第6話、人の人生をもて遊んではいけませんよ。


俺達はギルドに入った。

ギルドに入ると大柄な冒険者達が受付嬢のリリーに迫っていた。


「だ~か~らぁ~!

さっきから言ってるだろ!?

新人のトーマスはダンジョンのモンスターの沸く罠に引っ掛かってモンスターにやられて死んだんだってぇぇ!!

俺達は命からがらここまでたどり着いたって訳だ。

もちろん、トーマスの補償金は出るだろ!?

出ないと俺たちは赤字なんだよぉぉ!!」


大柄の冒険者の迫真の演技に同じパーティーの冒険者は笑いを堪えていた。


「そうは言われましても確認作業をしないと行けないので....。」


受付嬢のリリーも困っていた。


「トーマス。あれが現実だ。」


「あんなくそ野郎達だと思わなかったですよ。」


「だろ?ガツンと行ってやれよ。

今のトーマスならアイツらに負けないから大丈夫だろ。」


「はい...。行ってきます。」


怒りをあらわにしたトーマスは歩き出した。

さっきまで同じパーティーだった冒険者の元へ。


「おい!!くそ野郎ども!!誰が死んだって!?もう一回言ってみろ!!」


トーマスアイツも結構言うんだな...。

俺は感心してトーマスの後ろから様子を伺う。


「あぁ~!?誰に向かって...。

と、トーマス!?お、お前生きて!?」


「あぁ...。地獄のそこから生還してきたよ!この野郎!!(主にクロさんが僕に地獄を与えたんだけど...。)」


大柄冒険者パーティーはトーマスの姿を見て一同驚愕している。

それを横目に受付嬢のリリーは冷静な顔をして冷たく言い放つ。


「あれ~?ガンスさん?

トーマスさん生きてますよね...。

もしかして虚偽の報告ですか?

そうなると、詐欺罪でパーティーの冒険者全員ランクダウンもしくは冒険者資格の剥奪となりますが...。」


「ちょ、ちょっと待てやぁ!!

確かにトーマスは罠を踏んでモンスターに囲まれたんだ。」


ガンスは冷や汗をたらしながら弁明をする。

それをリリーは報告書に書いていた。


「それで?」


「え!?そ、それで大ケガをしてもう助からないと思い俺たちは逃げてきたん...。」


「ふざけるな!!

罠を踏んだのはガンス!アンタだろ!!

そして、僕を囮にして真っ先に逃げたじゃないか!!」


トーマスは力強く言う。


「虚偽の報告だけじゃなく、パーティーメンバーを見捨てて逃げた。と...。」


「いやいやいや!!俺たちも一生懸命戦ったよな!!」


「そうだ!」「俺たちは間違っていない!!」


ガンスのパーティーメンバーも罪に問われたくないから必死に嘘で固めてくる。


「おかしいですねぇ?

双方全く別な意見が出ました。

どちらかが嘘を言ってる事になりますが...。」


リリーもどちらが嘘をついているなんて分かりきっているのだろう。俺をチラッと見てくる。

仕方がない。俺が助け船を出そうか...。


「はいはいはい。ちょっと失礼。」


「んだぁ!!お前は!!邪魔するんじゃねえ!!」


「俺か?

俺はトーマスを助けた張本人だが...。何か?」


「お前が...、お前が余計な事をしなければ...。」


「おいおいおい。それはお門違いだろ。

それにしてもお前らはなんだ?

俺が余計な事をした?

それはつまり自白したって事だろ?

図体ばかり大きくなっても頭はパーですか?

いかりやはチョーですか?」


「クロさん。いかりやはチョーです。

そして、タカギはブーです。

ってそんな事はどうでもいいんだよ!!」


おっとトーマス、ナイスノリツッコミ。

ダンジョンではスルーしてたくせに、しっかり王都の伝説のお笑いグループのトリュフターズを知っているじゃないか。

うん、うん。

でも、ナカトトコージも忘れずにね。


「お前ら冒険者ならこれで決めろよ。」


俺は剣をポンッと叩く。


「決闘か。ぐはははは。

いいぜぇぇ!!俺が勝ったらこの件はおとがめなしってことでいいよなぁ~?」


俺はトーマスを見てお前ならできると頷く。


「いいだろう!!

