第84話淫魔王リリム
改めて僕の家臣となったメイドのアルと執事のアンと共に僕たちアルタイル騎士団が宿泊するために用意された建物に向かった。
アルの提案は今のところ一時保留とする。
そしてこのことは他言無用とした。
下手したら反逆罪にとわれかねないからね。
「「共通の秘密ができましたね」」
アルとアンは同時に言う。さすがは双子といったところか。息がぴったりだ。
まったくもってこの僕が国王だなんて。
悪い夢か冗談か。
でもアルとアンの目は真剣そのものだった。
たしかに彼女たちの言う通り、このアヴァロン王国は国王は不在だ。
現在は唯一の王族であるリオネル王女が政治的なリーダーをつとめている。
実務はエルナトとアルクトースがおこなっている。
ここで僕は内心、かなり飛躍したことを考えた。
リオネル王女には今のところ決まった相手はいない。
もしも彼女を僕のハーレムの一員にすれば。
メドゥーサの教義では妻は七人までめとることができる。
王女をハーレムにいれるなんて恐れおおいから決して口にはできないけどね。
そうすればアルとアンの提案を叶えられるかもしれない。
リオネル王女は妹そっくりでかわいいしね。
妹そっくりだけど本当の妹ではない。
そこが重要なポイントだ。
実は僕は妹のことを時々、女性として見ていた。もちろん、手をだしたりなんかしないけどね。
理緒はスキンシップが激しくてよく抱きついてたりしていた。
僕の体はそのとき、きっちりと反応していたのだ。実の妹を性的な目でみていたなんて口がさけても他人には言えないよね。
けど、この世界のリオネル王女はそっくりだけど妹ではない。
ひっかかるのは彼女が僕のことをお兄ちゃんと呼んでいたかもしれないことだ。
これの意味することはまったくわからないや。謎だらけだ。
まずは問題である淫魔王リリムの言う条件を達成することが優先的な課題かな。
翌日、アルが用意してくれた朝食を僕たちはいただいたあと、歓楽の街モードレッドにむけて出発した。
総督代行であるハンナさんと市民のみんなが見送ってくれる。
「アルタイル卿、また商売の話をしたいから必ずこのパーシバルにたちよってちょうだいよ」
手をふるハンナさんに必ずもどってきますと答える。
ハンナさんには騎士団の予算について相談しているのだ。
活動資金として王国からある程度の資金はもらっている。
十分とは言えないけど今のアルタイル騎士団ならぜいたくしなければやっていける程度だ。
資金についてはこれでいいと思っていたけどアルとアンは違う意見をもっていた。
それはできるだけ王国からの影響力を減らすためにアルタイル騎士団独力で資金を稼げないといけないというのだ。
すでにハンナさんが天狼族から干し肉や毛皮、シャーウッドの森でとれた木の実なんかのドライフルーツを仕入れて、パーシバルの街の商人が各地でさばいてくれていた。
その売上はけっこうなもので天狼族の懐事情はかなりよくなったという。
それで稼いだお金を本格的に運用すれば王国からの支援には頼らなくてすみそうなのだ。
この意見には麗華や雪も賛成している。
「せっかくなんだから私たちは独立してやるべきなのよ。自分たちのことは自分たちで決めたいからね」
それが麗華の意見だ。
僕にはアルタイル騎士団の独立は僕を国王にするためのアルとアンの計略の一つだと思われる。
だけれど、王国からの影響力が弱まれば僕は王国政府に意見することができる。
天狼族の人たちや夜の虹を編む者たちの待遇を改善できると思うんだ。
だから、経済的自立はこれからの騎士団の課題の一つといって過言ではないだろう。
僕がいろいろとかんがえながらオリオンを走らせているとカフが大きな声をかけてきた。
彼女が団旗をもっているということはまだ午前中なのだ。
「アルタイル卿、見えてきたよ!!」
騎馬の足音が平原を駆け抜けるなか、カフの声ははっきりと耳に聞こえる。
オーディンの義眼の拡大機能をつかうまでもなく、モードレッドの街の外観が見えてきた。
城塞都市のキャメロンと違い、モードレッドの街は低い壁で申し訳程度に外との境界線をつくっているだけであった。
歓楽の街モードレッドは人を楽しませるための街であり、攻城戦などは想定されていない。故に魔王軍との戦いで最初に陥落した都市でもある。
モードレッドの街は別名不夜城とも呼ばれる。この街は夜にこそ、その本領を発揮するのだ。建築美にあふれる木造建築がところ狭しと立ち並んでいる。
瓦葺きの建物がいくつも見える。ガヴェインの街の職人がその技術の限りをつくして造られたものたちだ。
素人がみても見とれるほどの美しさだ。
僕たちアルタイル騎士団はついにモードレッドの街に入城する。
凱旋門のような南門をくぐるとけっこうな広さの場所にでる。
まるで見計らったようにある一団が僕たちの前にあらわれた。
ざっと数えただけで三十人ほどの着飾った美女たちだ。
その集団から一人の背の高い人物が前にでる。後ろに控える女性たちは皆、地面に膝をつく。
その背の高い人物はかなりの美人だ。
コウモリ柄の和服をきていて、胸元がざっくりとあいている。その豊かな胸は麗華にひけをとらないほどだ。
高い下駄をはいているのでさらに背が高く感じる。
豊かな黒髪には色とりどりのかんざしがささっている。
手には長い持ち手のキセルがある。
白い肌に赤い唇が印象的だ。
その風貌はどこか花魁を連想させた。
その美女は僕にゆっくりと頭をさげる。
「ようこそ、モードレッドの街におこしくださいました。
耳に心地よい声だ。
僕はその淫魔王リリムの
淫魔王リリム。レベルは172とさすがは魔王を名乗るだけのことはある。
戦闘力だけみると麗華のほうが高いだろう。
魔力がずはぬけて高い。あのローレライもかすむほどだ。
B102、W66、H99。
おほっこれはさすがは淫魔王と名乗るだけのあるスタイルのよさだ。
あれっ、名前のところが文字化けしてきたぞ。
淫魔王リリムの文字がぐちゃぐちゃと歪んでくる。パレットでいろんな絵の具をごちゃ混ぜにした感じだ。
すぐに文字がもどる。
いや、違う文字になっていくぞ。
主婦
えっこの名前はもしかして。
そう、この名前は知っている。
決して忘れることはない名前だ。
僕の母さんの名前だ。
うふふっ、ママね。異世界転生しちゃったのよ。
頭の中でかつて聞きなれた声が響く。
目の前の淫魔王リリムはにこりと微笑んだ。
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