第90話獣魔王ジャバウォックの亡霊

シルクハットをかぶる兎を僕たちは追いかける。

階段を登り、上の階に到達する。

さらに迷路のような道をくねくねと曲がる。

「あの兎も猫のチーちゃんも昔、家で飼っていたのよ。でも、あの二人がめんどくさくなったとか思っていたのと違うとか言って死なせてしまったのよ」

麗華は言う。

麗華は両親のことをあの人たちと言う。

それは彼女がもう彼らを親と思っていないことの証拠だろう。

彼女が虐待を受け始めた理由は両親に似ていないということであった。

麗華はどうやら母親の祖母に似ているようなのだ。

麗華の曾祖母ひいおばちゃんはイギリス人で映画女優だったという。

ハリウッド映画にもでたことがあるというけっこう有名な女優であったらしい。

麗華は兎を追いかけながら、そう説明してくれた。

なるほど、麗華の飛び抜けた美貌は隔世遺伝というわけか。


僕たちはさらに上の階に登る。

階段を上りきると兎はその足をとめた。

僕たちに向かってシルクハットをとり、一礼する。

そこは豪華な扉の前だった。

「この奥にはジャバウォック陛下がいらっしゃいます。今ならひき帰すことも可能ですが、どうなさいますか?」

兎はきく。

「もちろん、決着をつける」

僕は言う。

ここまで来て、帰るなんて考えられない。

ここで戻ってしまったらジャバウォックはまた夢の世界でなんの罪もない人々を殺していくのだろう。

それに淫魔王リリムの条件を達成できず、モードレッドの街は王国に返還されない。

いかないという選択肢はない。

「行こう、燐太郎」

麗華が言い、僕の肩を抱く。

うふっ麗華のおっぱいがまた顔にあたっているや。何度味わってもこの感覚はたまらない。



こいつの体は俺のものだからな。



僕は雪と蓮、咲夜ちゃんの顔を順番に見る。

皆頷いてくれた。


僕は扉に両手をあて、ゆっくりとあける。


そこはガランとした大きな空間であった。

ざっくりと広さはテニスコートぐらいかな。

奥のほうにゆらゆらと揺れる物体がある。

それに近づくとそいつはぼんやりとした人の形に変化した。

なんだか子供の落書きみたいな存在だ。

目や口はただの白塗りであとは影のようにユラユラと揺れている。


「陛下、ご息女をお連れしました」

兎は言う。


「よくやった。兎よ。褒美に食ってやろう」

グニャリと手がのび、兎をつかむ。

「陛下、お話が違います……」

兎がじたばたと暴れるが、逃れることができない。

その影のような存在は兎をバリバリと食べてしまった。


なんて奴だ。

兎には僕たちを連れてきたらなんらかの報酬を約束していたのだろう。

いざ連れてきたら、ようなしとばかりに食べてしまうなんて。

これがこいつの本性なのだろう。

麗華の父親のようだが、正義の味方である彼女とは大違いだ。

たぶんだけど麗華は彼らを反面教師にしてそだったのだろう。

麗華が正義の味方を名乗る所以であるだろう。



絶対にやつには俺の麗華を渡すものか。



「おまえたちを殺して、麗華を犯してやろう」

グフフっとジャバウォックは笑う。

汚い笑い声だ。

どうやら、あの最低の父親は自分の娘に性的な欲望をもっているようだ。

かつて、麗華にたいしてそうしようとしたことをこの夢幻迷宮ラビリンスで叶えようというのだろう。

絶対にそうはさせない。



何故ならこの女の肉体は俺だけのものだからだ。この女を犯せるのは俺だけだ。



なんだ、さっきから頭の中で自分の声がこだまする。僕は一人称を俺なんていったことないのに。



「余は実体を持たない。ゆえに別のものを戦わせよう。かのものを倒せるかな」

またあのグフフッという君の悪い笑みをする。


ジャバウォックの亡霊はその影のような体から何かを取り出した。

