第91話悪魔皇帝サタン

体の体温がニ、三度上がったような気がする。

体温が上がって体が熱いはずなのに妙に心地よい。

それに体が蛇になっていくのに体温が上がるなんて変な感じだ。


称号「愚者」を獲得しました。

視界に文字が浮かぶ。

愚者だなんて失礼だな。

俺はこんなに落ち着いているのに。


特技スキルに勝手に「愚者」「ウロボロス」「魔王子アモン」がセットされる。


「えっなに、どうしたのよ燐太郎」

咲夜ちゃんが僕を見て言う。


「まさかまたあの蛇の悪魔に」

雪が言う。

わなわなと震えている。


そんなに震えるなよ。

また後で可愛がってやるよ。おまえたち。


まずは目の前の邪魔なやつを片付けなければ。

あのジャバウォックを名乗る男は邪魔者でしかない。

奴は俺の女を虐待し、さらに犯そうとしている。こんなことは許すわけにはいかない。

奴はこの世界のどこにもいてはいけない。

存在を完全に消してしまわないといけない。


ちらりと横を見るとまだ夢魔ヘルと二人が戦っている。

さすがは俺の作り出した存在だ。

十分に強い蓮と麗華と互角に戦っている。

この戦いをまずはとめないといけない。

邪魔で仕方ない。


「俺の邪魔をするな、ヘル・インテグラ・ビクトリア」

俺はヘル・インテグラ・ビクトリアに命令した。

彼女はぴたりと動きをとめる。

一歩下がり、愛用の麦わら帽子をとり、深く礼をとる。

うむうむ、いい心がけだ。

褒めてやろうじゃないか。


夢魔ヘルが突如、攻撃を止めたことに蓮と麗華は驚いている。

ヘルが俺の命令をきくのは当たり前だ。

ヘルは俺が造り出したものだからな。


「殿下にたいし無礼を働いたことご容赦ください」

ヘルが言う。


「うむ、かまわぬ。おまえは元に戻るがいい」

俺が言うと瞬時に夢魔ヘルは蛇の呪符スネイクカードに戻る。

俺はそれを舌の上にのせ、飲み込む。

すでに完全な蛇の肉体になっているので手がないのだ。なので仕方なく口の中に入れた。


「なんだ貴様は。何故、貴様は余の邪魔をするのだ」

完全に狼狽仕切ったジャバウォックが言う。

それはそうだろうな。

自分を完全に上回る魔力を持つ相手が目の前にあらわれたのだからな。

心配するな。

すぐにおまえそのものを食らってこの世にその片鱗すら残らぬようにしてやる。

おまえの罪は俺のものをかつて傷つけたことだ。

その罪は深く重い。

地獄に落ちることすら生ぬるい。



俺は体をくねくねと動かし、精神だけとなったジャバウォックの体にまきつく。

精神だけの存在に触れられるのは俺の魔力の成せるわざだ。

ギリギリとしめつけると苦痛の悲鳴をあげる。

それも俺の魔力によるものだ。

肉体を失くしたジャバウォックに肉体があったとき以上の苦痛を与えてやる。

それでもやつには生ぬるいはずだ。


俺は口をあけ、自慢の牙でジャバウォックの肩に噛みつく。

またやつは悲鳴をあげる。

かまわずにジャバウォックの体に噛みつき続けて、さらに食いちぎったものを咀嚼する。

不味いな。

欲望に濁った苦い味がする。

しかし、俺はこいつのすべてを食らってやる。

食らいつくして存在をすべて失くしてやる。

数回それを繰り返し、ちぎったものを飲み込むとジャバウォックは跡形もなく消えてしまった。


俺はゲフッと下品なげっぷをする。

ふと振り返ると四人が驚愕の顔で俺を見ている。そんなに驚くことなのか。

倒すべき敵を倒しただけではないか。


獣魔王ジャバウォックの魔力を完全に吸収しました。

レベルは60に達しました。

魔力の上限が解放されました。

視界に文字が浮かんでいく。


ほう、見る見る魔力の数値が上がっていくな。魔法使いの雪も軽く凌駕するほどだ。

このなかで俺の魔力が一番高いようだな。


獣魔王ジャバウォックを取り込んだことにより、残りの魔王の称号を獲得しました。

「堕天使ルシファー」「蝿の王ベルゼバブ」「終末の獣リヴァイアサン」「悪魔博士ベルフェゴール」「地獄の竜アスモデウス」「悪魔皇帝サタン」の称号を獲得しました。

七柱の悪魔の称号が揃いましてので、特技スキル「七つの大罪」が使用可能となりました。


視界に次々と文字が浮かんでいく。

かなりごたいそうな称号がそろったじゃないか。

それでその特技スキルの七つの大罪とは何なんだ?


特技スキル七つの大罪は今まで討伐した魔王を召還し、使役することができます。

しかし、召還に際して大量の魔力を消費するのでお気をつけください。


親切にもオーディンの義眼に浮かぶ文字が説明してくれる。

ほう、ということはあのローレライやミカエラをよびだせるのか。

それは豪気なことだ。


淫魔王リリムだけは魔力消費ゼロで呼び出せます。

さらに文字が続く。



その直後、目の前に複雑な魔法陣が浮かび、淫魔王リリムがあらわれた。

花魁姿のリリムは俺に近づき、そっと抱きしめた。


ああっこの感覚は久しぶりだな。

小さいとき、夜の暗闇が怖くて泣いていると母さんがこうやって抱きしめて一緒に眠ってくれたものだ。

「もう怒らなくていいのよ。アリスちゃんを傷つけるものはいなくなったからね。燐君は昔から優しかったからあいつらが許せなかったのね。でもね、怒りにすべてをまかせたらだめよ。怒りに取り込まれてしまうわよ。あなたはそんなに弱い子じゃないわ。だって私の子供だもの」

淫魔王リリムはそう言い、そっと口づけする。


するとどうだろうか、心のなかでうごめいていたどす黒いものがすっと消えていく。

僕は何をしていたのだろうか。

体の熱がだんだんと消えていく。


「そうだ、和久。おまえの器はもっとでかい。そんな黒くて醜いものに飲み込まれるな。おまえならそんな悪魔たちなんかも使いこなすことができる。僕は君のことをけっこう買っているんだ。僕の期待にこたえてくれ」

蓮が僕の顔をなでる。


優男め、わかったよ。

おまえなんかに言われなくても、僕はこの力を必ずやコントロールしてみせる。


ふと手を見ると僕は元の人間にもどっていた。


「よかった、また元にもどって」

雪が涙を流している。


「一時はどうなるかと思ったよ」

良い巨乳を組んだ腕にのせ、咲夜ちゃんが言う。


「よかった、燐太郎!!」

そう言って、麗華が僕に抱きつく。僕の体を軽々と抱き上げて、くるくると回る。

超巨乳が僕の顔に当たって気持ちいいや。

「でも俺の女って言ってくれてけっこう嬉しかったわ」

麗華は僕の口にブチューと口づけする。

やっぱり麗華の唇は最高だ。


ううんっと淫魔王リリムこと母さんは咳払いをする。

「さあ、元の世界にもどるわよ」

淫魔王リリムは低い音律の呪文を唱える。

またあの強烈な眠気が僕たちを襲う。

次に目を覚ましたときにはあの幻影城の一室にあるもとのベッドにいた。


因果の鎖が切り離され、絆の光に照らされました。

モードレッドの街は解放されました。

「モードレッドの街の解放者」の称号を獲得しました。

文字が視界に並んでいく。

やったぞ!!四つ目の街をついに解放したぞ!!


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