第75話サルベージ

シャワーを借りて、僕は咲夜ちゃんの家をあとにして、自宅に戻ることにした。

咲夜ちゃんは名残おしそうに僕を玄関で抱きしめてなかなか離してくれなかった。

「このままずっとうちにいなよ。燐太郎と離れたくないよ」

ちょっと泣いてる。

僕とほんの少しでも離れると寂しいらしい。

これは男としてうれしすぎる。

人生のなかで女子にここまで好かれたことはないからね。

「また明日学校であえるじゃないか」

僕は言う。

「なんかね、離れちゃうと燐太郎がどっかにいっちゃう気がするの」

そう言うと咲夜ちゃは何度もキスをする。

ううっこの唇と舌は癖になる気持ちよさだ。

僕も咲夜ちゃんと離れたくないよ。

でも帰らなくちゃ。

「やっぱり帰らなくちゃ。じゃあまたね、咲夜ちゃん」

僕はそう言い、咲夜ちゃんの家を出た。

帰らなくちゃという言葉が心にとげのようにささる。

自宅以外にどこか帰る場所があったはずだか、思いだせない。



自宅に帰った僕は妹の理緒とご飯を食べたあと、ゲームをして遊んだ。

実は僕の家族は他には父親だけなのだ。

いわゆるシングルファザーの家庭なのだ。

家事は僕と理緒が手分けしてやっている。

今日の晩御飯は理緒の得意なカレーだった。

これがかなりうまいのだ。

「ねえお兄ちゃん、また石川さんの家行ってたでしょう」

コントローラーを握りながら、テレビの画面を見つめて理緒は言う。

「なに、寂しいの?」

僕は訊く。

「うん、まあね。非モテのお兄ちゃんはずっと理緒とゲームしたりアニメ見てたりしたらいいのに」

理緒は言う。

理緒はブラコンだな。

理緒は僕と違い社交的で友だちも多いのになぜか僕にべったりなのだ。

「なんか妬けちゃうな」

と理緒は言った。



翌日、僕は学校の最寄駅で降りる。

改札口で咲夜ちゃんが待っていた。

僕の腕をとり、あのHカップの柔らかな巨乳をおしあててくる。

「おはよう、燐太郎」

咲夜ちゃんは言う。

「うん、おはよう咲夜ちゃん」

僕は答える。

間近でみる咲夜ちゃんの顔は本当にかわいいのだ。

ぱっちりした瞳がかわいくて厚めの唇がセクシーで自慢の僕の彼女なのだ。



学校につき、僕はいつものように授業を受ける。お昼休みになると教室に咲夜ちゃんがやって来て、お弁当を一緒に食べた。

「ほらまた、ご飯粒ついてるよ」

咲夜ちゃんは僕の唇のはしについたお米をとって食べてしまった。

「ありがとう、麗華」

僕は言う。

あれっ、何で生徒会長の名前をいってしまったのだ。

咲夜ちゃんは別の女の子の名前をいってしまったのでムッとしている。

「どうしてここで鷹峰の名前がでるのよ」

怒った咲夜ちゃんは僕のほっぺたを力いっぱいひねる。

イタタッ!!

