第93話夜の女神の加護
メドゥーサはゆっくりと僕に近づき、両手を握る。
「まだまだ女神としての
メドゥーサは真っ赤な瞳で僕をみつめる。
「女神様が降臨なられた……」
光からあらわれたメドゥーサを見て、イザールは目を見開いて驚いている。
それはアヴィオールやゲンマも同じであった。
ウェズンだけは冷静にこの場の様子を観察している。
もしも僕に危害を与える相手があらわれたのなら、彼女が真っ先に動いてくれるだろう。
でも、大丈夫だよ。メドゥーサは間違っても敵対はしないだろう。
彼女は僕のリビドーにとりつき、どうにか存在を保っていたのだから。
「せっかくこっちに来られたのはいいんだけど、どうにか実体でいられるのが精一杯のようなんだよね。僕がもっと力を取り戻すには僕のことを信じてくれる人を増やさないといけないみたいなんだよね」
メドゥーサは言う。
「そうね、うちらのことを存在すら知らない人たちがいっぱいいるからね、頼んだよ燐太郎」
影からあらわれたステンノーがつけたす。
「こっちに来られたけど、どうやらメドゥーサが実体を保てるのはこの教会の近辺だけみたいなんだよね」
ステンノーが言う。
「燐太郎、お願いがあります。僕のお願い、聞いてくれるかな」
メドゥーサは赤い瞳で僕を見つめる。
「ああ、いいよ」
僕は答える。
麗華をはじめ、いろんな女の子たちと仲良くなれたのはメドゥーサがこの異世界におくってくれたからだ。
彼女の願いは叶えてあげたい。
「僕の願いはこの世界の人たちが自由に思いのまま生きられること。女神として他の七人とできれば同列になりたい。だから燐太郎はこの国を救ってほしい」
メドゥーサは僕の手をさらに強く握る。
「ああ、もちろんだよ、メドゥーサ」
僕はメドゥーサの手を握りかえす。
あらためてここに誓おう、僕は必ずこの国を魔王軍から取り戻してみせる。
この国の人々を魔族の支配から解放してみせる。
「ありがとう、燐太郎。では君と獣属契約している人たちに僕の加護を与えよう」
メドゥーサはそう言うと僕の手を離し、両手を組み合わせて祈りの姿勢をとる。
「僕の子たちよ、君たちに幸あれ」
メドゥーサがそう祈ると彼女の体が光輝く。
「メドゥーサの使徒」「預言者」「枢機卿」の称号を獲得しました。
獣属契約した相手と念話でやりとりできます。
ヤマタノオロチを宿りし鷹峰麗華には「勇美華麗」の加護が与えられます。
ヨルムンガンドを宿りし真田雪には「雪月風花」の加護が与えられます。
クルルカンを宿りしイザールには「花鳥風月」の加護が与えられます。
シーサーペンスを宿りしルイザには「情愛無限」の加護が与えられます。
ファルコンを宿りしアヴィオールには「竜章鳳姿」の加護が与えられます。
視界に文字が次々に浮かんでいく。
「燐さん、凄いよ。体から力があふれてくるよ」
イザールが自分の手を見ながら言う。
「本当、温かくて優しい気持ちになるよ。この力できっとご主人様を守ってあげるね」
アヴィオールがにこやかに微笑み、そう言った。
たぶんだけどここにいない人たちにもきっと力が与えられたのだろう。
「ありがとう、メドゥーサ。僕はきっとこの国を取り戻して、君を元の女神にしてあげるよ」
僕はメドゥーサに約束した。
「ええ、待っているわ、燐太郎」
メドゥーサはそう言った。
メドゥーサの教会を後にした僕たちは幻影城に戻った。
今度はそこで淫魔王リリムと街の返還について話しあわないといけない。
僕はリリムこと母さんが用意した大部屋にアルタイル騎士団の面々を召集した。
最初に案内されたあの大きな部屋だ。
そこで僕はリリムの用意した返還条約の文書にサインをする。
文書の条件はこうだ。
リリムは幻影城の主としての地位は保証する。それ以外のすべての権利は王国政府に委譲する。
モードレッドの街に王国側の管理者を受け入れる。
現状、統治は街の自治組織に任せる。
要約するとこういったところだ。
また、これはこの文書には書かれていないが王都の夜の虹を編む者をまとめる役として咲夜ちゃんが滞在することになった。
場所は王都の西側、あの貧民街に作られる。
そこは後にアンタレスの館と呼ばれる場所となる。
その後、僕たちは母さんの用意した豪華な食事をとり、翌日にはモードレッドの街をでることにした。この条約文書を王都に持ち帰り、王女に許可をもらわなければいけない。
街の処置には一応、僕に委ねられているのでまあ、うまくいくとは思うけどね。
「燐君、いつでもここにおいで。困ったときにはいつでも呼び戻してちょうだい」
不夜城の城主リリムこと母さんが僕に言った。
そうそう、淫魔王の称号を母さんは放棄したのだ。それは魔王の称号であったからね。
リリムはこの日から女城主と呼ばれることとなり、実質的な街の支配者となる。
名よりも実をとる。
まあ、そんなところだ。
天狼族と共に二日ほどかけて僕たちアルタイル騎士団は王都に戻った。
すぐに王宮に行き、王女リオネルに条約文書を渡す。
その文書にさらに王女リオネルがサインをつけくわえてそれは正式なものになった。
モードレッドの街を解放した功績により、僕は伯爵の爵位を与えられた。
さらに家門を持つことも許された。
今までは法的には一代だけの限定的な貴族であったが、それを次の世代にも譲ることを許されたのだ。これで僕は正式な王国の貴族の列にならんだことになる。
僕に与えられた家門はモードレッドである。
これと同時にモードレッドの街の管理者にも選ばれた。
リリムは僕の母さんだから、これはいろいろやりやすくなるな。他の人なら母さんは納得してくれないかもしれないし。
このことにより僕はモードレッド伯アルタイルと呼ばれることになる。
次に麗華は先の魔王軍との戦いで断絶したファフニール家を再興するように命ぜられた。
これから麗華はベガ・アリス・ファフニールと名乗ることになる。また、子爵の爵位も与えられた。
真田雪はヨルムンガンド家を創設することになった。デネブ・ヨルムンガンド男爵家の誕生である。
イザールにはククルカン家を創設することになる。イザール・ククルカン男爵家の創始者となる。
アヴィオールにも男爵夫人の称号が与えられた。アヴィオール・ファルコン男爵家の始まりである。
ルイザさんも新しい家門をつくることを認められた。
ルイザ・シーサーペンス男爵家の初代当主はルイザさんである。
モードレッド伯爵家、ファフニール子爵家、ヨルムンガンド男爵家、ククルカン男爵家、ファルコン男爵家、シーサーペンス男爵家は新貴族と呼ばれることとなる。
残念ながら、咲夜ちゃんにはなんの報奨も与えられなかった。
ただ、王都での活動は黙認されることとなる。
「私は魔族に落ちちゃったんだからいいよ。明るい表舞台は燐太郎が歩めばいい。私は燐太郎の影となって支えさせてもらうよ」
咲夜ちゃんはにこりと微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます