「えぇ、レイも危なくなったすぐに下がって。あなた共に王国の未来を見たいから」

「その言葉があれば私は不死身です。――制約解放、天空界! 飛翔!」


 レイはこの数日で制約解放をさらに向上させていた。光の翼を纏い髪の色は銀へ。これはマグナが見せた制約解放のさらなる成長の姿だった。

 空へ飛翔し竜騎士たちへと挑む。飛行スピードはレイの方が上だったがいかんせん数が多い。竜騎士は槍の先端から魔法を放ちレイを狙った。それと同時に待機している地上部隊へと攻撃をしかけた。


「黄金の槍よ、みんなを守って!」


 地上部隊を覆うバリアを展開し守りに徹するが圧倒的な攻撃を前にこのままでは大砲部隊の手が緩んでしまう。それを危惧したウィークは槍を投げた。槍は一人の竜騎士へと直撃し、まるでウィークは槍に吸い寄せられるように空へと飛んだ。


「こういう使い方もあるのさ」


 槍は使用者の元へと戻ってくる性質がある。同時に使用者は槍の下へと戻る性質も備えている。これこそウィークが槍を完全に手放せなかった原因でもあったが、今はそれに身をゆだねた。

 貫いた騎士落とし竜を操るとそのままレイの援護に回る。空中戦が激しくなる中、ジャクボウ地上部隊は第二設置エリアを超えようとしている。依然、捨て身による爆石除去だったが、カナリアの情報によれば後方の部隊が前に移動していた。


「姫様、想像しているよりも向こうは早く到着しそうです。こちらも前進しましょう」

「もう少し待って。いま前進したら竜騎士部隊の的になってしまうわ」

「しかし、待っていれば前線は町に近づいてしまいます」

「……もう少しだけ、あと少しだけまって。二人ならなんとかしてくれる」


 レイが囮となり周囲の注目を集めている間、ウィークは漆黒の槍で次々と兵士たちを貫いていく。百人の竜騎士部隊は見る見るうちに減っていき残り五十を切っていた。

 黒い竜に乗っていた騎士が槍を掲げると、一斉にウィークへと強力な魔法が放たれた。気づけば包囲されており騎士たちは仲間がやられている中、恐ろしいほど冷静に陣形を作り上げていた。


「ちっ、この包囲はきついな」


 レイも援護をしようとするがウィークに視線が向いているとはいえ一瞬で倒せるのはせいぜい数人。攻撃を完全に止めるのは不可能だった。ウィークは竜から飛び降りることを決意した瞬間、真後ろに誰かが乗り込んできた。


「くそっ! 離れろ!」

「わ、私だって!」

「ミーアか!? なんでこんな危険なとこに」

「私なら攻撃を防げるわ!」


 魔法が放たれると、ミーアは黄金のバリアを周囲に展開しすべての攻撃を受け止めた。攻撃が効かないことを悟ると騎士たちは自陣へと戻っていく。


「ミーア様、このような無茶をしては心配になりますよ」

「ごめんね。でも、ウィークはこれからの戦いに重要になる。こんなとこで負けたらだめなの」

「わかってますよ。でも、やはり心配にはなります。一度降りて体制を立て直しましょう」


 戦いは第三設置エリアの突破からが本番。当初の予定通り強化兵士たちは目的に対してまっすぐに進んでくる。そこに複雑な思考はなく見えない攻撃に対する対策は一切取らない。逆に弓矢の攻撃は人間を大きく超えた反射神経で避けていくが、それも大雑把なもので混戦となった際に隙になる。

 

「全員聞こえてるかな。第三エリア突破されたよ。もうじき先頭の部隊が目視できる。地上部隊を前進させて大砲の準備をしつつ地上戦に移行して」


 次なる戦いは地上部隊の殲滅。前線を留めておきながらあとからやってくる者たちを大砲で一掃。地上にはこの戦いで重要な七人の槍使いを中心に繰り広げる。ミーア、ウィーク、マグナ、ボルトック、レイ、ウォースラー、ビート。この七人が前線においての最強の矛であり同時に盾でもある。

 民から兵士になった人々はマグナの提案により身の丈の数倍ある槍を持ち横に並ぶ陣形を取り戦う。槍の本来の使い方は突くことにあるが、この長槍は叩くことに重きを置いており、その威力は突くよりも強い。

 本来の兵士たちは常に多数の相手と交戦しなければいけないために、お互いに周囲を見渡せるよう集団を崩さず、ほかの集団と連携を取りながら敵の攻撃を確実に把握し戦闘を進める。


 地上部隊が接近し、スバラシアも前進し衝突する。異常な身体能力を誇る強化兵士の前にスバラシアの兵士たちは次々と傷つけれていくが、弓兵が隙を作りミーアが傷ついた兵士たちを回復していく。

 その間六人の槍使いで一人当たり何十人も相手しながら前線を押しとどめる。

 ジャクボウも強化兵士を乱雑に進めるのではなく、騎士たちを前線へと移動させウィークたちを先に仕留める作戦へと移行した。



「ジャクボウ十二英傑の一人ベラーザだ。お前は三騎士のボルトックだろ。俺と勝負しろ」

「十二英傑、ジャクボウの精鋭部隊か。いいだろう。なぜ我々が三騎士と呼ばれるか見せてやる」


 レイとウォースラーもそれぞれ十二英傑の一人と対峙し激しい戦闘が始まる。

 しかし、カナリアは難色を示した。


「魔力反応が強い。向こうの猛者か。しかし、これでは前線の主戦力が単独の敵に向いてしまう。マグナとビート、それにウィークだけで留められるか。どうせマグナもまだ本気を出そうとしていない。下手をすれば町まで攻め込まれるぞ……」


 衝突し最初こそは優勢であったが、圧倒的な物量の前に徐々に押されていた。長槍兵も近づかれれば意味がない。基本的な訓練を終えてない民から兵士鳴った者たちでは短剣で相手を倒すことは不可能。それが強化兵士となればなおさら。隣の仲間が倒れていく様を目撃し士気は下がる一方だった。

 そこにいち早く駆け付けたのはミーアだ。戦場駆け呼吸を荒くしながらもなんとかバリアで相手の侵攻止める。


「姫様!」

「傷ついた人たちは一旦下がって!」

「ですが、このままでは防戦一方ですよ」

「みんなで生き残って未来を勝ち取るのよ!」


 そんな時、一人の兵士が落ちていた剣を手に取り強化兵士に立ち向かった。素人剣術ながらも必死に立ち回り一人二人と仕留めていく。ほかの兵士たちもそれに鼓舞され次々と敵兵士目掛けて突っ込んだ。


「何してるのよ!」

「姫様、生き残る約束は果たせないかもしれないですが、未来を勝ち取る約束だけは絶対に成し遂げます。ですから、いまはあなたがやるべきことをしてください。我々も我々のできることを全力で成し遂げます!」


 目の前で兵士たちの命が散っていく。血しぶきが舞い、地面には多くの死体が転がる。兵士たちは仲間の屍を踏み果敢に挑んだ。


「私のやるべきこと……。わかったわ。みんな、頼んだわよ」


 ミーアは槍を投げ前線へと舞う。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る