第72話人探し
アルタイル邸に戻った僕たちは麗華と雪に石川咲夜に遭遇したことを報告した。
アヴィオールはもう夜が遅いので休んでいるとのことだった。
「そうなの、良かった。咲夜ちゃん生きていたのね…」
涙目で雪は言う。
雪と咲夜は幼稚園のときからの幼なじみだという。生存したことは心から嬉しいことであったのだろう。
「でも、
超巨乳の前で腕をくみ、麗華は言う。
そう、僕が
たしかにあの姿はサキュバスの名に恥じないセクシーなものだった。とくにチャイナドレス風の衣装のスリットからのぞく太ももがたまらなくエロかった。
「それでも、それでも生きていたのなら……」
雪の言葉の後半は嗚咽が混じってよく聞き取れなかった。
今日はもう遅いので僕たちは休むことにした。石川咲夜のことは明日、皆で手分けして探すことになった。
彼女は僕たちに話があると言っていた。
僕たちがあまりに警戒しすぎたため、彼女が逃げ出すことになってしまった。
でも、イザールやウェズンのことは攻められない。彼女らなりに僕を守ろうとしてくれたのだから。
目の前に魔王軍に与する者がいて警戒するなと言うほうが無茶な話だ。
朝になると僕のとなりでアヴィオールがすやすやと眠っている。また、夜中に忍びこんだのだろう。
僕はアヴィオールの背中を撫でる。
ふわふわとした羽のさわり心地は最高だ。
「ご主人様おはよう」
目をこすりながら、アヴィオールは言う。
なんてかわいい寝起きの顔だ。
僕は思わず彼女にキスをする。
「ご主人様、おはようのチュー」
アヴィオールもうれしそうに僕の舌に自分の舌を絡めて、ネチャネチャと僕たちはお互いの唾液を飲みあう。
おっと、今日はこれぐらいにしとかないといけない。朝から石川咲夜を捜索しないといけないのだから。
アルファルドさんが用意してくれた朝食を食べたあと、王都のどこかにいるであろう石川咲夜の捜索にでた。
手がかりが少ないので捜索はかなり難航すると思われた。
アルファルドさんは体調がよくなったという聖女アンドロメダを見舞うためにこのあと、商都パーシバルにむけて出発するとのことであった。
今回、この捜索に新しくアルタイル騎士団に加入したカフとアダーラが参加することになった。
「城塞都市とはいえ、この広い王都で人探しというのは骨がおりそうですな」
アダーラが言う。よく日焼けした頬を撫でる。元海賊というだけあって腰にカットラスという湾曲した刃の剣をぶら下げている。
「騎士団での初仕事だ、私はやるよ」
豊かな胸をバンと叩き、カフは豪快に笑う。
ゲンマは今回、白兎亭の仕事があるので参加しない。
アルファルドさんがアルタイル邸を一時離れたので、今晩は白兎亭でご飯を食べようかな。
石川咲夜探索ははっきりいって、難航を極めた。やはりこの王都で人一人さがすのは至難の技であったのだ。
では、何故、昨晩は石川咲夜にであえたのか。
それはおそらく、彼女が僕たちにあえてみつかるように気配を出していたのだろう。
現に今は僕のオーディンの義眼にもウェズンの生体反応探索機能にもひっかからない。
途中からスピカこと渡辺蓮と天狼族のロボが捜索にくわわったけど残念ながら徒労に終わった。
ただ、無駄なことばかりではなかった。
捜索の途中、カフは産気ずいた妊婦さんを助産師のおばさんのところに運び、旦那さんにたいへん感謝された。
アダールは偶然遭遇した強盗を捕まえ、警吏に引き渡した。そのまま強盗たちの本拠地に乗り込み、誘拐されていた少女たちを救出した。彼女たちは人身売買される寸前であったのだ。
この戦いにはイザールとウェズンも参加した。
「人探しどころじゃなくなったわね」
とイザールは言った。
また王都の地理にも詳しくなった。
この都市は中央に王宮キャメロンがあり、東側が主に貴族たちが住む地区で西側が商人たち庶民が暮らしている。
アルタイル邸や魔女の館、元貴族の屋敷であるロベルト邸こと救護院があるのは東側だ。
貴族が住む地区に貧しい人たちを招き入れるとは何事かという反対意見も救護院を作るときにあったという。
その意見をはねのけたのは内務大臣のアルクトースであったという。
あの老人はやはりよくも悪くも曲がったことが嫌いなのだ。
白兎邸やルイザさんの宿屋があるのはこの王都の西側なのである。
また東西南北にそれぞれ城門が存在し、この王都を守っている。
今や近衛団の団長となっているミラは王都の南門を守る衛士であったのだ。
夕刻になり、僕たちは白兎邸に集合した。
「まあ、やはりというかみつからなかっわね」
麗華が言う。
「咲夜ちゃん……」
雪はそう言い、自身が描いた咲夜の似顔絵を握った。それは写真のようにそっくりであった。
「今日はお疲れ様。さあさあ、どんどん食べて飲んでちょうだいよ」
ハンナさんのあとを継ぎ、白兎邸を切り盛りしているゲンマが言った。
エプロン姿もかわいい、元気な少女だ。
僕たちは大きなテーブルを囲み、ゲンマたちの作った料理に舌鼓をうつ。
この店ではもと救護院の子供たちが働いている。
ゲンマもそのうちの一人なのだ。
しかも剣術を瑞白元帥に師事していて、かなりの腕前だという。
チキンの丸焼きに天狼族が持ってきたハムのステーキ。それにひき肉のソテー。
黒パンにチーズ。豆のサラダとテーブルの上はかなり豪華だ。
僕たちが料理を楽しんでいるとここでちょっとした事件が起こった。
「評判とだときいてやってきたが、味は濃くて繊細さにかけるし、しかも獣臭いものまでいるではないか」
仕立てのいい生地の服を着た男が言った。
その男は見るからに貴族の男であった。虚栄心と傲慢さが服を着ているような男だ。
獣臭いとはきっと蓮とロボのことだろう。
僕は正直、腹がたった。大事な仲間が馬鹿にされたのだ、かっと頭に血がのぼる。
それよりも速く、麗華が動いていた。
すでに彼女はその貴族の男の胸ぐらを掴んでいた。
そう、彼女は正義の味方なのだ。
麗華は自分の正義に従い、行動する。
「わ、私に手をあげるとどうなるかわかっているのか」
明らかに狼狽しながら、その貴族は言う。
「舌の刃で人の心を切るのは暴力と同じだ。どうなるかなど知ったことか」
そう言い、麗華は貴族の顔を殴りつけた。
あわれその貴族は一撃で気絶してしまった。
「ああ、情けないね」
カフが言い、貴族の護衛の男のみぞおちに一撃入れる。
護衛の男は腹をおさえ、倒れこむ。
もう一人の護衛の男はアダールに背負いなげされ、気絶してしまった。
僕たちは意識を失った三人の男たちを店の外に捨てたのであった。
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