第6話 優斗とさやかⅢ

 過去の兄妹を律希に任せて、中山と香織は対策部に走った。

 その道すがら、中山が、香織に確認を取る。


「犯人はさやかちゃんを捕まえていて、その後優斗君を攻撃した。なら、あの兄妹が目的だったのは間違い無いのよね?」


「はい、多分。だから、2人を私たちが保護した今、もう犯人も諦めてくれるんじゃないかなぁって私は思ってるんですけど」


「そうね。今のところは何の改変も起きていないし」


 もう改変の恐れは無いのでは、と思った。

 時間機を作ってしまうような人間だから、きっと時空学の複雑さも分かっているだろう。

 

 小さな行為が大きく歴史を改変する。

 その危うさが分かるなら、目的以外の為に馬鹿なことはしないはずだ。

 ……そうで、あって欲しい。


 対策部フロアの入り口から、中山は真っ直ぐメインオフィスに入り、中央の大きな机に駆け寄った。

 机は普段透明だが、今はディスプレイになってどこかの地図を映し出している。よく見ると、恐らくそれは三ツ谷公園だった。


「片岡、今どんな状況?」


 中山は、そう聞いた後に、片岡の隣に立つ若い男性に気付く。見慣れない顔の彼は、軽く会釈して言った。


「警視庁の他組織連携担当課の二瀬祐司ふたせゆうじです」


「中山です」


 納得して、中山は短く返す。二瀬は対策部とも多く関わりがあり、名前だけは聞いた事があったのだ。

 片岡が二瀬をここに呼んだ経緯を説明する。


「あまり大事おおごとにはしたくなかったから、警察じゃなくて、二瀬さんに直接連絡して来てもらった」


 すると二瀬が、


「上に言っちゃうと面倒なので、私がここに居ることは警察には秘密で」


 と付け足す。さらりと言う二瀬は、慣れた様子だった。公的機関である警察には珍しく融通の効きそうな人だと好感を抱く。

 いつか香織が、連携課の二瀬さんは片岡部長のお気に入りだ、と言っていたが、その理由が分かる気がした。


「それで今は、うちから20人くらい三ツ谷に行かせてる。ただ……大した収穫は無いと思う」


 片岡が状況を話す。


「吉崎たちと接触したなら、犯人はすぐに三ツ谷からは離れるはずだ。……TSからやり直しだな」


「私のせいですね……すみません」


 香織が呟く。しかし、中山はその言葉を否定した。


「いいえ、むしろ御手柄よ。あなたたちが犯人が優斗君たちを攻撃するのを止めたお陰で、まだ何も起きていないんだから」


 中山の言葉にほっとした様子の香織だったが、片岡と二瀬は話が読めていない。


「優斗君って誰ですか?」


「吉崎、犯人と鉢合わせした、しか聞いてないが、何かあるのか?」


 香織は、ハッと口を覆う。


「すみません、慌てて修正部行っちゃったんで、片岡部長にはお話ししてませんでした」


 香織は、三ツ谷での出来事や犯人の言動を細かく説明する。

 その途中で二瀬が口を挟んだ。


「待って下さい。犯人は、SIX STORYのせいって言ったんですか?」


「あっ、そうです。SIX STORYってあの……」


「巨大IT企業ですよね。警察でもあそこのシステムを使っています」


 世界的にも有名で、知らない人はいないと言えるほどの巨大企業SIX STORY。


「犯人像が見えて来そうですね」


 二瀬が言ったが、その声は明るくない。


「……SIX STORYをどうしたいんでしょうか。まさか、歴史的に消したい、なんて大層な事では無いだろうけど」


 片岡が、とりあえず、と口を開く。


「TSチームはTSで、三ツ谷の社員は引き上げて、 SIX STORY関係を捜査させよう。修正部は……」


 中山が片岡の言葉を遮る。


「私は私で勝手にやるわ。修正部も、私の好きにさせて」


 頼むような言葉遣いだが、口調はほぼ強制だ。


「……勝手にしろ」


 片岡が言い、中山が軽く頭を下げて対策部を出て行った。

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