第85話幻影城の会談
目の前でにこやかに微笑む巨乳美女が母さんだって!!
これが本当なら驚愕せざるおえない。
僕は驚きの声をあげるのをぐっと飲み込む。
淫魔王リリムは念話、すなわちテレパスのような能力で話しかけているのだ。
僕が変な声をあげたら、皆が不思議がるだろう。
燐君がすっかり大人になってママ感動だわ。それにこんなにいっぱいガールフレンドを連れてきて、とってもうれしいわ。
淫魔王リリムは僕の頭の中に語りかける。
本当に母さんなのか?
僕は心の中で問う。
そうよ、あなたのママよ。
燐君よくいってたじゃない。幼稚園のとき、ママと結婚するんだって。
そしたら理緒がお兄ちゃんと結婚するのは私っていって泣きだしたのよね。
あーそんなことあったな。ちょっと恥ずかしい過去だけど今ではいい思い出だ。
母さんは僕が中学生一年のときに病気でこの世を去った。
小学生六年の理緒は三日間は泣き続けたな。
どちらかといえばじみ目な母さんがこんな派手な美女に異世界転生してるなんて。
まあ、詳しい話は私の幻影城でするわね。
淫魔王リリムこと母の理利子は脳内に語りかける。
僕は静かに頷く。
「立ち話もなんですし、
淫魔王リリムはそう言い、しゃなりしゃなりと歩きだす。
リリムの部下であろう美女たちもそのあとにつづく。
僕たちアルタイル騎士団はさらにその後につづく。
淫魔王リリムの幻影城は実際は城というよりも広い屋敷のような印象だ。
ちょうど老舗の和風温泉旅館が近いかもしれない。
もともとモードレッドの街は温泉が発見されたことがこの街のはじまりである。
温泉目当ての旅人たちが立ち寄るようになり、彼らのための宿がつくられ、そこから街が発展しだした。
モードレッドの街で湯治をする旅客のために各種のレジャー施設が発展していったのだ。
広大な庭には松のような針葉樹が多く植えられ、いくつもある庭の池にはカラフルな鯉に似た魚が泳いでいる。
おもむきのある日本庭園といった感じだ。
まさか異世界アヴァロンで日本庭園を見れるとは思わなかったな。
たしか母さんの趣味はガーデニングだった。
その発展系なのかもしれない。
僕たちはその温泉旅館のような建物である幻影城の中を案内された。
靴を脱いで入るのにイザールやアヴィオールはとまどった。
「この床、独特の匂いがするわ。それに柔らかい」
イザールが畳を不思議がる。
「これは畳といわれるものです。い草という植物からつくられています。アヴァロン王国にもよく似た植物が自生しているようですね」
丁寧にウェズンが説明してくれた。
「畳なんて久しぶりね、燐太郎」
そう言い、裸足で麗華が畳の感触を楽しんでいる。
やっぱり畳はおちつくね。
淫魔王リリムの案内でひときわ大きな部屋に僕たちは案内された。
柱の至るところにランプがかけかられ、床には畳の上に赤いじゅうたんが引かれている。
部屋の中央には黒い木のテーブルがおかれている。
テーブルの足が精巧な彫り物が彫られていて、一目みてこれが高級なものだと思われる。
華麗な刺繍がほどこされたクッションがいたるところにおかれていてる。どうやらそのクッションは極上の柔らかさを持つ座布団のようだ。
「さあ、お好きなところにおかけください」
淫魔王リリムは言う。
「へえ、直に座るんだ。わあ、燐さんこのクッションふかふかだよ」
猫が刺繍された座布団をイザールが抱きしめる。
この部屋には僕と麗華、雪、イザール、蓮、そして捕虜となったサキュバスの咲夜ちゃんが入る。
他のアルタイル騎士団の面々や天狼族の戦士たちは別の部屋でもてなされている。
韋駄天の異名をもつ天狼族の戦士ベンは美女たちを見てにやにやしているところを妻のクロスにみつかり、盛大に頬をつねられていた。
僕もよく麗華にやられるけどあれは痛いよね。ベンの気持ちはよくわかるよ。今度、ベンと話でもしてみようかな。
「それではまずは咲夜ちゃんの身柄を返還します」
僕は淫魔王リリムに言う。
僕はここで咲夜ちゃんを自由の身にすることにした。いつまでも彼女を捕虜扱いするのは酷だと思ったからだ。
ずっと狭いところに閉じ込めるのかわいそうだしね。
「アルタイル卿には感謝いたします。魔族たる我が配下は殺されても文句は言えません。聞くところによると丁重にあつかってくれたとか。誠にありがとうございます」
淫魔王リリムは豊かな黒髪を持つ頭をさげる。
「リリム様、アルタイル卿ははじめの条件を受け入れてくれました」
鳥の刺繍の座布団を張りのあるお尻にひき、咲夜ちゃんはリリムの隣にすわる。
ああっあの座布団になりたいな。
「さようですか、ご苦労様でした咲夜」
リリムは言う。
黒い和服を着たきれいな女性たちが僕たちの前に緑茶をおいていく。
幻影城では黒や茶色の和服を着たものは給仕や料理、掃除を担当するという。
派手な柄を着たものたちは接客を担当するのだという。
黒服や茶服のものに手をだしたらリリムの逆鱗に触れるのだと咲夜ちゃんは説明してくれた。
「咲夜がアルタイル卿を連れてきたということはこの世界を選んだということですね」
淫魔王リリムは言う。
あの世界で咲夜と仲良く暮らしていてもよかったのよ。
そうしてもママは怒らなかったのよ。
だって燐君が平和に暮らすのが一番だもの。
でも、燐君はこっちの世界のみんなを選んだのね。
その勇気に感動しちゃうわ。
母さんの声が僕の頭の中で響く。
正直いうとあの世界はすごく魅力的だったよ。でも、僕は仲間たちのことを見捨てることはできないんだ。
心の中で母さんに答える。
淫魔王リリムは僕に美麗な笑みを浮かべた。
「さっそくだが淫魔王リリム。あなたが言う第二の条件を教えてくれないか」
緑茶をひとくち飲み、麗華は言う。
そう、それだ。
モードレッドの街を返還してもらうにはリリムの言う第二の条件を達成しなければいけないのだ。
イザールは金魚の形をした和菓子を珍しげに眺めて、ちょっとかじる。
甘くて美味しいと言い、ほっぺたをなでている。
僕も練りきりという和菓子をひとくち食べる。しっかりとした甘味が心地よい。
「それはあの獣魔王ジャバウォックの亡霊が作り出した
淫魔王リリムは僕たちに言った。
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