第5話、男の背中は見え方でだいぶ変わるものみたいだとさ。


「ハァハァ。やってやった...。

やってやったぞぉぉぉ!!!」


ここは10階層のボス部屋の前。

トーマスがブチ切れて暴走した為、

あっという間にボス部屋の前まで来てしまったのだ。

まさに鬼の如し、鬼化ん者きかんしゃトーマスの爆誕である。


「本当にここまで一人で倒しきるなんてな。

トーマス。お前には才能を感じるよ。」


「クロさん。褒められても嬉かねーよ。

アンタ、俺が必死に戦ってるのに後ろで散々プレッシャーを与えた挙げ句、

俺の背後でその剣を振りかぶって下がらない様にしてただろうが。

アンタは鬼だよ。鬼畜だよ。」


「まあそう言うなよ。

お前自身強くなっただろう?

途中、トーマスの身体が発光し過ぎて目が潰れそうになったわ。」


「確かに。

相当な回数の神の祝福を受けましたからね。

数える余裕もないくらいに...。

死ぬかと思いましたよ...。本当に...。」


「でも、トーマスお前は生きている。

そして強くなった。これが現実だよ。

冒険者は楽しいだろ?」


「そうですね。段々強くなっているのが戦っている最中分かりましたからね。

モンスターと戦うのが楽しくなりましたよ。」


「いい顔になったな。出会った時とは大違いだ。うん、良かった、良かった。

さてと、ここからはボスだけど俺にやらして貰うぞ。俺の目的のドロップアイテムはおれ自身で手に入れたいし。」


「はい。クロさんの戦いを是非見せてもらいます。」


「うーん。戦いにはならないから、きっと参考にはならないぞ...。」


「え?」


キョトンとした顔のトーマスにポンッと軽く肩を叩いて、俺はボス部屋の扉を開けた。


ギィィィー...。


重々しい扉を開けると大きな空間に出た。

その空間の真ん中に3メートル程の大きな巨体とクエストのアイテムの槍を装備しているブラックオークが佇んでいた。


「さて。行くか。」


「えっ?もう行くんですか?」


「あぁ。とっとと終わらせたいからな。

運悪く納品のアイテムをドロップ出来ないと、何回も周回しなくちゃ行けなくなるからな。」


「なるほど...。」


俺はブラックオークに向かってスタスタ歩く。

ブラックオークは鼻息を豪快に鳴らしながら俺に向かって突進してきた。

「は、速い!!」とトーマスは言っているが、俺にはハエが止まりそうな程遅く感じていた。

ブラックオークの突っ込んで来るタイミングを計り、鞘から抜けない剣を構えて少し力を入れてスイングをする。


ドッゴォォォォンーーーー!!


殴られたブラックオークの体が奥の壁まで吹っ飛んで絶命した。


「い、一撃で...。」


「だから言ったろ。参考にならないって。

今まで出会ったモンスターは大抵一撃で死んじゃうんだ。弱すぎて話にならん。実につまらない。」


「いやいや...。

クロさんの強さがおかしすぎますって...。

スイングも見えづらかったですし...。」


俺のスイングスピードが見えたのか...。

本当にトーマスは目がいい。

トーマスのステータスってどうなっているんだろう?ギルドに行ったら見せてもらおうかな。

見せてくれるかな?

うーん...。


「あ、あのクロさん?どうかしました?」


「いや、何にもない...。

おっとドロップアイテムを探さないとな。」


俺はブラックオークが吹っ飛んで行った場所に向かった。

ブラックオークの死骸が形を変えていき宝箱に変わる。

そして、宝箱を開けてみる。


「おっ!今日はツイてるな。一発で引き当てた。」


俺は宝箱から[ブラックオークの槍]を取り出した。しかし、宝箱はまだ消えない。


「まだ何かあるのか...?

