自殺配信

 

自殺配信

「待ってください」


 自殺配信をしようと、マンションの屋上から下を眺めていると、後ろから声がした。同じマンションの住人か?そう考えていると、その声はこう続けた。


「メンヘラ・リスカ・プリンセスさん」


 ああ、私の配信を見てる視聴者さんか。無視するのは忍びない。仕方ないので、後ろを振り返り返事をした。


「こんにちは。あなたは私のチャンネルの視聴者さん?」


「はい。そうです。僕、優太って言います。メンヘラ・リスカ・プリンセスさんがSNS上で自殺配信するって仄めかしていたから、いてもたってもいられなくて。飛び降りるなら、きっと自分のマンションからだろうと思ってここまで来ました」


「私の住所はどうやってわかったの?」


「3年前ぐらいに、メンヘラ・リスカ・プリンセスさんが自殺するって呟いた時に、自分の住所も一緒にSNS上にアップしていたじゃないですか。それをスクショして保存していたんです」


「それでここがわかったってわけか。で、要件は何?」


「メンヘラ・リスカ・プリンセスさんの自殺配信を止めに来たんです」


「どうして?」


「あなたに生きてほしいから……なんて偽善者が言う言葉ですよね。嘘偽りなく言うと、マンションから飛び降りる自殺配信なんてつまらないからです」


「電車に飛び込む自殺配信とかビルから飛び降りる自殺配信は、ネット上にいろいろと出回ってるんですよ〜。そんなの見てもつまらないじゃないですか〜。だから、メンヘラ・リスカ・プリンセスさんには塩酸を飲んで自殺配信してほしいと思って、それをお願いしにここまで来たんです」


「えっ、え、塩酸?無理無理。っていうか、私、塩酸なんて持ってないから」


「大丈夫です。僕持ってきましたから」


「そんな物騒なもん一体どこから……」


「大学の研究室から盗んできました。だから、今からこれを飲んで自殺配信してください」


「無理」


「どうしてですか?」


「苦しいのは嫌だから」


「マンションから飛び降りる方がもっと苦しいですよ。下手したら、後遺症が残って、一生家族に世話されながら生きていくかもしれないし。それと比べると、塩酸を飲めば、確実に死ねますよ。あと、前にメンヘラ・リスカ・プリンセスさん言ってましたよね。死んだ後もネット上に名前が残っているような人になりたいって。僕が調べたところによると、今のところ塩酸を飲んで自殺配信をした人はいません。この方法だと、確実にネット上に名前が残りますよ。どうですか?いい話だと思いません?」


「うん。じゃあ、わかった」




 それから、私たちは屋上を後にした。そして、私は自分の部屋に優太を招き入れた。


「はい。これが塩酸です。言っておきますが、薄めてはいないので、これで確実に死ねますよ」 


 優太はそう言うと、私に試験管に入った塩酸を渡した。


「ありがとう」


 私は、それを受け取ると、スマホで配信を始めた。


「え〜、今日、2022年5月19日木曜日、メンヘラ・リスカ・プリンセスは、塩酸を飲んで自殺します」


 そう言い終えると、私は試験管に入った塩酸を一気に飲んだ。喉が熱い。苦しくて堪らない。


「うっ、……苦しい。喉が焼けるように熱い。早く救急車呼んで」


 机の向かいに座っていた優太に、私はそう言った。すると、優太はきょとんとした顔で私に質問した。


「これから死ぬのにですか?」


「いいから、早くっ」


「いいですけど、救急隊の人に笑われると思いますよ」


「どうして?」


「だってそれ、ただの水ですから。いや〜、すごい。プラシーボ効果って本当に効果あるんですね」


「じゃあ、僕はこれで失礼します。次の配信も楽しみにしてますよ。メンヘラ・リスカ・プリンセスさん」


 そう言うと、優太は苦しむ私を横目に、さっさと部屋から出て行ってしまった。

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自殺配信   @hanashiro_himeka

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