第60話獣の剣士

舞踏会のリオネル王女の言葉が気になったが、その声があまりにも小さかったために僕の聞き間違いではないかと思われる。

もし、でもあの言葉が本当だったらリオネル王女は僕の妹の理緒だということだ。

しかし、それを王宮の王女に確認するのはなかなかハードルが高い。

なので、この問題はいったん棚上げしようと思う。



舞踏会が終わってから僕にはある趣味ができた。それは真夜中の散歩である。

エウリュアレに教えてもらったのだが、称号の「魔王子アモン」「メドゥーサの申し子」「夜の女神の使い」を特技スキルをセットするとあの飛空要塞ラピュタで変身させられたあの大蛇に変身することができた。

変身をとくのも簡単で特技すきるをセットからはずせばいいだけだ。

僕はためしにこの魔王子アモンの状態で鏡をみて素質ステータスを読みこむとかなりのレベルの高さに驚かされた。

レベルは156で戦闘力と素早さはあの麗華なみになっている。魔力はそのままであれだけあった幸運は半分ぐらいになっている。

幸運が半分になってはいたが、それでもまあまあ高いほうだ。

この姿でアルタイル屋敷をぬけだし、夜の静かな街を散歩するのである。

これはかなりいい気晴らしになる。

この姿だと人の目にとまる前に動くことができる。体をバネのように縮ませてそれから一気にのばすと簡単に屋根の上まで飛ぶことができた。


体が風のように軽い。

冷たい夜風にあたりながら屋根から屋根に飛び移るのは爽快な気分だ。

そうやって夜の散歩をしていると僕はある高い建物の屋根で夜空を見ているある人物に遭遇した。

誰もいないと思って屋根から屋根に飛ぶのを楽しんでいた僕は不意を食らった常態になった。誰もいないとおもっていたから自由気ままに夜の散歩を楽しんでいたのに、誰かにみつかるのはこれはまずい。

この姿は王国では呪われた存在として忌みきらわれている。とくに王国で最多数の信者を抱えるというベラ教団の人々はまさに蛇蝎のように嫌われている。


僕は警戒度を最大にまであげる。

できれば見つからないようにこの場を去りたい。

僕が気配を消してこの場を去ることを試みる。

その屋根上の人物は腰に刀をぶらさげ、顔を覆面のようなものでおおっていた。

「君は和久君だろう」

その人物は言った。

なぜだ、なぜこの初対面の人物は僕の名前を知っているんだ。

僕はさらに警戒心を高める。

僕はこの人物の素質ステータスを見る。

できるなら戦いたくないが、情報を集めておかないと。


獣騎士ビーストナイトスピカ。

レベルは62とある。レベルはあきらかに今の僕のほうがうえだが、素早さはこの人物のほうが高い。

ということは逃げるのにはかなり骨が折れそうだ。しかもこの人物、戦闘力もなかなかある。

特技スキルには抜刀術、暗歩、一寸の見切り、心眼とある。

あまり敵対したくない相手である。


「まあ、そう警戒しないでくれ。知らない仲ではないだろう」

そう言い、その人物は覆面をとる。

僕は驚いた。

蛇の姿なのでシャーという声になる。

その人物の顔は犬の姿をしている。犬種でいえばシベリアンハスキーといったところか。白い毛がふわふわしている。瞳の色は黒く、どこかでみたことがあるような気がする。

そういえば素質スキルを読みとったときの名前がスピカとあった。この星の名前はあの人物に与えられたものだ。


「もしかして、渡辺君なのか……」

僕は訊く。

しまった、今は蛇なのでシャーシャーとしか言えないはずだ。


「ああ、大丈夫だよ。この姿になってから獣の言葉はわかるようになったんだ。獣の女神セイテンの加護らしいんだ」

その犬顔の人物は言う。

たしかにこの声はあのいけすかない男である渡辺蓮のものだ。

「人のことを言えた義理ではないけど君もかなり変わった姿をしているね」

獣騎士ビーストナイトスピカこと渡辺蓮は言う。


彼はどうしてこんな姿でこんなところにいるのだろうか。


「久々の王都だったんでね、それにきれいな夜空だしね」

渡辺蓮は言う。

「君同様、この姿は王国ではよく思われていないようなんだ。僕もいろいろあってこの姿になっているんだ。君もそうなんだろう」

渡辺蓮は僕に訊く。


「ああ、そうだよ」

僕は答える。今までの冒険だけでもかなりの経験をした。これからも凄まじい経験をするのだろう。


「ここで君に会えたのは幸運かもしれない。翌日、王都の北の外れに来てほしい。そこで和久君、いやアルタイル子爵に話したいことがある。待っているよ」

そう言うと渡辺蓮は屋根から軽々と飛び降り、闇夜に消えてしまった。



あの七人の星たちセブンスターズの生き残りに再会できたのは喜ばしいことだが、姿がまるでちがうものになっていたこたが驚愕だ。あの犬の顔はどうしてなんだろうか。何があったのだろうか。

この疑問をとくには彼の言うとおり王都の北の外れにいくしかない。


僕は翌朝、アルファルドさんの美味しい朝ごはんを食べたあと、麗華をともない北のはずれにオリオンとヘラクレスを走らせた。

馬を走らせてほどなくして数多くのテントが見えてきた。かなりの人数の集団がここで夜営をしていたと思われる。


僕たちがその夜営地に近づくと二人の人物が出迎えてくれた。

一人は犬顔になってしまった渡辺蓮である。

もう一人は麗華に負けず劣らずの大柄でグラマーな女性であった。

しかも頭に白い毛の犬の耳がついている。

おおっこれはケモ耳ではないか。

ここで異世界定番のケモ耳種族に出会えるとは。

そのケモ耳女性の大きなプリンとしたおしりには尻尾もついていて、それがふりふりと揺れている。

「はじめまして、アルタイル卿。私は天狼族のロボ、どうぞよろしく」

にこりとかわいらしい笑みを浮かべ、ケモ耳女性こと天狼族のロボはそう名乗った。


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