第79話円卓会議

突然の王女の訪問に僕たちはあたふたしながらもどうにか迎え入れの準備をし、一番広い部屋に案内した。

王女の要請で円卓を用意することになった。

これはこの席につくものは身分の上下は気にしないという王女リオネルの意思だろうと思われる。

イザールとアヴィオールが僕たちにお茶とお菓子を用意してくれた。

この円卓会議の席には王女リオネル、財務大臣エルナト、内務大臣アルクトース、瑞白元帥、ミラ近衛団長、麗華と雪に僕と咲夜ちゃんが座る。

リオネル王女と咲夜ちゃんが円卓の向かいに座ることになった。

さすがに王女のとなりにはすわらせられないということだ。

咲夜ちゃんは僕と麗華が挟む形となる。

咲夜ちゃんの背後には黄金兵士ゴールデンアーミーのウェズンが立つ。

まあ、これは一応の念のための配置だ。

さすがにここにきて咲夜ちゃんはへんなことはしないと思いたい。



麗華が王女リオネルに淫魔王リリムの降伏条件を要約して説明する。

リオネル王女は形のいい顎に手をあて、麗華の言葉にききいる。

ときどき、頷く。

イザールのいれた紅茶をひとくち飲む。

「おいしいですね、ありがとうククルカン男爵夫人」

と王女リオネルはイザールに礼を言う。

「恐縮です、王女殿下」

珍しくイザールは緊張している。

踊り子のイザールからしたら王族なんてのは雲の上の存在だから、それも仕方ないだろう。

リオネル王女は僕の妹の理緒にそっくりなので僕はあんまり緊張しないんだよな。

それにそういえばミラと会うのは久しぶりだ。あの手紙は読んだのかな。

久しぶりに見るミラの顔はどこか大人びていて、きれいになっていた。

近衛団の団長としての責任が彼女を大人に変えたのかもしれない。

僕にすこしでもいいから相談してくれたら力になるのにな。


「よくわかりました。私個人はその条件を受け入れても良いと思います。戦わずに都市の一つが解放されるのならそれにこしたことはありません」

リオネル王女は言う。

僕もそれに同意見だ。

戦いによる犠牲はないほうがいい。


「私も異論はありません。むしろ賛成ですね。犯罪組織の資金源をひとつ断つことができますからね」

意見を聞かれたエルナト大臣が言う。

現実主義のエルナト大臣らしい意見だ。


「私も賛成ですな。彼女たちの暮らしのことを考えるとそれが良いと思います」

アルクトース内務大臣は言う。

いつも一度は反対し、僕たちが説得させるだけの材料があるかを確認する彼としては珍しい。


「アルクトース内務大臣は若い日におもてになられたらしいからね。お代はいらないからきて欲しいと何人もの夜の虹を編む者に言い寄られということだ」

エルナト財務大臣が言う。

「うむ、その話なら拙者もじかにその女性からきいたことがありますな」

瑞白元帥が白いひげをなでながら言う。


「昔話はそれぐらいに……」

咳払いしながらアルクトース内務大臣はいう。

たしかにこの老人、今でもかなり渋い感じた。若いときはきっとハンサムだったのだろう。生真面目な彼にとっては意外なエピソードだ。彼の別の顔がみれたような気がする。


「あの……意見をのべて良いでしょうか、王女殿下」

ミラが思いきった感じで言う。

「よろしい、ミラ近衛団長。この円卓会議では自由な意見を期待しています」

王女リオネルが許可する。


「そもそも夜の虹を編む者なる職業は存在してはいけないのです。快楽だけを求めるのは人を堕落させます。大地母神のおしえにもあります。愛する男女の間のみに加護ある子は生まれると。ですから法律を厳しくしてその職業をなくすべきなのです。夜の虹を編む者たちはもっと世のためになる職業につくか善き母となるべきなのです」

ミラは言う。

ミラの意見は潔癖なる理想論に思える。

現実はそうではない。

いろんな理由で夜の虹を編む者になる人がいる。ルイザさんのように自分の店をもつためにその仕事をする人がいる。

望んでその仕事につく人を自分の理想とは異なるからといってその職業をすべて禁止するのはあまりにも乱暴だ。


「ミラ近衛団長の意見は現実的はではないわ。仮に法律で禁止してもその職業ははくならないわ。一定の需要があるからです。法律で禁止すれば彼女らはより危険な環境で働かざるおえなくなります。また、さらなる犯罪組織の資金源になります。なのでそれは避けたほうが良いでしょう」

麗華が自分の意見を言う。

僕もそう思う。

法律は厳しくすればいいというものではない。また、厳しくしたってなくならない。

ちょうど禁酒法ができた時代のアメリカでアル・カポネが暗躍したように。

それと同じことがこの異世界アヴァロンでおきかねない。


「法律で禁止してもその仕事は無くならないよ、ミラ。なんせもっとも古い職業だからね。それなら国家が管理して犯罪組織や反社会的な連中から切り離したほうが社会のためだよ」

僕は言う。

僕の意見を聞いたミラはきっとにらみつける。

そんな怖い顔をしないでよ。

せっかくかわいらしい顔をしているのに。


「そのような汚れた職業は存在してはならないのです。大地母神の教えに反します。やはりあなたは国を乱す悪魔の申し子なのですね」

ミラは言う。

それはあんまりな言い方だ。

自分の意見と反することを言う者にたいして。きっとミラの頭の中には僕が魔王子アモンに変身したことが脳裏にあるのだろう。


「近衛団長、自由な意見をのべなさいといいましたが功績あるアルタイル卿を侮辱する言葉は許しません。慎みなさい」

それはいつも静かな口調の王女には珍しい怒気をふくんだものだった。

さらに王女はミラに命じて退室させた。

やりすぎかもと思われたが、そうすることによってミラが僕を侮辱した罪を免じたのかもしれない。

ミラ自身はどう思うか知らないが。


「石川咲夜、私どもはあなたの条件を受け入れましょう。ですが、それはモードレッドの街が完全に王国に返還された後です。それでいいですね」

王女リオネルが言う。


「ええ、それでけっこうよ。それぐらいの裁量は任されてるから。では第二の条件を話すためにモードレッドの街にどなたかが王国の代表としてきていただけますね」

石川咲夜は王女に言う。


「ええ、それはアルタイル卿にすべて任せます。アルタイル騎士団に命じます。淫魔王リリムと交渉して歓楽の街モードレッドを無事に取り戻すのです」

王女リオネルの裁可は下された。


僕たちアルタイル騎士団に新たなる使命が下されたのだ。

それは淫魔王リリムと交渉して無血でモードレッドの街を取り戻すということだ。

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