第6話 優斗とさやかI
2718年9月20日午前5時30分
時間旅行特有の浮遊感から一転、硬い床に投げ出される。手を離して周りを見ると、そこは修正部だった。
「えっ……一ノ先輩に紗奈ちゃん!?」
和弥が裏返った声で言う。同時に修正部のドアが開き、香織と中山が駆け込んで来た。
「やっぱり。一ノ瀬なら修正部に行くと思った」
香織が安堵に呟く。
しかし、中山の表情は固かった。
「……待って、状況が掴めないんだけど。その子たちは、過去の子? 犯人と鉢合わせしたって、一体何の話なの」
中山は律希に説明をするよう視線を送る。
しかし、律希は床に手をついて、下を向いたまま答えない。
「律希? どうしたの、大丈夫?」
中山が律希の前に膝をついて聞く。
「……大丈夫、です。少しすれば」
「大丈夫って……全然大丈夫そうに見えないけど」
律希の顔色は酷く悪い。息遣いも荒く、話すのも辛そうに見える。
しばらく心配げに見ていた中山は、不意に呟いた。
「……時間旅行障害」
律希が少し顔を上げた。その様子を見て、中山は咎めるように眉を寄せる。
「自分で分かってたの? それなら何で今まで言わないのよ」
「……すみません、もう、大丈夫だと……思ってて」
2人の会話が分からず、紗奈は和弥を見た。しかし、同じく分からないらしい彼は首を振り、中山に聞いた。
「時間旅行障害って何ですか?」
中山は律希の様子を見ながら答える。
「……車酔い時間旅行バージョン的な感じかしら。症状は急激かつ極度の疲労感。吐き気や頭痛、息苦しさなどが出る人も居るわね」
「時間旅行でそんなことになるんですか? 俺は全然平気ですけど」
「だから車酔いと同じなの。大丈夫な人は大丈夫だし、そうでない人もいる。それに、かなり珍しいのよ。律希ほど顕著なのは特に、ほとんど症例がないと思う」
中山の言葉に、律希が「すみません」と呟いた。
「謝らなくていいでしょう。でも、分かってたなら教えて欲しかったわ。時間旅行が苦手なら、無理にさせなかったのに。知らない内にかなり負担かけちゃったじゃない」
「……いえ、普段は全然。本当に、大丈夫なんです。今日は急だったのと、4人で作動させたからだと思います」
少しは普通に話せるようになった律希の様子に安心して、中山が言った。
「それならいいけど、あまり無理しないで。今は少し休んでていいから」
律希は素直に頷く。心配して見ていた紗奈に、大丈夫だってば、と気弱に微笑んだ。少しはほっとしたものの、紗奈はあの時とっさに何も出来なかったことを反省した。
そこで優斗が恐る恐るといったように口を開いた。
「……あの、ここはどこですか?」
その場の大人が2人の存在を思い出す。忘れていた訳では無いが、つい意識から外れていたのだ。
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