第10話 休暇2
日本防衛戦を辛くも勝利したが、被害は甚大であった。現在の第二区画にあたる場所は一から作り直しとなった。その後何度も不死者の侵攻を受けるが、日本防衛戦のような被害を受けることなく、急速に発展していく。
日本浄化作戦を始めとした、様々な不死者討伐作戦が行われ、同時に地方都市の建設、及び移住が実施されるようになった。
「おー、日本地図だ」
「立体的でわかりやすいね」
二人は立体地図を眺める。今自分たちが生活している都市トウキョウを始め、オオサカ、ナゴヤ、ヒロシマ、フクオカ、センダイ、ハコダテの七都市が存在している。各都市は長大な高架橋で繋がっており、不死者の侵入を防ぎつつ、円滑な移動を可能にしている。
その時、アルカは都市ハコダテから中途半端に伸びている高架橋があることに気づいた。疑問に思い、模型の説明文を読み進める。
「都市サッポロ、北部戦役により陥落」
アルカはハッとする。何時か大護が言っていた、ヴィクターが関係するものだったはずだ。しかし、それ以上のことはここには書いておらず、仕方なしに次を見に行く。
次の模型は、都市トウキョウのジオラマだった。かなり精巧に作ってあるようで、キョウは興味深そうに見ていた。
「アルカ、機動隊本部って六角形になってたんだぞ」
「本当だね。真ん中に建物もあったんだ」
機動隊本部は各班の建物が六角形の頂点にあり、それらを廊下が繋いでいる。その真ん中に守られるように存在する背の高い建物は国会議事堂らしい。実に変わった形である。
他にも二人が知らないことが多々あった。
例えば、耐震波構造体の存在である。どうやら都市トウキョウの第一、第二区画は耐震波構造体の上に存在していたのだ。何でも地震が多発し、津波の対策としてこうなっているらしい。キョウは、内陸に作ればいいのでは、と言っていたが、不死者の侵攻がない海に隣接することは、防衛の上でかなり重要のことである、と解説されていた。どの都市も同じように海に隣接し、海路でも繋がっているのだ。
また、第一防壁も耐震波構造体の上に移設されたらしい。新設する方が費用が抑えられるが、今の第一防壁を残すべきだ、という大規模なデモが多発し、移設せざる負えなくなったそうだ。
ジオラマを後にし、順路に沿って進んでいくと、発展の歴史が続いた。
しばらく進んでいると、とある場所でアルカは足を止める。後ろを歩いていたキョウも一緒に立ち止まった。
「北部戦役……」
「前に副班長が言っていたやつか」
キョウの言葉に頷きつつ、アルカは解説を読み始める。
不死者の侵攻がなくなり、日本は急速に発展していった。都市も八つに増え、このまま更なる発展をしていくと思われたその時、最悪の事態が発生する。日本最北の都市サッポロで突然、不死者の侵攻が開始されたのだ。
即座に三つの都市ハコダテ、センダイ、トウキョウから救援が送られることとなる。救援のおかげで、第一防壁で戦力は拮抗し、次第にセンダイの救援とトウキョウの先行部隊の到着とともに、前線が押し上げられる。
このままいけば、統率個体の討伐も時間の問題と思われていた。しかし、事態は急変することになる。
どこからともなく、新たな不死者の群れが現れ、同時に多数の統率個体も出現したのだ。ただでさえ強い統率個体が複数体、前線に現れたことにより、多数の機動隊員が死亡する。そして死神の遺体がいくつも不死者に食われ、新たな統率個体が発生した。この連鎖により、前線は瞬く間に崩壊する。
これにより、都市サッポロの放棄が決定した。また、都市ハコダテを絶対防衛ラインと定め、各都市から機動隊を招集した。
陸路、海路、空路に分かれ、民間人が避難を開始する。不死者の追撃がある陸路の殿を機動隊が努めつつ、都市ハコダテに到着。
同時に反撃を開始した。時間がかかったものの、すべての統率個体を討伐。掃討戦に移行する。
多数の統率個体の発生、突然出現した不死者など、原因不明の事態がいくつもあり、都市サッポロの再建は見送られることとなった。
「都市が一つ陥落したんだ」
「かなり壮絶な戦いだったみたいだな。それを生き残っている班長が強いのも納得だ」
「ぼこぼこにされたからね」
訓練の折、少しだけヴィクターとも手合わせをしたが、全く歯が立たず完敗したのを思い出し、二人して苦笑いを浮かべた。
解説の先には、北部戦役の機動隊員の日記や、回収された備品などが展示されていた。それらの損傷具合からも、戦いの激しさが容易に想像できる。その中にヴィクターの活躍について書かれているものがないか探したが、それらしいものは見当たらなかった。
北部戦役のコーナーを過ぎると、再び発展の歴史が続いていた。その中に魔力自動車も含まれていた。
何でも北部戦役の経験から、いかに早く移動するかを考えた結果、開発が進められたそうだ。それまでは大型の魔動機関しか存在せず、取り付けることができるのが、輸送船や飛行艇、列車のような巨大な機械だけだったらしい。