僕が勝ったらお前達の冒険者資格を剥奪してもらう。」


「お前が俺に勝つ!?

ぐははは!!笑いすぎて腹痛て~!!」


ガンスとトーマスの言い合いに、受付嬢のリリーが慌てて止めに入る。


「こ、困りますよ!!

そんなのを勝手に決めてもらってわ!

それにガンスさんはCランク冒険者、トーマスさんはFランク冒険者。

力の差は歴然です!!

ギルドとしては容認できません!!」


「大丈夫、大丈夫。責任は俺が取るよ。

今のトーマスならガンスのパーティー全員相手でも簡単に勝てるだろうよ。」


「い、いや。クロさんがそう言っても...。」


リリーはあたふたしている所に、


「面白い!面白いよ、ソレ!!良いじゃないかぁ!やらせてみよぉ~!!」


2階から見た目10歳位の男の子が現れて笑いながら言った。


「ギルドマスター!!何を言ってるんですか!?止めてくださいよぉぉ!!」


受付嬢のリリーの嘆きはギルドマスターは聞く気はないようだ。


「冒険者なんだからそういう揉め事は決闘で決めるのが良いよね~!実際強くないと冒険者なんて勤まらないんだしさ!」


「そうですけど...。」


「じゃあ、リリーも納得したって決まり!!

一時間後に下の訓練所に集合って事でいいね!」


ギルドマスターの言葉に、

「はい!!」とトーマスは力強く応えた。


初めてあったがギルドマスターも中々粋な事をしてくれるじゃないか。しかも、見た目とは裏腹に強者のプレッシャーを纏っている。

さすがはギルドマスターをやっているだけはある。俺は感心した。


「そうそう!!

この決闘は賭けの対象にするからみんなじゃんじゃん掛けてね~!!」


「....。

人の冒険者人生がかかっているのに、ギルドマスターは中々のくそ野郎だな。」


俺のぼやきにトーマスは、


「でも、やる気は出ましたけど。」


「まあ、トーマスがやる気が出たんなら良いけど。

それよりもドギマギウオッチング間に合うのかな...?

間に合わなかったらアイツら全員ブッ飛ばす。

そして、トーマス。」


「は、はい!!」


「間に合わんかったらお前もブッ飛ばす。」


「ドンだけぇぇ~!!

どんだけ見たいんだよ!ドギマギウオッチングを!!」


「録画出来るかな?

トーマス置いて宿に戻ろうか...。迷う...。」


クロムの本気で言っている姿を見て、一番の糞野郎はこの人じゃないのか?と思うトーマスだった。



▼▼▼▼▼


同時刻。

クロムがお世話になっている宿屋の裏手にて、


(やれやれ...。やっと着いた。)


「おや?黒猫かい。可愛いねぇ~。

シズク、ちょっと来てごらん。可愛い黒猫さんが来てるよ~!」


「お母さん...。私はもう成人だよ。

猫位で騒がない....。.....ポッ。可愛い...。」


「でしょ~?シズクなら絶対そういうと思ったわ!」


(やれやれ...。この姿だと気付かないか...。

よし、元の姿に戻るとするか。)


黒猫は姿を変え人に変わる。


「あ、あ、貴方様は!!」

「ビックリ...。黒猫から人に変わった...。」


黒のローブを羽織るシズクに似た少女が2人の前に現れた。

少女は、宿屋のおかみさんに言葉を投げ掛ける。


「久しぶりね。アンネ。私の事は覚えている?」


「は、はい!もちろんです!!シャルル様!」


「良かった~。2年ぶりで忘れられたらどうしようかと思ったわ。」


「とんでもないです!忘れるわけございません!!」


「お母さん...。この人は誰?」


「え、えーっと...。」


「アンネ。私から説明するから大丈夫だぞ。」


「は、はい...。」


シズクに似たシャルルという女の子が静かに話始めた。


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