第77話降伏の条件

交易の街ケイの奪還に失敗した石川咲夜は魔王軍に歓楽の街モードレッドに連れ去られた。

そこで彼女は魔王軍の魔物や魔族たちの慰みものにされたという。

身も心もぼろぼろになり、死を決意したという。

死ねば記憶を失い、もとの世界に戻れるということを知っていれば、自殺していたと咲夜ちゃんは言った。

魔物たちに犯され続ける日々であったが、突如変化が訪れた。

狭く、不潔な石の牢獄で意識をもうろうとさせていた咲夜ちゃんの前に淫魔王リリムと名乗る女性があらわれたのだ。

「私と共に生きて魔王軍と戦うか、それとも死ぬか選ぶがいい」

淫魔王リリムは言い、咲夜ちゃんに楽に死ねる薬を手渡した。

咲夜ちゃんは生きることを選択した。

自分をこんな目にあわせた魔王軍に復讐するために。

その時、モードレッドを支配していたのは淫魔王リリムではなく、獣魔王ジャバウォックという別の魔王であった。

獣魔王ジャバウォックは残虐のかぎりを尽くし、毎日住民は拷問にあい、死んでいった。

淫魔王リリムは傷だらけの咲夜ちゃんの体を強靭な魔族のものにかえた。

サキュバスとなった咲夜ちゃんは淫魔王リリムと共に獣魔王ジャバウォックに決戦を挑み、見事勝利したという。


淫魔王リリムがモードレッドの街を支配するようになってから、街はがらりとかわった。

ジャバウォックの配下はすべて駆逐され、もとの賑わいを取り戻した。

リリムはその街で働く夜の虹を編む者を手厚く保護した。

それまで、夜の虹を編む者の儲けたお金を中抜きしていた仲介業者を排除し、また、定期的に医師に体をみせるようにした。

騙されたり、人さらいなどにあい、無理やり夜の虹を編む者にされた者は路銀を与え、生まれ故郷に返した。

麻薬などの薬物を売買する組織を追放し、モードレッドの街から薬物を一掃した。


「たいへんだったね、咲夜ちゃん」

僕はあまりにも壮絶な咲夜ちゃんが受けた出来事に涙を流していた。

勝手に両目から熱いものがこみあげる。

「でも、淫魔サキュバスになったから燐太郎と再会できたし、そう悪いことばかりじゃなかったよ」

咲夜ちゃんは僕の手を握る。

僕も彼女の白い手を握る。

バレー部のエースだけあって力強くて温かい。

咲夜ちゃんはぐっと顔を近づける。

さすがはわが校を代表する美少女の一人。かわいいことこの上ない。

息と息が触れあうほど顔が近づく。

僕たちはうっとりとみつめあう。

あーこのまま咲夜ちゃんとキスしたいな。

僕がよからぬことを考えていると右の耳たぶに激痛が走る。

「いたたたっ!!」

耳がちぎれるよ。

麗華が力いっぱい僕の耳たぶをひっぱっていた。

「はははっ!!どうやら本妻はご立腹のようね」

その様子を見て、咲夜ちゃんはくすくすと笑う。

アタタッ。そんなに強く引っ張らなくても。耳がとれるじゃないか。

僕はずきずきと痛む耳をおさえる。


「それで咲夜。その淫魔王リリムが提示した条件とはなんだ?」

麗華が話を本筋に戻す。

そう咲夜ちゃんは淫魔王リリムの使者としてこの王都にやってきたのだ。

淫魔王リリムは条件をのめば歓楽の街モードレッドをアヴァロン王国に返還しても良いという。

戦わずにして、街を取り戻せるのならそれにこしたことはない。


「条件は二つよ」

咲夜ちゃんは僕の前にピースのサインをする。これは2を意味しているのだろう。


「まず一つは歓楽の街モードレッド以外でも夜の虹を編む者の仕事を認めること。今の王国の法律では禁止されているよね。でも、実際はその仕事を行うものはどの街にもいる。法律で禁止してしまったばかりに犯罪組織が管理するようになり、女性たちがひどい目にあっているというわ。それならいっそのこと国が認めてしまって犯罪組織との関係をたちきったほうがいいと思わない」

咲夜ちゃんは言う。

王都の西地区の一角には夜の虹を編む者たちが仕事を行う地区がある。

咲夜ちゃんが最初に隠れていた貧民街の近くだ。

前にアダーラが救いだした少女たちはそれらの犯罪組織に売られる寸前だったという。

そのまま売られてしまえば少女たちは無理矢理に夜の仕事をさせられていただろう。

ちなみにアヴァロン王国では人身売買も表向きは禁止されている。

もちろん、最初から法律を守る気のない犯罪組織には意味がないと思われる。


「もとからあるものを正式に認めろということね」

麗華が超巨乳の前で腕をくみ、言う。


「さすがは鷹峰ね。話がはやいわ」

咲夜ちゃんは言う。


「それで二つ目は?」

僕は訊く。


「二つ目は一つ目が認められたら淫魔王リリム様が直接アルタイル卿に話したいとおっしゃっていたわ」

咲夜ちゃんは言い、冷たい水をごくりと飲む。

白い喉がセクシーだな。



一つ目の条件は政治的な意味合いが強いのでこれは王女リオネルの裁可が必要だろう。

明日、朝から謁見を申し出なければいけないな。

「即答はできないけど。その条件必ず受け入れさせるようにするよ」

僕は言う。

この条件はモードレッドの街を取り戻すためだけではない。

夜の虹を編む者の安全な生活に関わることだ。その女性たちが犯罪組織の毒牙にかからずにすむように王女リオネルには条件を飲んでもらわないといけない。


「心強いわ、燐太郎。また好きになっちゃいそう」

咲夜ちゃんが言う。

僕がデレデレしていると今度はほっぺたをおもいっきりつねられた。



その日はもう遅くなったので僕たちは休むことにした。

咲夜ちゃんは一応、念のために空いている部屋で寝てもらい、見張りをつけることにした。

「大丈夫よ、逃げたりしないから」

咲夜ちゃんは言う。

咲夜ちゃんにしても淫魔王リリムからの使命を果たしたいのだろう。僕は彼女は逃げないと思う。

でも、一応、彼女には見張りをつける。これは他の仲間たちを納得させるためだ。

見張りはウェズンに頼んだ。ウェズンなら万に一つの失敗もないだろう。



僕は自室に雪を呼んだ。

もう時刻はかなり遅い。

雪はもじもじしながら僕の部屋にはいる。

僕は雪の小さな手を握り、ベッドに導く。

「燐君に嫌われたと思っていたわ」

雪は言う。

「そんなことないよ。僕のことを思ってのことだろう」

僕がそう言うと雪はそっと目をつむる。

雪の細い体を抱きしめながら、僕はキスをする。

すぐに僕たちはお互いを求めあうように唇を重ね、舌をからめあった。

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