第4話 TSⅢ
「分かった……埼玉県西崎区三ツ谷4丁目。16番3号」
しばらく経って、律希が場所を割り出したらしい。彼はパソコンを傾けて、紗奈に画面を見せてくれる。Enterを叩くと、そこに地図が表示された。
「三ツ谷公園……ですか?」
表示された地名を見て紗奈が聞くと、律希は、
「目的地はここで間違いないと思う」
と言って画面を変えた。今度はその公園の写真がいくつか出てくる。
「結構広いですね。でも、時間旅行客が好んで行きそうな所には見えません」
「時間犯罪が目的なのは確実な気がする」
律希が紗奈に同意する。
その時、対策部のTSチームの一人が、言った。
「時刻分かりました! 2018年8月25日の夜9時50分です」
全員が手を止め、片岡が確認を取る。
「時代は基礎時代2018年8月25日、時刻は午後9時50分、場所は埼玉県西崎区三ツ谷4丁目16番3号。それで間違いないか?」
香織と律希がうなずき、さっきの社員も、はい、と答える。
後は普通警察と連携して、歴史を変えられる前に犯人を止められればいい。しかし、最初に時空間の歪みが見つかってから今まで、かなりの時間が経ってしまっている。
「時間が無いな……」
普通警察は時空学関連には疎い。社員の安全を取れば彼らに頼るのが妥当でも、介入させれば面倒になるし、時間もかかる。
片岡が躊躇うと、香織が言った。
「私、行きます。改変を許しちゃったら、それこそ大変ですから」
香織が所属するのは対策部だが、修正ソフトも使える為、修正部が忙しい時には手伝いに行く事が多い。前回の修正の際も手伝っており、修正に追われている時の大変さはしっかり理解している。
「僕も行きます。後で困るのはうちなので」
律希も続いてそう言うと、紗奈も慌てて手を挙げた。
「わ、私も行きます!」
何も知らない自分がここで手を挙げるのは、多少無茶かもしれないと言う自覚はあった。でも、自分だって役に立てる、足手まといになんかならない、と示したかった。
律希と香織が、一瞬心配げに紗奈を見たが、片岡は三人に時間機を渡した。
時間機は、携帯電話サイズの小型の時間旅行機の通称で、その使用は時間警察に限って認められている。
使用方法は簡単で、ディスプレイに目的地の時代と位置を入力すれば、後は手に持った状態で作動させるだけでいい。間接的にでも、時間機と身体が触れていれば良いので、手を繋いでいれば、2人、3人の同時使用も可能だ。
「何か分かったら直ぐ連絡しろよ。逆に、危険を感じたら直ぐに帰って来い。無理は絶対するな」
片岡の口調は、冷静でいながら緊張を含んでいる。
紗奈はディスプレイにさっき割り出した目的地を打ち込み、律希を見る。
「大丈夫そう?」
律希の問いにうなずいて、紗奈は時間機を作動させる。
目の前がふっと暗くなり、無重力状態のような時間旅行独特な感覚がした。
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