第11話 取り調べ結果
翌日、スッキリと目が覚めたアルカは、寝起きの悪いキョウが起きるのを優雅に待ち、二人そろって、再び第二区画をあちこち見て回った。
その日の夕方、情報端末に、関係者の事情聴取が大方終わった、との連絡が入った。
次の日、休日で緩んだ気を引き締めて、本部に向かう。
部屋に入ると、大護がにこやかな笑みを浮かべていた。
「時間はかかりましたが、取り調べは終わりました。報告書が届いていますので、目を通しておいてください」
情報端末に大量のデータが送られてくる。その量にアルカは眉をひそめる。キョウにいたっては、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
キョウは放っておくと報告書を適当にしか見なさそうなので、アルカはキョウを伴って報告書を読み始める。
「概要は、未来科学技術工作研究所の社長を含む、計21名が事件に関与していた。目的は魔力自動車の転売。転売先は複数あり、現在捜査中、ってところかな」
「アタシ達も転売先の捜査に加わるのか?」
「わからないけど、多分そうだと思う」
この事件にそれなりに関わって来たため、継続で捜査する方が良いのではないか、とアルカは考える。
「聞き込みの時は頼りにしているよ、キョウ」
「落書きの件は偶然の産物だろ。アテにされても困る」
キョウはムッとした顔をした。対してアルカはニコリと笑い、報告書を読み進める。
「容疑者の数名は証言をしているが、社長をはじめ、残りは黙秘しているため、事件の全体像は未だ掴み切れていない、だってさ」
「黙秘している人物は全員、神意教の教徒って書いてあるな」
「神意教か」
神意教と聞いて二人は何とも言えない顔になる。アルカ達を育ててくれた人は神意教の神官であり、同時に機動隊を、死神を敵視しているのも神意教なのだ。
互いに複雑な思いを抱く。キョウはその空気の変化を感じ取り、すかさず話題を元に戻す。
「神意教はいいから、証言のまとめを見てみようぜ」
「そうだね」
アルカもキョウの提案に乗り、証言が書いてある部分に視線を落とした。
社長含め、内部事情を知っていそうな容疑者は口を割っていないため、それほど内容は多くないようだ。
窃盗の実行犯の内、機動隊員の二人は、金のため、という分かりやすい動機だった。金遣いが荒く、金銭的に困っていたところに、声を掛けられたそうだ。声を掛けたのが、公園にいたリーダーの男で、元機動隊員で二人と面識があったことが判明している。
リーダーの男は、世間話はするが、肝心なところは黙秘している。ちなみに死神にはかなり珍しく、神意教の教徒であることは話しているそうだ。
「へー。あの人も神意教だったのか。珍しい」
「私たちも人のこと言えないでしょ」
育ての親が神意教の神官なので、当然アルカとキョウの二人も神意教の教徒である。元々熱心な教徒ではなく、都市にやってきてからは、何があっても生き残れるように訓練ばかりしていたため、神意教に死神がほとんどおらず、むしろ嫌われていることを最近知ったくらいなのだ。
なんとなくシンパシーを感じつつ、次の証言に目を通す。
「鍵屋の主人は協力するよう、脅されていたのか」
最初は、機動隊の極秘任務だ、と言われ開錠に協力したが、実際は犯罪の共犯に仕立て上げられた挙句、通報したら殺す、と脅されていたようだ。逮捕された今は、むしろホッとしている様子で、捜査に協力的なのだそうだ。
「どちらかと言えば、この人も被害者みたいなものだな」
「どれくらいの罪になるのかな?重くないといいけど」
普通の人よりはるかに強い死神に脅された上に、しかも相手は機動隊員なのだ。機動隊の内部に共犯者がいる可能性もあった為、通報もできず、おとなしく従うしかなかったのだ。
アルカの言葉にキョウも頷く。
「犯人の機動隊員二人はどれくらいの刑罰になるんだ?」
「うーん、どうだろう。大護さんに聞いてみようか」
わからないことは大護にまとめて聞くことにして、報告書を読み終える。
大護に読み終わった報告とともに質問をした。
「犯人の機動隊員二人と、あの企業に所属していた死神は、機動隊の懲罰隊員として取り扱うことになるでしょう」
「懲罰隊員?」
「はい。罪を犯した死神は、原則的に懲罰隊員として服役することになります」
懲罰隊員とは、基本的に業務は機動隊員と変わらないが、自由と給料がほとんどないらしい。部屋は独房で、嗜好品の類は無く、時間も食事も徹底的に管理された状態で生活しなければならないとのこと。
懲罰隊員が生まれたきっかけは、万が一の時、罪を犯した死神を鎮圧するのに死神が必要なこと、普通の刑務所に入れると刑務官や他の囚人が危険にさらされる可能性があること、数少ない死神を刑務所に入れるより不死者討伐に一人でも多くの戦力が必要だったこと、などの理由があり、今でも存在するのだ。
「懲罰隊員なんてあるのですね」
「機動隊の恥みたいなところなので、あまり公には言わないのです」
大護の言葉に、二人は納得して頷く。ここでアルカは新たな疑問が芽生えたので大護に尋ねた。
「昔は不死者の発生が頻繁にあったそうですが、今は平和ですし、必要あるのですか?」
「それは微妙なところですね。昔からの規則を変えるのは簡単ではありませんし、死神専用の刑務所が新たに必要になります。そのために予算を割く価値があるのかと言われれば、無いです。なにより……」
大護はそこで一拍置く。そして少し言いにくそうに答えた。
「死神は特権階級です。よほどのことが無い限り重罪にはなりません。もちろん軍法会議は別物ですが」
「……つまりほとんどが軽い刑罰にしかならないから、懲罰部隊として使った方が予算が少なくて済む、ということですか?」
「そういうことです。……元都市外移住者のあなた達にはあまり馴染みがないかもしれないですね。ついでに言うと、死神の中でも我々、班に所属する死神はさらに上位の特権を持っています」
「そうなんですか」
「例えば、何の理由もなく民間人を殺害しても、数人なら罪に問われません」
衝撃の事実に二人はあまりの驚きに声が出ず、目を瞬く。
「あなた達が初任務の聞き込みで、自分たちの所属を話した時、相手は驚いていたでしょう?上位の特権階級の死神が来たのです。内心は怯えていたと思いますよ」
あの時、どんな些細なことでも、とアルカが聞いて、怪しい機動隊員の話が出てきたおかげで事件は解決しましたけれど、と大護は付け足す。
機動隊員の中でも、上位である班員という言葉を信用して話してくれたが、普通は機動隊に向かって、機動隊員を疑う言葉は言わないそうだ。
機動隊に向かって、機動隊員が怪しいと言うことは相当な覚悟が必要なことだったのだ。
「私達、死神は巨大な力を持っています。それ故に義務と特権が付いて回ります。使いどころを間違えないようにしてください」
「はい」
二人は神妙な面持ちで返事をする。まさか自分たちが知らないうちに、脅しじみたことをしていたのだ。反省してこれから気を付けようと二人は決意する。
「あなた達、二人は都市での常識に疎いところがあります。そこを念頭に置いて、私も教育していかなければならないですね。これからの課題です。……さて、他に質問などありますか?」
「アタシ達はこのままこの事件の捜査を継続しますか?」
キョウが質問したその時、三人の情報端末に連絡が入る。差出人はヴィクターで、取調室に来るように、と簡素に書かれていた。
「……どうやら継続みたいだね」
キョウの質問に、アルカが答えた。
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