第62話獣族の帰参

王都キャメロンに戻った僕たちは白兎亭で昼食をとることにした。

ハンナさんの白兎亭は今日も繁盛している。

救護院から働きにでている女の子たちも忙しそうにしている。


僕たちを奥のテーブルに案内してくれたハンナさんは料理をいくつか用意してくれた。

分厚いベーコンと野菜のサンドイッチにタル芋のサラダ、野菜スープを用意してくれた。

どれもこれも美味しい。

二つの街とその周囲をとりもどしたことにより、以前に比べて格段に良い食材が入ってくるようになったとハンナさんは言っていた。

それに加えあのチコの実を使った料理も繁盛にひと役かっているのだという。

特に男性の常連が増えたとハンナさんは言っていた。


ハンナさんの白兎亭でお腹を満たしたあと、僕たちはアルタイル屋敷に戻った。

麗華は一度、礼服に着替えて王宮に出かけた。王女リオネルに謁見を申し込むためだ。

許可がおりたなら、使いをよこしてくれる手筈となった。


自室に戻る前にアヴィオールが抱きついてきた。ふわふわとして柔らかな体をしているな。

抱きついてきたアヴィオールの体からポロリと一枚の鱗がおりた。

手のひらよりも一回りちいさい、黒くつやのある鱗だ。

最初、これを見た僕は驚いた。

ちょうど胸元のところの鱗でロリ巨乳がよく見える。

よく見ると鱗の部分がかなり少なくなっている。小さめのビキニのような形に鱗が残っている。

うーん、これではほぼ裸だな。

ロリ巨乳が見れてうれしいけど、人前ではちょっとまずいな。

アルファルドさんに頼んで服を用意してもらおうかな。

「アヴィオール、大丈夫なの」

落ちた鱗を手に取り、僕は訊く。

「うん、大丈夫だよ。もうすぐ脱皮の時期なんだよ」

アヴィオールは言う。


アヴィオールの話では定期的に鱗は生えかわるのだという。ちょうど人間の細胞がある程度の日数でいれかわるように竜族も鱗がいれかわるのだという。しかもこの竜の鱗は貴重なもので多様な装飾品に加工されるのだという。

アヴィオールは今までに落ちた数枚を僕に手渡した。

ドワーフ族に渡せばなにかしらの魔法の品マジックアイテムに加工してくれるだろうと彼女は言った。


自室に戻った僕はハンナさんの旦那さんが残したノートをペラペラとめくる。

アヴィオールは僕の膝のうえで寝息をたてている。ほんとにかわいいやつだな。

僕はアヴィオールの柔らかな頬を撫でながらノートに刻まれた文字をおう。

そこには天狼族が居住地を制限された理由が書かれていた。


獣族は亜人とも呼ばれ、人間との間に子供をつくることも可能であった。

なぜだかわからないが、獣族との間に生まれた子供はすべて獣族となるのである。

人間の男性と獣族の女性、獣族の男性と人間の女性との間に生まれた子供はすべて獣族として生まれるのだという。人間の子供として生まれる子はいない。

ほうっておけば獣族だらけになると考えたアヴァロン王国の権力者は彼らの居住地を限定し、人間とあまり交わらないようにしたのである。そして、人口密集地である王都にも入るのを禁じた。

しかし、この隔離政策がさらなる差別を生んだ。いつしか王国の人たちの間で獣族が劣った人種であるから隔離されるのだという考えが芽生え始めた。

その考えは伝染病のようにあっという間に王国中に広まり、現在にいたるという。

ノートには獣族は差別されるいわれは何一つなく、彼らは罪なき存在であると書かれていた。

彼らも大きく見て、人間の一つの人種であるとしめくくられている。


僕もこの意見には同意見だ。

それにあんなにかわいいケモ耳の娘たちを差別するなんて許されるはずがない。

僕がノートを読み、思案しているとアルファルドさんが王宮から使いがきたと告げた。

どうやら王女との面会ができるようだ。

僕は謁見用の服にきがえる。

「ご主人様、いってらっしゃいのチュー」

アヴィオールは僕の唇に自分のふっくらして唇をかさねる。

ああっ、この唇は気持ちいい。

もっと味わっていたいが、王宮に向かわなくてはいけない。


僕は王宮に向かい、オリオンを走らせる。

王宮で僕を出迎えてくれたのは瑞白元帥と麗華であった。

「話は麗華殿から聞いております。拙者も獣族の帰参にたいして異論はありません」

瑞白元帥は言った。

僕たちと同じようにこの世界にきた瑞白元帥も獣族に対して偏見はないようだ。

これは心強い味方だ。


僕たちは謁見の間に入る。

僕たちを待っていたのは例によってリオネル王女の左右にはアルクトース内務大臣とエルナト財務大臣が控えていた。


「私は賛成ですよ。兵力の増強が見込めるなら今は四の五の言っている場合ではないですからね」

エルナト財務大臣は言う。

どうやら彼も賛成してくれるようだ。


問題はアルクトース内務大臣だ。彼はつねに昔ながらのしきたりや法律を重んじる。

しかし、彼を説得しなくては王国の誰も納得はできないだろう。

「異物をいれることは兵たちの信頼や協調性を損なうことにはならないかね」

アルクトース内務大臣はじろりと僕をにらむ。

うーん、この目にはなれないな。

怖い学校の先生ににらまれている気分になる。

「エルナト財務大臣のおっしゃったように今現在は緊急時の戦時下です。味方は多い方がいい。もしここで天狼族を拒めばこれから味方になってくれる人たちがいなくなるかもしれません。天狼族を味方にすることはこれから味方を増やすことにつながると思います」

僕は言う。

天狼族の申し出をことわるような者にこれから力を貸してくれようとするものがあらわれることはなくなるだろう。

天狼族の帰参はこれからの試金石になるのだと思う。


アルクトースは白い髭をなでる。

ふむふむとうなづく。


「彼らの統率は拙者に任せていただきたい」

瑞白元帥が助け船をだす。


「いいえ、元帥。それはあなたではなくアルタイル子爵にまかせようと思います。それが天狼族を王国軍にむかえる条件です」

リオネル王女が言った。

「アルタイル卿、あなたに天狼族の指揮を命じます。卿は天狼族を率いて第三の街を取り戻すのです。それが成功したあかつきには天狼族の申し出を受けましょう」

リオネル王女は僕に命ずる。

僕はうやうやしく頭を下げる。

この命令は必ず成功させなくては。

蓮やロボたちのこの先の未来がかかっている。


僕が頭をさげ、うけたまわりましたというとリオネル王女は耳元でささやく。

「頑張ってね、お兄ちゃん……」

えっと思い、顔をあげるとリオネル王女は背をむけて、謁見の間を出ていっていた。

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