お、おお!!これは!?」


「クロさん、どうしたんですか!?」


俺の声にトーマスも近づいてくる。


「この階層ではレアだよ、レア!今日はいい日だなぁ~。」


「何があったのですか?」


俺は宝箱から一本の剣を取り出した。

取り出すと宝箱は消えてなくなっていった。


「この剣は剣壊しの剣ソードブレイカー。剣と剣がぶつかりあった10%の確率で相手の剣を壊すといわれてる剣だ。

これを売ればしばらくお金には困らないな。」


「おぉ。良いですね。」


俺はトーマスを見る。

安っぽい剣に、安っぽい装備。

見るからに初心者冒険者だ。

この先、もっと強い剣は必要となるだろう。

俺はトーマスとパーティーを組むと決めたのだ。


しかし、非常に選択に迷う。


金をとるか、トーマスの装備をとるか、

金をとるか、はたまた金をとるか。


俺の頭の中では金の割合の方が強いが俺の身体がそうはさせない。

それは俺の持つ剣の力だろう。

俺は操られるように剣をトーマスの前に出した。


「く、クロさん。

この剣をまさか僕にくれるのですか?」


「え!?いや!?そ、それは...。」


俺が断ろうとすると、俺の剣が俺に攻撃を仕掛けてくる。

主に電撃のような攻撃だ。これがかなり痛い。


「あ、あぁ。そ、そうなんだ。

お前の剣、ここまでの戦いでボロボロじゃないか。

剣士足るものいい剣を装備しないとな...。」


俺がソードブレイカーをトーマスに渡すと、

俺の剣は何事もなかったかのように静かになった。

ったく、この剣は何なんだ...。


「いいんですか?こんな高価な剣を頂いても。」


「あ、あぁ。

これからもお前には強くなって貰わないと困るからな。(俺が楽をする為に...。)」


ここは先行投資だと頭を切り替えた。

そして、ボス部屋の先を進むとダンジョンに一瞬で出れる転移の魔方陣で俺たちはダンジョンを出た。


「お。帰ってきたな。クロさんお帰り。

どうだったダンジョンは?」


ダンジョンの入り口の警備をしている衛兵のジョンが話しかけてきた。


「まぁ、いつも通りだよ。簡単すぎて張り合いはないわな。」


「クロさんじゃ物足りないか。それで、後ろの子はどうしたんだい?」


「あぁ...。コイツは...。」


俺は衛兵のジョンに事情を説明した。


「あいつらか...。俺の前を逃げるように走っていきやがった。多分ギルドに行ったのだろう。

その子の死亡届けを出して補償金を貰いに行ったと思う。」


「マジか...。あいつら、どこまで腐ってやがるんだ。」


俺は怒りを覚えたが、


「僕は気にしていませんので揉め事は...。」


「トーマス...。お前はバカか?」


「え?」


「俺が間に合わなければお前は死んでいたんだぞ!それでも気にしないなんて言えるのか!?そうじゃないだろ!!

もしお前が同じ状況になったら仲間を囮に使って自分だけ逃げるのか!?

出来ないだろうが!!

トーマス、よく聞け!

冒険者パーティーとは一蓮托生なんだよ。

あらゆるピンチになったとき、

どうやって生き残るか助け合うのがパーティーだろ?仲間だろ?」


俺が熱く語るとトーマスは力強く頷いた。


「そうですね。

僕が目指す冒険者はクロさんが言うように熱い冒険者です!

そう思うと、段々腹が立って来ました!!」


「よし!ギルドに報告してお前を見捨てた奴等を懲らしめてやろう!!」


「はい!」


俺とトーマスが意気込む。


「ハハハハッ!!面白い!!イヒヒヒヒ!!

笑わせないでくれよ!!お腹痛いぜ、クロさん!!」


衛兵のジョンがお腹を抱えて爆笑している。


「何がそんなに可笑しいんだ?

俺はいたって真面目だが!!」


「いや、だってさ~。

クロさん今まで誰ともパーティー組んだことないじゃん。

それなのにあんなに熱くなるなんて違和感過ぎてわらけてきてさ~!」


「ちょ、っま、それは...」


ジョンは俺の制止も聞かず、


「冒険者パーティーは一蓮托生なんだよ!!

だって!アーハハハハ!!クロさん、ナイス!今日はいいお酒が飲めそうだ!!」


「と、トーマス君。と、とりあえずギ、ギルドに行こうか...。」


「あ。は、はい...。」


衛兵のジョンのせいで俺の足取りが重くなった。


「クロさ~ん!夕方、酒場で待ってるぜ~!」


「あ、あぁ...。」


2人は夕日の差し込む中ギルドに向かった。

トーマスは思った。

さっきまで格好良かった男の大きな背中が一瞬でこんなに小さくなるものなのか...と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る