第65話商都の守護者

黄金に輝くその少女の体がさらに光る。

ピカリとまぶしく光ると少女の体が視界から消えた。

僕はとっさに不可侵領域を発動させた。

それはこれまでの戦いで培われた勘のようなものがそうさせたのだろう。

その勘は功を奏した。

すぐ目の前まで黄金の少女戦士はせまっており、僕に必殺の手刀を振り下ろそうとしていた。

絶対防御の不可侵領域がその攻撃を紙一重のところで防いでくれたのだ。


すかさず麗華が抜剣し、上段から振り下ろす。

当たれば黄金少女の体は真っ二つになると思われた。

だがそうはならなかった。

金色の少女はまた姿を消し、あろうことか振り下ろされた竜剣ジークフリードの剣先に爪先でたっていたのだ。

なんて素早さだ。

素質ステータスを見たときには素早さはそんなにだったのに。

改めてその黄金少女を見ると素早さが桁違いに上がっていた。その代わりに戦闘力がかなり落ちている。

姿により戦闘スタイルが変化するようだ。


また黄金戦士ゴールデンアーミーウェズンの体が光輝く。

それがこの少女が高速移動を発動させるときにでる症状のようなだろう。

また来ると思ったときには黄金戦士ウェルズの体が目前に接近していた。

次にその攻撃を防いだのは不可侵領域ではなく二本の刀であった。

すでに抜刀していた渡辺蓮は星霊器の名刀正宗でウェルズの手刀をとらえていた。

もう一つ刀がウェルズの胴に当たっている。

それは瑞白元帥の刀であった。


光のような速さで動くウェルズをこの二人は脅威的な身体能力で追い付き、さらに斬撃を加えたのだ。

だが、二人の攻撃はウェルズの体に当たっているものの切り抜くことはできない。

二本の刃は黄金の体に封じられていた。


炎の矢ファイヤーアローよ、敵をつらぬけ!!」

動きが止まったウェルズに向かって雪は魔法で作った数本の炎の矢を射ち放つ。

しかし、魔法無効化能力によりその炎の矢は霧散していく。


仲間たちの連続攻撃のおかげて動きが止まったウェルズの体を僕は注視することができた。

彼女の首にアヴィオールがかけられていた呪いの文字が刻まれていた。

オーディンの義眼で文字を拡大する。


守銭王シャイロックの名によって命ずる。我に仇なすものを滅ぼせ。

首にはそう書かれていた。


彼女もアヴィオールと同じように操られているようだ。

ならばその呪いを解けば彼女との戦闘を終わらせることができる。


「どうにかして動きを止めれれば……」

僕は一人言う。

僕が一人言をいっている間にもウェズンは蓮と瑞白元帥の刀を振りほどく。

左右の手で超高速の手刀を繰り出す。速すぎて腕が線状になっている。

蓮と瑞白元帥の二人の優れた剣士はその動きについていっている。


「ご主人様、動きを止めればいいんだね」

アヴィオールはふわふわとした丸い顔に笑みを浮かべる。

「頼めるか」

僕は言う。

「まかせてよ、ご主人様」

アヴィオールは瞬時に飛竜ワイバーンに変身する。

大きく顎をあけて紅蓮の炎を吐き出した。

アヴィオールの攻撃がくるのをすでに読みとっていた蓮と瑞白元帥は左右に飛び退く。

アヴィオールが吐き出した業火は見事ウェズンの体に命中する。

灼熱の業火がウェズンの黄金の体を焼き上げる。

炎が過ぎ去ったあと、ジュウジュウと白い煙をあげるウェズンだけが残った。

その黄金の体には傷一つついていない。

だが、着実にダメージは受けているようだ。

目に見えてウェズンの動きが鈍っている。

体中の関節からプスプスと煙をあげている。

「活動限界です。自動修復モードに移行します」

どうやらこの金色の戦士には自動修復能力まであるようだ。

「今のうちに破壊するか?」

円月刀の柄に手をかけてロボは言う。

今なら破壊することは可能かも知れない。

でも、無駄な戦いを僕は好まない。

僕の冒険の目的は殲滅者になることではないのだ。

それに今の僕の魔力ならアヴィオールのときよりスムーズに呪いを解くことができると思う。

「僕にまかせてくれませんか」

僕はロボに言う。

ロボは黙って頷く。

「気をつけて、燐太郎」

麗華が注意をうながす。


僕はウェズンに近づく。

右手にレオナルドの羽ペンを握りしめる。

ウェズンの体は近づくだけでその熱さを実感できる。それだけアヴィオールの炎の息ファイヤーブレスの熱が凄まじいということだ。額にじんわりと汗が浮かぶ。


僕はウェズンの首の文字を羽ペンの羽で消していく。アヴィオールのときとは違い、すっと文字は消えていく。またじんわりと文字が復活しようとしている。字がもとに戻るのに時間がかかるようだ。僕の魔力があがり、解呪がよりスムーズにできるようになったようだ。

呪いの文字が復活する前に書きかえないと。


僕はレオナルドの羽ペンでウェズンの首に文字を書いていく。

和久燐太郎の命に従い、守護せよ。

文字はすぐに首に刻まれ、すっと吸い込まれていく。

「プログラムがアップデートされました。これよりは和久燐太郎をマスターとして認識します」

ウェズンは文字通り機械的な声でそう言った。

どうやら解呪は成功したようだ。


「すごいね、敵を滅ぼすんじゃなくて味方にするなんて。あんたを大将としてこの戦いに参加できて光栄に思うよ」

ロボが麗華に負けないほどの巨乳の前で腕を組み、感心する。

その言葉を聞いて麗華もうれしそうだ。


目をぱちくりとさせ、ウェズンは僕の顔を見る。黄金に輝いていた体が人間と変わらないものになる。

おほっ、こう見るとけっこうな美少女だ。

雪と遜色のない美少女っぷりだ。

スカートだけは金色のままだ。

「なんか悪い夢を見ていた気がします。私はバヒロン神聖帝国の機械兵でウェズン少尉と申します」

ウェズンはそう名乗った。



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