第82話サキュバスとの密会Ⅱ

獣属契約とは蛇の目スネイクアイを持つものとメドゥーサの紋章を持つものとの間に交わされる契約である。

淫紋ことメドゥーサの紋章を持つものが愛する相手を蛇の目スネイクアイの所持者だけに限定することで女神メドゥーサのより強い加護がえられるのだという。

このことは、雪が魔女の館にある魔書グリモアールに書かれていたと言っていた。

すでに麗華や雪、ルイザさん、イザール、アヴィオールの淫紋はそれぞれ神話に登場する神獣が描かれたものに変化している。

どのような加護があたえられるかはいまだに不明だが、きっとモードレッドにあるというメドゥーサの教会をとりもどせば、その全容はつかめると思う。

まだ、メドゥーサの神力はこちらの世界に大きく影響をあたえるほどには回復していないようだが、教会をとりもどし、メドゥーサを信奉するものたちが集えばあるいはこのアヴァロン王国に影響をあたえる力をとりもどせるものだと思う。


「獣属は従属というわけね。早い話、燐太郎の愛人ラマンになれっていうことね。しかもハーレムの一員にもなれって……」

咲夜ちゃんは形のいいあごに手のひらを添える。それが考えるときの彼女の癖だ。

あの咲夜ちゃんの世界で何度も見た。

「いいわよ、それで。本当はあの世界で燐太郎を一人占めしたかったけどそれも悪くないわ。燐太郎こそ大丈夫なの。私なんか魔族に堕ちたサキュバスを大事なハーレムの一員にして。メドゥーサの教義では七人までじゃないかしら」

咲夜ちゃんは言う。

「僕はいっこうにかまわないよ」

僕は言う。

咲夜ちゃんさえよければ僕のハーレムの一人になって欲しい。

「このスケコマシの女ったらし」

咲夜ちゃんは僕の鼻を指でつまむとグニグニと左右にふる。

これはあの世界でもよくやられたな。

僕がわがままなことをお願いするとこうしてちょっと痛めてから、結局いうことを聞いてくれるんだ。

エッチなことも頼んだらなんでもしてくれた。

いつも僕のことを気にかけてくれた優しい咲夜ちゃん。

あの世界のことは正直いって惜しいことをしたと時々思うことがある。

この目の前にいる美少女の咲夜ちゃんと毎日エッチなことをしながら、楽しく暮らすのもそう悪いことではなかったのではないかと。


「情でもうつったのかしらね」

うふふっと咲夜ちゃんは微笑む。

「うん、そうだよ。あの世界でのことは忘れようとしても忘れられないよ。もちろん、あのときの気持ちも今でも心の奥底でくすぶっているよ」

僕は言う。

「正直なのね、燐太郎は。そういうところも好きよ」

咲夜ちゃんに好きと言われるとぞくぞくするほど嬉しいものだ。


「それだけじゃあないんでしょう?」

咲夜ちゃんは訊く。

「そうなんだ。咲夜ちゃんには他の子たちのことで相談相手になって欲しいんだ」

僕は言う。

直後、咲夜ちゃんはまた僕の鼻をつまむ。

今度はさっきと比べ物にならないぐらいの力強さで。

これは痛い。

鼻がもげるじゃないか。

「あんたね、何を言ってるのかわかってる?」

咲夜ちゃんはぷんすか怒って頬を膨らませている。

こんな顔をしてもかわいいな。

「う、うん。わかっているつもりだよ。でもこんなことを相談できるのは咲夜ちゃんしかいないと思って……」

僕は答える。

咲夜ちゃんはふうっと大きくため息をついた。

「わかったわよ。なんでも話を聞いてあげる。でも、それは無事にリリム様の条件を達成したらね」

咲夜ちゃんは言う。

「ありがとう、咲夜ちゃん……」

僕は咲夜ちゃんの手を握る。

温かくて気持ちいいや。バレーをやっていたからちょっと硬いけどそれもまた咲夜ちゃんらしくていい。

みつめあったあと、僕は咲夜ちゃんにキスをする。

その唇はふっくらと柔らかくて気持ちいい。

「うんっ……さっき燐太郎の飲んだばっかりよ」

「そんなのかまわないよ」

僕は言い、舌をねじ込み、唾液を流し込む。

咲夜ちゃんはそれを美味しそうに飲み込む。

このままここで咲夜ちゃんと一晩すごしたかったけどさすがにそうはいかない。

残念ながらあまり長居はできない。

僕はこの馬車をあとにすることにした。

「じゃあね、咲夜ちゃん。こんなところに閉じ込めてごめんよ」

僕は言う。

「いいのよ。捕まった魔族にしては厚待遇よ。気にしないで燐太郎」

その言葉を背に僕は馬車を後にした。


馬車を出てウェズンに声をかける。

「ありがとう、もう話はすんだよ」

僕は彼女に言い、抱きしめる。

ウェズンの体は人よりもかなり冷たい。

人口細胞をもつ機械の体はすぐに冷たくなるのだとウェズンは言った。

活動にさしつかえはないが抱きしめられ人のぬくもりを確認すると人間だったころを思いだし、幸せな気分になるのだという。

「おやすみなさいマスター」

ウェズンは言った。

「おやすみ、ウェズン」

僕は言い、ウェズンから離れ、自分専用のテントに戻った。



翌日、朝食を食べた後、僕たちは一路パーシバルを目指して馬を走らせる。

先頭をはしるのはウロボロスの団旗をもつカフである。

すでにロボの部下のベンという名の戦士がパーシバルの街にむけて出発していた。

彼が僕たちの到着をあらかじめ総督代行のハンナさんにしらせてくれているはずだ。

太陽が真上になり、団旗をもつのをロボに交代する。

そのまま馬を走らせること一時間にも満たない時間でパーシバルの街に到着した。

パーシバルの街についた僕たちをハンナさんと街の人たちが温かく出迎えてくれた。

「ようこそ、アルタイル卿。パーシバルの街の市民一同歓迎するよ」

ハンナさんは言った。

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