第6話 優斗とさやかⅡ

 「ごめん、無視しちゃって」


 中山が慌てて言った。


「まず名前、聞いてもいいかしら」


「私はあずまさやかです。兄は優斗ゆうとって言います」


 思いの外しっかりとした声で答えたのは、妹のさやかだった。

 しかし、中山はその後に詰まる。


 前の改変から72時間以内の今、時空間はまだ不活性だ。簡単に歴史が変わることは無い。

 それでも、過去から来た兄妹に、現在……彼らにとっての未来のことを、伝えてしまっていいのだろうか。


 しかし、もし仮に律希の仮説が正しく、犯人が東兄妹を狙っているのであれば、直ぐに2人を元の時代に帰すことは出来ない。

 彼らへの状況説明は必要だ。

 中山は心を決めて話し出した。


「信じられないかも知れないけど、一回聞いてほしい。まず、ここは2718年年9月20日。あなたたちの時代から見て、700年未来の東京なの」


 優斗とさやかは顔を見合わせ、同時に叫んだ。


「な、700年⁉︎」


 2人は慌てて聞き返してくる。


「そんなの嘘ですよね!? 冗談はやめて下さい!」


「じゃあさっき俺らタイムトラベルしたの? マジかよ」


 やはり信じてくれないか、と思った時、優斗が続けて言った。


「超SFじゃん! かっこいい!」


「えっ?」


 時間警察たちとさやかの声が揃う。しかし優斗は、興奮した様子で、


「ってことは一ノ瀬さんたち未来人? にしてはうちのお父さんみたいだけど」


 と勝手に言い出す。


「律希がお父さんみたいってどう言うことよ……」


 急に気が抜けて中山は呟いた。するとさやかが重ねて、


「お兄ちゃん、何言ってんの? 一ノ瀬さん、全然お父さんに似てないけど」


 と咎める。


「いや、服装とか似てない?」


「全然似てない。一ノ瀬さん、お父さんの数倍カッコいいし、若いし」

 

 律希を含め、全員がどっと笑った。


「違うよ。あんまり未来っぽく無いなぁって話。未来なのに、俺らの時代の服装と全然変わんないじゃん」


 優斗が弁解し、さやかは納得する。しかし、しばらく考えて、


「……って、そうじゃないの!」


 と叫んだ。


「お兄ちゃん、ここが未来って話信じてるの?」


「え? だって今、この人が言ってたじゃん」


 優斗が中山を指して答えると、さやかは頭を激しく振った。


「未来なんてあり得ない」


「何で?」


「お兄ちゃんこそ何で信じられるの? こんな話」


「何でって……」


 優斗は言い淀み、しばらく考え込む。しかし直ぐに何かを思い付き、妹に説明する。


「さっき俺ら、三ツ谷公園に居たよな。でも、急に暗くなったかと思えば、次の瞬間にはここに居た。こんなの、普通じゃあり得ないだろ?」


「それは、そうだけど……」


 さやかは不安げに顔を歪める。同時に三ツ谷公園で男に襲われた光景もはっきりと思い出してしまったようだ。


「でも、……でも、もし本当だとしても……」


 そんなさやかに、律希が立ち上がって言った。少しは落ち着いたのか、彼の声には弱くも芯がある。


「僕がさやかたちをここに連れて来たのは、君たちを守る為なんだ。だから……僕を信じて。一回話を聞いて欲しい」


 律希の、落ち着いた、真っ直ぐな態度に、さやかは少しだけ信頼感を覚える。そして、躊躇いつつも「はい」と答えた。

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