第67話聖女アンドロメダ
目の前にいるのはまさしくあの
にこりと微笑む姿は眩しくて、爽やかだ。
彼は魔王軍の軍勢はすべて倒したと言った。
たしかにこのパーシバルの街には魔王軍の怪物や魔物の死体が無数に転がっている。
ここにくるまで戦闘らしい戦闘はウェズンとの戦いだけであった。彼らが他の敵をすべて葬ったというのなら、納得できる。
だとしたら彼らの戦闘力は凄まじいものだ。
どうやら見たところ敵意や殺意なんかはまるで感じられない。むしろ友好的な雰囲気すらある。
「こ、これを君たちがすべて倒したのかい?」
僕は訊く。
「ああ、そうだよ和久君。いや今はアルタイル子爵と呼んだほうがいいかな」
そう言い、結城涼は僕の手を力強く握る。
その行為は爽やかにつきる。
僕も彼の笑顔に引き込まれそうになる。これがカリスマというものか。
確実に僕にはないものだ。
「ところで後ろの方々は?」
麗華が訊く。
「この人たちは僕の仲間でロターク王国の四銃士さ」
結城涼は彼の後ろにいる四人の背の高い女性たちを紹介する。
黒髪に切れ長の瞳が特徴的な美人はダルタニアンと名乗った。
シスター服を着た女性はアラミスと名乗った。シスター服なのに胸が強調されていてかなりエロいな。
ひときわ背の高い、大柄な女性はポルトスと名乗る。
最後に金髪巻き髪の女性はアトスと名乗った。腰の二丁拳銃が彼女の愛用の武器のようだ。
彼女らは海を越えた南の大陸に存在するロターク王国が誇る
「シリウス、敵がまだ一人残っているようだ」
ダルタニアンが結城涼に耳打ちする。
彼女らは僕の腕をつかんでいるウェズンを見る。
彼女らは魔王に操られていたほかの黄金戦士らとウェズンを同一視しているようだ。
「大丈夫だよ」
僕はウェズンの手を握る。機械の手であったが温かいものだった。
「どうやら様子がおかしいですわ。あの方から敵意は感じられません」
シスター服のアラミスが言う。
「そうだよ、彼女は魔王から解放したからもう敵ではないよ」
僕は言う。
「ほう、魔王の呪いを解くものがいるのか」
感心した様子でアトスが言う。
「そうよ、私の燐太郎はすごいんだから」
麗華が誇らしげだ。
「なるほどね、それが主人公補正か。まあ、敵ではないのならいいよ。それよりも和久君、君に相談したいことがあるんだ。ついて来てくれないか」
シリウスこと結城涼は言う。
魔王と魔王の軍勢は駆逐したものの、問題が一つ残されているのだという。
僕たちは結城涼の案内でエジンバラ城の奥へと進んだ。
ロボと天狼族は城門前近くの建物で待機さることになった。天狼族を代表してスピカこと渡辺蓮が同行する。
結城涼は蓮の変わった姿については何も言わなかった。
僕たちが案内されたのは巨大な鉄の扉がある部屋の前であった。
驚愕すべきはその鉄の扉に一糸まとわぬ女性が同化していることだ。
両手両足が扉と完全に同化してしまっている。豊かな乳房と端正な顔だちをしている。秀麗な顔が苦痛に満ちている。
あれっ、この顔どこかで見たことあるぞ。
「アンドロメダ!!」
珍しくアルファルドさんが大きな声をあげる。
「知りあいですか?」
僕は訊いた。
「か、彼女は私の双子の妹です。光の女神ルキナの神官をしていたのですが。こんなところにいるなんて……」
アルファルドさんが言う。
双子の妹か。たしかにそっくりだ。しかもグラマーなスタイルもそっくりだ。
僕はためしにそのアンドロメダの
聖女アンドロメダ。
レベルは67。魔力はかなり高い。魔法使いの雪と同じぐらいだ。
B90、W60、H90とスタイルはアルファルドさんと同じように抜群にいい。
この部屋の奥にはパーシバルの街の住民から集めた財産がすべて納められているという。
この扉をあけなければ住民の財産や財宝は魔界に消えてしまうのだと結城涼は説明した。
「聖女アンドロメダを解放しなければこの街は真に解放したこととならないのです」
シスターアラミスはそう捕捉する。
「ううっ……姉さんなの……ですか?」
苦しそうに、扉と同化しているアンドロメダは言った。
「そうよ、アン。こんな姿になって」
アルファルドさんはアンドロメダの頬に流れる汗をハンカチでぬぐってあげる。
その時、扉の横に鷲鼻の老人の霊があらわれた。その老人がなぜ幽霊であるとわかったかというと彼の体が半透明であったからだ。
「まったく、問答無用で殺しおって。話会う余地を与えぬからこの女は苦しみ続けるのだ」
鷲鼻の老人は言う。
「ちっ、魔王の亡霊め!!」
黒髪のダルタニアンが素早くライフルをかまえて、発砲する。ダンッと乾いた音がして銃弾が空を切り裂く。銃弾は守銭王シャイロックの体をすり抜け、天井に穴をあけるだけだった。
「乱暴ものめ。力だけでは物事は解決できんのだよ。別の星の騎士があるようだの。そのアンドロメダを解き放つには期限までに女の肉体の一部五キログラムを儂に捧げることだ」
幽霊になった魔王は言う。
「もしできなければ?」
アルファルドさんが訊く。
「そのものは扉と完全に同化して彫刻となるだろう。なお、期限は今日の日没までだ」
僕はあわてて窓の外を見る。
日はゆっくりとだが西に沈みかかっている。
あまり時間はない。
「わかりました。私の肉のどの部分でもいいから五キログラムもっていきなさい」
アルファルドさんは豊かな胸に手をあててそう言った。
どの部分かわからないが、五キログラムもの肉をとられればアルファルドさんの命が危ない。
「貴様が身代わりになるのか。儂はそれでもよいぞ」
ぐふふっと笑い、魔王シャイロックは言う。
「別人でもいいんだな」
僕は確認する。
「よいぞ、肉体から五キログラムを儂に捧げればかのものを解放してやろう。儂はこれでも契約を司る魔王だからな。嘘はつかぬ」
「わかった、この子でもいいよな」
僕はアヴィオールの手をひく。そして彼女に耳打ちする。
アヴィオールはこくりと頷く。
「よいぞ、よいぞ。そんな年端もいかぬ娘を犠牲にするのか」
ぐふふっと魔王はうれしそうに笑う。
「体の一部ならどこでもいいんだな」
僕は再度確認する。
「よいぞ、体の一部ならな」
魔王は言う。
魔王の言葉を聞いたあと、僕はアヴィオールの鱗に手をかける。ちょうど生えかわりの時期らしいので簡単に剥がれていく。
ベリベリとめくり、床においていく。
鱗をすべてめくるとこんもりと小さな山ができた。
アヴィオールはむず痒いような顔をしてさらに頬を紅潮させている。
素っ裸になってしまったアヴィオールにミスリルのコートを肩にかけてあげる。
「さあ、これは五キログラムには十分なはずだ」
僕は言った。
「ぐぬぬっ……」
悔しそうな声だけを残して、守銭王シャイロックの霊はどこへともなく消えていった。
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