さすがはバレー部のエース。

ほっぺたがとれるかと思ったよ。


放課後、僕は漫画研究部の部室にいた。

彼らがつくる文化祭むけの同人誌作成のヘルプに来たのだ。

多少イラストを嗜む僕はときどきこうして漫画研究部やアニメ研究会のヘルプをしたりする。

そこにはなんとあの美術部の真田雪もいた。

彼女の美術の才能はすさまじく、いくつものコンクールに入賞しては大賞をとっていく。

「燐君、こんにちは」

真田雪は原稿にペンを走らせながら言う。

「真田さんがこんなところにいるなんて珍しいですね」

僕は言う。

「そうね、燐君に会いたくてね。ねえ、君はなにか忘れていないかな。ここは本当に君がいるべき世界なのかな」

奇妙なことを真田雪は言う。

「いってる意味がわからないや」

僕は答える。



漫画研究会のヘルプが終わったあと部活おわりの咲夜ちゃんが待つであろう学校の玄関に向かう。

そこで僕は背の高い超美少女に行くてを阻まれた。

その超巨乳の前で腕をくみ、僕の顔をじっと見ている。

吸い込まれるほど美しい顔をしている。

髪は輝くほどの光を放つ金髪で瞳は青くて宝石を連想させる。

この美少女は七人の星たちセブンスターズの一人で生徒会長の鷹峰麗華だ。

自称正義の味方。

事実、彼女に救われた生徒は数多い。

でも、僕を苛めから救ってくれたのは咲夜ちゃんだ。

あれっ、おかしい。

記憶がごちゃごちゃしてきた。

彼女にも救われたことはなかったか?


鷹峰麗華は僕の肩を両手でつかみ、壁におしあてる。

うっけっこう痛い。

「燐太郎、戻ってきてよ。君が居ない世界なんて意味がないんだよ。お願いだ、戻ってきて欲しい」

鷹峰麗華はそう言うと僕にキスをする。

はっその国宝級にきれいな顔が近づいて、僕に唇を重ねるよ。

その厚い舌がネトネトと口の中を這いずりまわる。

これはめちゃくちゃ気持ちいい。

射精っちゃいそう。

この感触、覚えがあるぞ。

僕は何度も麗華と体を重ねたことがある。

僕は自然と手が動き、そのJカップのロケットおっぱいを揉む。

このボリュームたっぷりの肉の感触は確かに覚えている。

「そうだね、僕はアヴァロン王国を救わないと」

僕は言う。

そうだ、僕はメドゥーサに導かれてアヴァロン王国を魔王軍から救うために転移したのだ。


「駄目よ、行かないで。燐太郎はこのままこっちにいてずっと私といてよ!!」

ボロボロと涙を流し、咲夜ちゃんは叫ぶ。

その声に僕は後ろ髪をひかれる。

咲夜ちゃんを見捨てるのは忍びない。

それに彼女の肉体は離れがたい気持ちを抱かせるほどのものだ。

この世界に残り、咲夜ちゃんと結婚して、幸せな家庭を築くのは夢のような将来だ。

あんな美少女が僕のことを必死に呼び止めている。

このまま、ここに残ろうかな。

一瞬、正直、僕は迷った。

咲夜ちゃんとの学校生活はそれほど魅了的だからだ。それがこの先も続けられると思うと残りたい気持ちがムクムクとわいてくる。

僕は頭を強く左右にふる。

僕にはやらなくてはいけないことがある。

あの世界の人たちを見捨てるわけにはいかない。

イザールやアヴィオール、ルイザさんを見捨てるわけにはいかない。

ごめんよ、咲夜ちゃん。

僕はここには残れない。

ものすごく、惜しいけど僕はもどらなければいけない。


「戻ろう、麗華」

ボクは言い、麗華の手をにぎる。

麗華の手は温かくて、安心する。

この手を離すわけにはいかない。


「行かないで、燐太郎!!」

咲夜ちゃんはなおも叫ぶ。


「ごめんね、君のことは好きだったけど僕にはもっと好きな人がいるんだよ」

我ながら身勝手な言葉だと思うけど僕はそう言い、咲夜ちゃんとの世界をあとにした。



目が覚めると僕はアルタイル屋敷の自室のベッドに横になっていた。

「ご主人様、目をさましたよ!!」

アヴィオールがうれしそうに言う。

「おはよう、燐太郎」

麗華が僕の頬をなでる。



キャアアッという悲鳴が聞こえる。

僕はその声の方向をみる。

シスターアラミスが作り出した魔法陣にサキュバスの咲夜ちゃんが閉じこめられていた。

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