第10話、ツッコミの切れ味。
「クロさん!!クロさん!!大丈夫ですか!?」
その声に俺は意識を取り戻し身体を起こして頭をかく。
「ん...。トーマスか...。どうしたんだ?」
「どうしたんだ?じゃないですよ!!
クロさん、急に倒れたんですよ!!
本当にビックリしました!!」
「...俺が倒れた?なんで?」
倒れる前の記憶がない...。
俺は冷静に考えてみる。
...確かトーマスの高級宿に荷物を取りに来て、宿の金額を聞いて...。思い出した。
「おいこら!!トーマス!!何でお前みたいな駆け出し冒険者がこんな500ゴールドもする宿に泊まってるんだぁぁ!!」
「え?それはクロさんが倒れる前に説明しましたけど...。」
「へ?そうだったっけ?」
「そうですよ。でもクロさんの話を聞いて僕も反省しました。やっぱり自分で稼いだお金でああいう所に泊まるべきですよね。だからこのカードも...えい!!」
バキッ!!
トーマスは持っていた虹色のカードを真っ二つに折った。
「これで僕は一文無しになりました。ここから僕たちの本当の冒険が始まるんですね!!
いやぁ、何だかスッキリしました!」
俺はトーマスが折った虹色のカードを拾った。
「お、お、お前。このカードは...。」
俺はそのカードを見て驚愕しプルプル震えた。
そんな俺とは反対にトーマスは平然と、
「お祖父様に渡されたんですよ~。困ったら使えって。限度額が無制限で使えるみたいなんですけど、もう僕も冒険者なんだからすねをかじってられないですから!」
「すねかじれよ~!!
もっとすねをかじりまくれよ!!
あぁ、勿体ないこんな夢のカードがぁぁ。
限度額無制限の夢のカードだぞぉ!!
俺もかじりたかったぁぁ。トーマスのお祖父様のすねをかじりまくりたかったぁ~!!
トーマス、このカード直せ。今すぐ直せぇぇ!!」
トーマスは思った。
さっきまで冒険者舐めとんのか?とか駆け出しは駆け出しらしくとか言ってたのにあんなカードの一つでこうも人は変わるのか?とがく然とする。
しかし、こうもばか正直に言ってくる人など今までトーマスは見たことがないので新鮮でもあった。
「クロさん。もう直りませんって。諦めてください。」
「いや、俺は諦めんぞ!!この折れた部分にご飯粒を...。いや、接着が甘いか...。なら、アロンアルファを付けて接着すれば...。」
「クロさん...。そんな事をするとクロさん捕まりますよ。しかもそのカードはポビタ一族専用カードなので不正をすれば一生牢屋の中に入る事になるかも...。」
その話を聞いた俺は直ぐ様カードを地面に叩きつけ、めいいっぱい踏んで見るも無惨に粉々にした。
「ハァハァ、じょ、冗談だ、トーマス。
これは今流行りのナメリカンジョークなんだよ。はっはっはっ。俺がこんなカードを欲しがると思いますか?
否!!
俺は冒険者だぞ!このくらい稼ぐ事なんて造作もない。っていうか俺も持ってたし、そういうカードの一つや二つ。ア○フルとかね!!
まあ、冒険者には愛が一番大事ってことさ!
そうそう、愛が一番ア○フル~!」
「クロさん、動揺しすぎですって...。
そんな大声で捲し立てるから大勢の人の注目になってますよ。恥ずかしいので早くクロさんのお世話になってる宿に行きましょ。」
「べ、別に動揺なんてしてねーし。
あ~い~がぁ~♪一番~♪」
「こんな公共の場で歌わないでくださいよぉ~。もう行きますよ!!」
「ア○フル~♪」
俺はトーマスに引きずられるように宿に向かった。宿の入り口まで着くと宿の中が妙に騒がしい。まだ夕食の時間までだいぶあるのだが...。
「ここがクロさんが泊まってる宿なんですね~。外観なんかいい感じですね。って入らないんですか?」
「入ろうと思うんだが中が妙に騒がしくてな。」
「ふーん。まぁ良いから入りましょうよ。」
「ちょっ、待っ...。」
俺が躊躇してるとトーマスは不用意に宿の扉を開けた。
そして待ち受けてたのは....。
「お帰りなさいませ~!ご主人様~!ほら、シズクもこっちに来てお出迎え!!」
メイド服の女子だった。
この子誰かに似てるな...。
そんな事を思っていると後ろから恥ずかしそうに、
「お、お帰りなさいませ...。ご主人さ...ま.!?」
シズクは俺の顔を見て恥ずかしそうに目をそらした。
「シズク?お前何してるの?」
「やだ...。クロム見ないで...。恥ずかしい。」
「メイド服のシズクも可愛いぞ。」
俺がそう言うとシズクは目をキラキラさせて嬉しそうに厨房の方に走っていった。
「ふーん。うちのシズクをたらし込んでる男はあなたね、クロム。」
「たらし混んでねーし、っていうかアンタ誰?シズクに似てるみたいだけど、妹?親戚の子?」
「何でアタシがシズクより年下設定なのよ!?失礼ね!!私はシャルル!!シズクの従姉妹...よ!歳は17。シズクより2歳も歳上なんだから。」
「それは失礼。シズクよりちんこいし、ガサツっぽいから年下だと思ったわ!」
「誰がガサツよ!!ったく。」
シャルルはフンっと鼻を鳴らして腕を組んだ。
そこに割り込むようにトーマスが、
「まぁまぁ、2人とも落ち着いてください。」
「芋っぽいはな垂れ小僧がでしゃばって。誰よアンタ?」
「誰が芋っぽいはな垂れ小僧だ!!このちょっと可愛いからって...。顔面だけが取り柄のちんちくりんが!!」
「顔面だけが取り柄で結構!!芋よりはいいわ!」
トーマスはぐぬぬと悔しそうに唸っている。
俺はそんなトーマスに、
「トーマス。落ち着くんだ。どうどう...。」
そう言いながら頭と顎を撫でる。
「いや、クロさん...。僕、犬じゃないんですけど...。」
「どうどう...。ん?なんか違うな。ドゥドゥ~だっけな?」
「どっちでもいいわ!!その犬扱いをやめい!!」
トーマスのツッコミの切れ味が一段上がったのだった。
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