それには蛇の絵が描れている。

間違いない、あれは蛇の呪符スネイクカードだ。

「出でよヘル・インテグラ・ビクトリア」


蛇の呪符が淡く光る。

次の瞬間には同じ場所に背の高い女性があらわれた。

麦わら帽子に赤と黒のストライプのタンクトップ。胸はかなりのボリュームでタンクトップがはちきれそうだ。

デニムのパンツに黒いブーツ。

癖のある金髪にその秀麗な顔にはバツ印の傷が深くきざまれている。


それは独自の登場人物オリジナルキャラクターのヘル・インテグラ・ビクトリアだ。

夢の悪魔ヘルは少年少女たちの夢にあらわれ、殺害していくのである。

しかしながら、夢を食らう妖魔である夢食みドリームイーター獏に倒されるのである。

まさか、敵役のほうが蛇の呪符スネイクカードになってあらわれるなんて。

しかも僕たちの前にたちはだかるとは。


ジャキンという金属のぶつかり合う音がする。

それはヘルの凶悪な武器である悪夢の爪イビルネイルである。

ヘルの両手が瞬時にその悪夢の爪に変化する。


夢魔ヘル・インテグラ・ビクトリア。

レベルは159。

戦闘力と素早さはかなり高い。

戦闘力は麗華並みで素早さは蓮とほぼ同じ。

B120W82H106とスタイルはボリュームたっぷりの僕好みのグラマーだ。

それもそうだ夢魔ヘルのモデルは麗華なのだから。

夢の中に麗華によく似た悪魔があらわれ、エッチなことをしたあと、食い殺されるという妄想の果てにうまれたのがヘル・インテグラ・ビクトリアだ。

特技スキルは魅了、毒攻撃、麻痺攻撃、素早さ倍増とある。

身体状況を異常にさせるのが彼女の得意攻撃だ。


「あれってあのあずきちゃんと同じカードよね。燐君のオリジナルキャラクターって鷹峰さんに似てるのが多いわね」

目を細めて、雪が言う。

それはそうだろう。

僕の理想の美貌とスタイルを持っているのが麗華なのだから。

ちなみにあずきの姉のそらのモデルは麗華だ。

あずきちゃんは姉のような巨乳になりたいといつも悩んでいる。

あずきの憧れる初範ショパンが姉にぞっこんだからだ。


「そんなことより、あいつは毒や麻痺攻撃が得意なんだ。あの鉄の爪に気をつけて」

僕は皆に注意をうながす。


その直後、夢魔ヘルは地面を蹴り、僕に向けてその鉄の爪を突き立てる。

しかし、二本の剣によってその攻撃は防がれた。

蓮の名刀正宗と麗華の竜剣ジークフリードによってである。


夢魔ヘルはなおも攻撃を続ける。

目にも止まらぬとはこのことだろう。

悪夢の爪は今度は麗華と蓮に向けて何度も突き技を繰り出す。

一度でも攻撃を食らえばその悪夢の爪に染み込んだ毒によって二人は倒されてしまうかもしれない

しかし、夢魔ヘルは強い。

あの二人を相手にして一歩も引けをとらない。

僕はなんてキャラクターを作り出してしまったのだ。


「いいぞ、やつらを殺してしまえ。そのあとは麗華をたっぷりと犯してやろう」

ジャバウォックは醜い笑みをさらに浮かべる。



あんなやつに俺の麗華をやるものか。

あの肉体は俺だけのものだ。



僕は死してなおも麗華に醜い欲望をもつジャバウォックに果てしない怒りを覚えた。

怒りの炎は僕の体を焼きつくすのではないかと思われるほどの熱で体中を駆け巡る。

その怒りの熱に体が焦がされるようだ。


「燐君、体が……」

雪が僕の体を見て、両手で口をふさぐ。


「燐太郎、どうしたのよ」

咲夜ちゃんも驚愕の表情で僕を見ている。


いったいどうしたのだ、皆。

ぼくは改めて自身の両手を見た。

その手はびっしりと黒い鱗におおわれていた。

腕だけではなく顔も足もお腹もである。

僕の体はそのすべてが鱗におおわれてしまっていた。

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