たくらみはたらき
あれから私たちは3人で過ごすようになった。話し合いから2ヶ月。
私たちは午後の授業をひとつ潰して、催し物の準備をしていた。この学校は2週間後に文化祭を控えている。看板や展示物の設営をクラスの人々は躍起になっていた。
「皆さん進捗どうですか?」
黒板前で女子が声を張る。彼女は地車夢(だんじり むう)。委員長や保健委員を兼任しており仕事に滞りがない。彼女は文化祭の委員も担っていた。クラスの進捗を判断して人員を振分ける。その仕事ぶりに皆は従う。彼女はすぐに泣くから逆らうと疲れてしまう。
「まだ二作さんと友達なの驚けるんだけど」
「まえはごめんね」
「いいよ」
静沼はプリントに1日のスケジュールを記入している。彼女はクラスメイトのシフトを組んでいた。
このクラスは喫茶店を行う。お茶を入れたり拭き掃除したり、人々の時間の要望を聞いていた。
「あらためて二作かりんです。クラスで話すのは初めてだね。よろしく」
「いまさら?」
二作に目もくれないのは、文化祭に気を取られてるからだ。
「まあいいや。よろしくー」
私は1日おいて静沼と二作を合流させる。二作に私の親しい友人を知ってもらいたかった。そして、互いに仲良くなれば私が喜ぶ。
静沼には誰よりも早く私の好きな人を紹介したかった。私がかりんに告白し、その後で、二作かりんの関係性を語られたら衝撃を受けるはず。
「え、てか接点なかったよね。謎の極みなんですけど」
「たまたま映画館で遭遇した。透明と犬が主題歌のやつ」
二作のつま先が私の靴に当たる。今ここでマッチングアプリのことを晒す度胸はない。この親友は私が女性を性的に好きだって思っていないだろう。
「あれ私と見ないの?」
「静沼は映画館で眠るじゃん。興味ないかなって思って」
その日初めて顔があった。まぶたに疲れが残っている。
「別に寝ないけど」
「前に寝たじゃん」
「もうそれでいいよ」
静沼はペンを走らせなくなった。ボードと身体をあけて、誰かを探すように目を動かす。
「二作さんって仕事振り分けられてないんだね。むーよぶね」
話していると地車が寄ってきた。低身長の彼女は手にいっぱいの荷物を持っていて、その荷物に潰されそうで不安になる。ただ、これを取り上げたら怒ってしまう。
「私の名前が聞こえましたが、3人は仕事進んでますか?」
「あいと二作貸してあげる」
「でしたら私の仕事に付き合ってください」
「わかった」
「あい。ちょっと聞いて」
「なに?」
私は振り返る。静沼はスマホを取りだし、画面を表示した。
「今日も電話してね。すぐ出てね」
「うん」
地車はクラスを出て廊下に出た。彼女の背を追いつつも、隣の二作に注目してしまう。
「なんでそんなに見る」
「かりんがどんな顔してるかなって」
「静沼さんって噂にたがわず強烈だなって顔」
私には音楽を聴いているような遠くを見つめている表情と近しいとしか思えない。
「たしかに突っかかるけどね」
「静沼さんとは子供の頃から付き合いあるんだね」
「そうそう。親の集まりに居た。暇そうだから話しかけて、それからずっと一緒」
「嫉妬しちゃうな。私は今からの修宇あいしか分からないから」
「それも贅沢な事だよ」
「言うね」
「突然すみません2人とも。二作さんと修宇さんっていつから友達なんですか? 私の記憶では修宇さんといちずは親友だって知っているのですが」
地車も会話に入りたかったらしい。
今は階段をおりて靴箱を素通りした。このまま緑の廊下を歩いたら、体育館に到着するはずだ。
「最近知ったの」
「友達が増えることは正しいですね!」
「地車さんは本当正しいって言葉が好きだね」
二作の発言に足を止める。小さな背中に体が当たってしまった。彼女はよろけるけど返答に集中しているのが、顔を見なくても把握出来た。
「私は正しいことが好きです。そうしたら誰も傷つかないと思います。悪には、正しさを押し通すべきだと考えます」
「うん」
「でもそんな態度だったら、私に友達が出来ないと思いませんか!?」
どうやら彼女の地雷を踏んでしまった。人の真剣な話は昼間にすることじゃない。寝る前の暗闇や、暇つぶしのファミレスで盛れてくるものほど答えやすかったりする。
「地車さんは自分を変えたいの?」
「変えられません。前に相談を受けたのですが、傲慢な正しさゆえに意見して傷つけてしまいました。繰り返したくなくても、正しさを追い求めるのが快楽です」
「快楽って……」
快楽は性的興奮を連想させてしまう。おそらく地車は心の整理をつけるのに夢中だ。
「『カソ』に入れば何か変わるかなと悩んでます」
「やめておきな」
「確かに黒い噂もありますが、事実加入してから仲良くなった人たちもクラスにいますよ?」
「やめておきなって言ったからね。何があっても知らないよ」
言葉が強くなってしまった。私は正面の地車ではなく、昨日の母親に言いたかったことだ。どうして対話は覚悟がいるのだろう。覚悟できないから、人に当たってしまう。
「カソとあいさんは何かあるのですか?それとも、修宇家にあるのですか?」
「その探究心は良くないんじゃないかな。地車さん」
「に、二作さんまで。わかりました」
それで話は途切れた。
その時、手に温い温度が伝わった。
「休む?」
「ううん。手伝おう」
地車はおろおろする。彼女は私のことを何も知らない。だから、何も負い目を感じることじゃなかった。気にしないで欲しいから私は取り繕うと決める。
「ほら地車。案内してよ。体育館でしょ? 何すんのか知んないけど」
「ああ、いつもの修宇さん……。そのつっけんどん安心します。体育館ではですね────」
そう話しながら、ほっと胸を撫で下ろす。
「かりん。今の私いやだ?」
「嫌じゃない。でも、修宇あいのイメージ通りに強いひとって感じだった」
「あの態度は取り繕いってバレたね」
「ううん。教えてくれてありがとう」
そういえばと、彼女は携帯を取り出す。画面の液晶は亀裂が真ん中に走っていた。また、今は見ないような古い機種だ。
「いつライブ映像を見る?」
私は1度立ち止まった。そうして、昨日の話と繋がっていることを思い出す。
「いつでもいいよ。でも、どこで?」
「映画館でやろうか」
「え、できるの?」
映画館は企業や団体に会場を貸出するところもある。彼女が目に着けた会場はミニシアターで、料金払えば借りることができるらしい。
「来る?」
「行きたい」
「文化祭の日にやると言っても?」
彼女は私が誘いを断らないと知っている。なのに、選択肢をあえて提示して、私が選んだと責任を背負わせた。
「絶対いく」
文化祭の日に透明と犬のライブを映画館で流す。私たちはサボタージュの約束をした。
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