第66話勇者シリウスと四銃士

立ち上る煙が消え、ウェズンは僕に深くお辞儀をした。その時、胸元からペンダントが見えた。あっ、なかなかいいおっぱいをしているな。とても機械人間とは思えない。

「私はサイボーグでもとは人間だったんですよ」

ウェズンは言った。

「バビロン神聖帝国っていう国はあるの?」

麗華がイザールに訊く。

「私が知らないだけかもしれないけどそんな国は聞いたことないよ」

イザールは首を左右にふる。


「私は二十三世紀の未来からこの異世界アヴァロンに来たのです」

ウェズンは言う。

彼女の話では二十三世紀の未来では人類は二つの勢力にわかれて覇権を争っていたのだという。人類を機械化してより高みを目指そうとするバヒロン神聖帝国と遺伝子操作を行い人類を進化させようという環太平洋同盟の二つの勢力に別れて長い戦争を繰り広げていたのだという。

ある戦いでウェズン少尉が所属する部隊が同盟の化学工場を攻撃したとき、誤って化学工場のエネルギープラントを爆発させてしまい、気がつけばこの異世界に部隊ごと飛ばされてしまったのだという。


飛ばされた直後、前後不覚の状態で守銭王シャイロックに囚われ、その尖兵にされたのだという。


今度は未来人か。

瑞白元帥は僕たちからみた過去からこの世界にやって来た。麗華の話ではちょっと違う過去の世界のようだが。

「彼女がいた世界は私たちの未来とは限らないわ。まあ、可能性の一つの世界なのかもね」

麗華が言う。


「守銭王シャイロックはパーシバルの街の奥にあるエジンバラ城にいます。欲深い彼はパーシバルの街の住民から強奪した財宝とともにその城にたてこもっているのです」

ウェズンは言った。


どうやらその守銭王シャイロックというのがパーシバルの街を征服した魔王のようだ。

守銭王と呼ばれるだけあって財宝や宝石を好み、ため込むのがなによりも好きなようだ。

お金は大事だけどため込みすぎるのはどうかな。それに人から大事なものを奪って自分のものにするのはよくないな。


「ところでそのペンダントなんだけど?」

僕は訊く。

「ああ、これですが。私が荒野をさ迷っていた時にみつけたのです。そう言えばその時幻覚を見たんです。ある目の見えない老婆があらわれてこれを探しているものを守りなさい。それが元の世界に戻る手がかりになるでしょうって」

ウェズンは言い、僕にそのメダルを握らせた。

それは獅子がデザインされたものだ。そう、これは元の世界に戻るのに必要だと言われている獅子座レオのメダルだ。

ウェズンを破壊していたら手に入らなかったかもしれないので、やっぱり助けて良かった。



僕たちアルタイルと天狼族はウェズンの案内でパーシバルの街の拠点でもあるエジンバラ城を目指すことになった。

パーシバルの街はもともと北から侵入してくる海の民バイキングに備えてつくられたエジンバラ城の城下町として発展した。

ある時からピタリと海の民バイキングの侵入が止んだ。

エジンバラに集まった物資を調達するために来た商人たちはそのままこの地にとどまり、パーシバルの街を築くきっかけになったのである。



巨大な石の門をくぐり、僕たちはついにパーシバルの街に入った。

不思議なことに敵らしい敵には出会わない。いや、いるのはいたのである。

だが、その魔物たちはもうすでに動かなくなっていたのである。

道端に転がる怪物や魔物の死体には風穴があけられ、血を流し倒れていたのである。

もしかして、誰かがこの街を占領していた魔物たちをすでに駆逐してしまったのであろうか。だが、それは誰だ。

この国の軍事力は僕たちアルタイルと百鬼軍しか残されていない。

どこの誰がこのような壮絶な戦いをし、しかも魔物たちを駆逐してしまっただろう……。


疑問が頭を駆け巡るがもちろん答えなんかでるわけはない。

「まるで銃弾でやられたみたいね」

麗華がオークの死体を見て言った。

そのオークは額と心臓に風穴が開けられている。致命傷を確実に与えられるところに穴が開けられている。

ほとんどの魔物がそのようにして殺されいるのだ。

やった相手がいるとしたらそれは凄まじいほどの手練れだということだ。


やがて僕たちはエジンバラ城の城門前にたどり着いた。

そこにはオークやゴブリン、ダークメイジに身長三メートルはあろうかという巨人族の兵士の死体がいたるところに転がっていた。

その死体の中にはウェズンと同じような黄金兵士も混じっていた。

「すいません……」

その死体を見たウェズンが顔を背けて、僕の銀糸を紡いだ鎧ミスリルアーマーの腕の部分をぎゅっと握る。

彼女は魔王から解放されたが、他の仲間たちは操られたまま何者かに倒されたようだ。


麗華もこの行動をとがめない。

ウェズンが思うままに行動させてくれた。


「やー!!君たち遅かったじゃないか!!」

僕たちを呼ぶ声がした。

エジンバラの城門前に誰かがいる。

その何者かが僕たちに向かって大きく手をふっている。

この声、どこかで聞いたことがあるぞ。

爽やかな透き通るような言い声だ。

人と話すとき緊張して声がよく裏返ってしまう僕と違って声優になれるんじゃないかと思えるほどの良い声だ。

僕たちはその声の方に駆け寄る。


「結城涼!!」

麗華がその声の主を見て、言った。

「涼君!!」

雪も驚きの表情を浮かべる。

「結城!!」

常に冷静な蓮も驚いている。


それは女子なら誰でも好きになると言われた結城涼であった。

爽やかな笑みを浮かべて僕たちに手をふっている。

彼は羽根つきのつば広帽をかぶり、腰には剣と拳銃をぶら下げている。

彼の後ろには同じようは派手な衣装を着た四人の背の高い女性たちが腕を組み立っている。

「魔王軍の軍勢と守銭王シャイロックはこの勇者シリウスと四銃士がすでに倒しておいたよ」

結城涼は爽やかな笑顔のまま、凄まじい結果だけを言った。

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