第70話結成アルタイル騎士団

結局、事後処理には一週間ほどの時間を必要とした。

守銭王シャイロックの集めた財宝は銅貨一枚かけることなく持ち主に返還された。

ハンナさんはパーシバルの街の商人たちの活動再開にあたり、それを支援するためこの街にのこることになった。

ハンナさんはのちにリオネル王女からパーシバルの街の総督代行の役職をになうこととなる。最初、総督の地位を用意されたがより自由度の高い代行を彼女は希望した。

私の仕事は白兎亭の女将だからねとハンナさんは笑いながら言った。


「財宝のなかに一つだけ持ち主の見当たらないものがあったんだ」

そう言い、麗華は僕に一枚のカードを手渡した。

そのカードには胸元のざっくり開いたカウガールの衣装を着た金髪青眼の女の子が描かれていた。胸の大きなグラマラスなキャラだ。

腰に二つの拳銃をぶら下げている。一つは漆黒の銃鵺、もう一つは黄金銃コカトリスである。

このカードに描かれているのは銃姫プラム・フレミングである。

暗黒騎士ハルロックに兄を殺されたプラムはその仇を討つため大陸を旅するのである。

もちろん、モデルは鷹峰麗華だ。

「これは蛇の呪符スネイクカードじゃないか」

僕は麗華に言う。

やったぞ、四枚目の蛇の呪符スネイクカードを手にいれたぞ。

「これってあの魔法のカードだろう。よかったね、これでまた戦力が増強されたね」

麗華も嬉しそうだ。


僕たちアルタイルと天狼族、それに百鬼軍、結城涼らはパーシバルの街を奪還に成功したことを報告するために王都キャメロンに戻ることにした。

帰りはかなりの大所帯となった。

帰路も同じくシャーウッドの森を経由して帰ることになった。

天狼族はここで待機することとして、スピカこと渡辺蓮と族長であるロボが王都に入ることになった。

すでにこの二人の王都への入城の許可はおりている。

約束通り、パーシバルの街を奪還した功績によるものだ。

「あんまり、戦いらしい戦いはしなかったのにいいのかね」

ロボは少し、心配している。

でも、僕はそれでもいいと思う。

今回、戦闘よりも事後処理のほうがたいへんだった。それの功績もふまえてのことだと思う。こういうのも評価されないとね。

蓮も同じことをロボに言っていた。


王都に帰ってきた僕たちをルイザさんや救護院の子供たち、ほかにも王都の住人たちが盛大に出迎えてくれた。

「騎士様、すごいね。また都市を取り戻したなんて。あんたはやっぱり私が見込んだ男だよ」

ルイザさんは喜びながら、僕の顔をその豊満なおっぱいにおしつける。

例のごとく麗華がひきはがしにかかる。

ルイザさんの元にはまた時間のあるときにおとずれよう。ふふふっ……。


王宮ではエウリュアレを連れた王女リオネルが出迎えてくれた。

彼女らの後に文官の代表である内務大臣アルクトースと財務大臣エルナトが控えている。

さらに貴族や官吏たちがいる。

「獣族がこの王宮にはいるなんて……」

誰の声だかわからないがその言葉だけが聞こえてくる。

ロボがうつむいていると麗華がその声の方向をにらみつける。

「言いたいことがあればこのベガが相手してあげよう。さあ、でてくるがいい」

麗華の大きな声が宮廷内に響く。

むろん、でてくるものはいない。

麗華に面と向かって喧嘩をうるものなどこの世にはいないだろう。

僕も麗華の言葉を聞き、せいせいした。

もうロボは僕の大事な仲間だ。それを馬鹿にされたら腹だたしい限りだ。

「ありがとう、会長」

蓮も礼を言う。

狼犬の顔をしている彼を見る目も奇異なものだ。しかし、さすがというべきか蓮はそれらを受け流している。

蓮のことをいけすかないやつと思っていたが話してみるとかなりいいやつで彼も今では大事な仲間の一人だ。

それに麗華との仲もどうやらうわさ以下のものだったらしい。美男美女同士うわさは絶えなかったようだ。


内務大臣のアルトースもその嫌みな声の方向をだまって睨んだ。するとどうだろうか、ざわめいていた文官や貴族たちは黙りだした。

よくも悪くも彼は曲がったことが嫌いな堅物なのである。その無言の圧力はそれを証明していた。


「無事の帰還、なりよりです。パーシバルの街、奪還成功おめでとうございます」

そう言い、王女リオネルを僕の手をとる。

にこりとかわいらしい笑みを浮かべる。

このえくぼの出る笑顔はまさに妹の理緒そのものだ。


渡辺蓮には星騎士スターナイトスピカの称号を与えられた。

結城涼には星騎士スターナイトシリウスの称号を与えられた。また彼の容姿を見た女性たちは涼のことを勇者シリウスと呼ぶようになった。ハンサムはいつの時代も人気者になりやすい。

また、ロターク王国の四銃士筆頭であるダルタニアンには客員将軍ゲストジェネナルの称号を与えられた。これは正規なものではなく、一時的なものであった。一時的ではあるがダルタニアンらはアヴァロン王国で高級将校の待遇を受けることになる。


そしてロボたち天狼族はアヴァロン王国での活動をハイランド地方から南のケイの街付近までを許された。王国の東半分を彼らは移動できるようになった。そのついでとはいってはなんだが活動地域の治安維持も彼らに託された。これは少なくなった王国軍の代わりを担うということである。

またスピカとロボは王都への入城を自由にできることになった。これは天狼族にとっての大きな進歩だ。

天狼族の戦士たちは僕の直轄となった。

正規軍にはいるよりはそちらのほうが良いだろうというアルトースの意見だ。

それに伴い、王女リオネルから騎士団の結成を指示された。


アルタイル騎士団の誕生である。

主な役割は王都の警備と治安の維持にあたる。いわゆる警察の役割を与えられた。

初代騎士団長には麗華を任命した。

これに異論を唱えるものはいない。この人事により、麗華は百鬼軍を抜けることになる。

騎士団付き魔術師にはデネブこと真田雪。彼女はいわゆる参謀の役目をしてもらおうと思う。

副団長兼親衛隊長にはイザールを任命した。

彼女は僕の身辺警備をやってもらおうと思う。

従騎士としてアヴィオールとウェズンをイザールの下につけた。

さらに騎士団結成に伴い人員がさらに補強された。

まずはゲンマという名の少女である。彼女は救護院出身でいわば僕の子飼いである。ゲンマはハンナさんの代わりに白兎亭を切り盛りしている若女将でなかなか剣の腕もたつのである。

二人目はカフという名前の女性で百鬼軍で麗華の部下であった。あのロボと酒を酌み交わす約束をしていた女兵士である。明るい性格でムードメーカーなところがある。

最後の三人目はケイの街出身のアダーラという名前の人物だ。アダーラはもとの経歴を女海賊だったという噂がある。

アダーラは自分から騎士団の役にたちたいといってきたので、その知識と見識を買って僕は採用した。

ゲンマ、カフ、アダーラはのちにアルタイル三騎士と呼ばれるようになる。


「がんばったわね、お兄ちゃん……」

王宮での謁見がおわり、去り際にリオネル王女は僕にだけ聞こえる声でそう言った。

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