順路の最後には、機動隊の歴史もまとめてあった。機動隊は元々、日本国軍の隊の一つだったそうだ。それが不死者討伐の効率を高めるため、指揮系統を分離し、さらに迅速な行動のために強大な権限を持つようになる。そして独立機動隊に名を変えるに至ったのだ。
一通り歴史博物館を見回ったので、それぞれ飲み物を片手に休憩所で一息つく。
「訓練学校で習わない事がたくさんあったね」
「だな。面白くて眠くならなかった」
「面白くなくても、授業は寝ちゃだめだよ」
アルカの指摘に、キョウは慌てて話題を変える。
「あれだな。英雄なんていたんだな。一回戦ってみたかった」
「話が本当なら、キョウは触れることすらできず、弾き飛ばされるだけでしょ。戦いにすらならないよ」
アルカは呆れながら言う。そもそも、大昔の人なのだ。死神の寿命が150歳と言われているのに、生きているわけがない。アルカの考えが通じたのか、キョウは冗談めかして笑う。
「言ってみただけだって。……で、この後どうする?」
キョウは情報端末で時間を確認し、アルカに尋ねる。意外と長いこと博物館にいたらしく、数時間経っていた。
「んー、第二区画を少し歩いてから、晩御飯を食べて帰ろうか。今日は早めに寝たいし」
指を顎に当てて少し考えた後、アルカは答えた。任務前に仮眠をとったと言えども、任務で夜通し起きていたのだ。今日はぐっすり眠れるに違いない。
「よし。じゃ、行こうぜ」
キョウはバッと立ち上がり出口へと向かう。アルカもキョウに続いて博物館を後にした。
―
第二区画の大型複合施設に訪れた二人は、物珍しそうに周囲を眺める。
「はー、何でもあるな」
「食料品、衣類、雑貨、本、電化製品、映画館、他いろいろ。ここで生活できちゃうよ」
少し内部を歩いただけで、様々な種類の店が軒を連ね、映画や宣伝のポスターなども飾られており、見ているだけでも楽しる。
折角ここまで来たので、二人はなんとなく目についた店に入ることにした。店に入ると色とりどりの洋服が目に入る。
「キョウはスタイルいいし、背も高いからどんな服でも似合いそうだよね」
アルカは、キョウに似合いそうな服を手に取る。
「動きにくそうだから却下。アルカこそ素材はいいのに味気ない服ばかりだろ。たまには着飾ってみろよ」
キョウは、アルカに似合いそうな服を手に取る。
「そんなひらひらした服は趣味じゃない」
互いに言い合いながら服を突きつけあっていたが、店員がこちらを注目していることに気づいて、そそくさと撤退する。ファッションにはとことん興味がない二人であった。
次に二人が入った店は、主に雑貨を扱っていた。今度は騒がしくならないようにしつつ、店内を見て回る。
いらない物から変わったものまで、多種多様な雑貨がある中、アルカの足が止まる。その視線の先には、複数の立体がくっついた奇妙な形をした置物が鎮座していた。手に取って確かめていると、後ろからキョウが声を発する。
「また訳の分からない物を……」
「それがいいの。大きすぎず、小さすぎず、用途がない。まさに置くためだけに存在する感じが素晴らしい」
「置物だから当然だろ」
「キョウはまだまだだね。これが理解できないなんて」
「理解したくねぇよ」
キョウはうんざりとした目でアルカを見る。すでに自室にはいくつも置物が飾られており、また増えるのか、とため息を吐く。
「そんなこと言うけど、キョウもまたぬいぐるみ買うつもり?」
アルカは、キョウが抱えているぬいぐるみを指差す。
「可愛いだろ」
「可愛いけど、さすがにこれ以上はいらなくない?」
寮の自室にぬいぐるみがたくさん入った箱が積まれていることを指摘する。しかし、キョウは悪びれる様子はない。
「いつかアルカをぬいぐるみの山に放り込むまでは集めるぞ」
「放り込まなくていいから」
本当か冗談かわからないことを言うキョウに、アルカはジト目を向ける。そんなアルカに構うことなく、ぬいぐるみを抱えて会計に向かって行う。アルカも例の置物を片手にキョウの後を追うのだった。
雑貨店を出て、二人は晩御飯を食べることにした。キョウたっての希望で、肉料理が美味しいと評判の店を選ぶ。店内に入ると、肉の焼ける匂いが二人の嗅覚を刺激する。店員に料理の注文をして、しばらくして料理が運ばれてくる。
「うめぇ!」
「キョウ、急いで食べるとのどに詰まるよ」
キョウの食べっぷりに、アルカは一応注意をしておく。すると、ガツガツと肉を食べていたキョウが突然、胸をトントン叩き、もがき始めた。どうやらアルカの注意は意味をなさなかったらしい。はぁ、とため息を吐きつつも水の入ったコップをキョウに渡す。
「料理は逃げないから、ゆっくり食べなよ」
「……そうする」
しぶしぶ、ゆっくりと食べ始めたキョウと会話を挟みつつ、食事を楽しむのだった。
―
寮の自室に戻り、のんびりと過ごしていると睡魔が襲ってきた。いつもの就寝時間より早いが、二人はいそいそとベッドに潜り込む。
「おやすみ」
互いの声が重なり、すぐに二つの寝息がするのだった。
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