第49話公女エスメラルダ
牢屋に囚われ、気味の悪い怪物に凌辱を受けている女性の名前は公女エスメラルダといった。
ガラハットの街の総督の一人娘である。
アルファルドさんの話では今年で十八歳になるという。
彼女の祖母がリオネル王女の祖父の妹にあたる。祖母の代にガラハット総督と婚姻す
るにあたり、王位相続権は返上されていた。
彼女を無事に連れて帰ることができれば、リオネル王女にとって心強い親族となることは間違いない。
魔王軍との戦いで王族と貴族のほとんどが死に絶えた今、公女エメラルダスの生存は奇貨といえる。
「あれは魔獣マンドラゴラ。あの体液で女性に性的快楽をあたえ、最後に自我を崩壊させる拷問用の魔物です」
アルファルドさんはそうつけくわえた。
あの魔獣がエスメラルダに注ぎ続けている体液にその効果があるらしい。
ならば早く助け出さないと。
僕がそう考えたときにすでにアルファルドさんが動いていた。彼女は
ガツンという鈍い音と共に
僕がオーディンの義眼越しにその錠前を見るとうっすらと光の幕によっておおわれていた。どうやら魔法の障壁で物理攻撃が無効化されるようだ。
「どうやら魔法効果で力ずくではあかないようです」
アルファルドさんは冷静に分析する。
少し前まで高所で気絶していた人と同じ人物とは思えない。
魔法使いの雪がいればすぐに開けてくれるのだが。
ここはアヴィオールの呪いを書きかえた要領でやってみよう。
オーディンの義眼で注視すると封印の文字が見える。これはあのローレライがかけた呪言と同じものだろう。
僕はレオナルドの羽ペンでその文字を消す。
すぐに文字はもとの形に戻ろうとする。
僕は間髪いれずに上から文字を書く。
開の一文字。
カチャリという音がして、鍵があけられる。
よし、うまくいったぞ。
「錠前師」の称号を獲得しました。
視界に文字が浮かぶ。
おっさらに称号を得たぞ。
僕は牢屋の鍵をはずし、鉄格子の扉を開く。
エメラルダスの身にまとわりつく魔獣マンドラゴラをアルファルドさんが
瞬時に肉片と変わる。
まだ気持ち悪くうごめくその肉片をアヴィオールが炎を吐き、消し炭にかえる。
エメラルダスは手首を鎖でつながれていたので、麗華がそれをなんと素手で引きちぎる。
うわっ、すごい握力だ。
これは彼女を怒らせたらいけないな。
麗華は手についた鎖の破片をパンパンと払う。
僕は倒れこむエメラルダスを抱きかかえる。
「大丈夫ですか?」
声をかける。
げほげほとエメラルダスはなおもその白い液体を吐き出す。
ぜえぜえと荒い息を吐く。
エメラルダスはぶるぶると震えている
顔が青ざめ、唇も紫色になっている。
明らかに体温が低下している。
エメラルダスは返事のかわりに微かに頷く。
「肉体だけではなく精神もかなり傷ついていますね。すぐにでも霊的治療が必要ですね」
アルファルドさんが言う。
ここにミラがいれば魔法による治療をおこなってもらうのだが、そうはいかない。
これはすぐにでも合流しなくては
僕は手でエメラルダスの濡れた顔をふく。
近くで見るとエチゾチックな顔をしたかなりの美人だ。それにスタイルもいい。
こんな美人は無事に連れて帰らないとな。
「魔獣マンドラゴラ」の称号を獲得しました。
また視界に文字が浮かぶ。
こんなものまで称号にはいるのか。
「それならば早く合流しなければいけませんね」
僕が言うと皆が頷く。
麗華が抱き抱える。
「もうちょっと我慢していてね。必ずあなたをつれてかえるわね」
麗華は優しく励ます。
さすがは正義の味方だ。頼りになるな。
僕たちは階段のところまでもどり、上を目指す。
要塞ラピュタの中はそれほど難しいつくりではなかった。
ほぼ迷うことなく、僕たちは上に行くことごできた。
ラピュタ城の四階にたどり着いたとき、僕たちはかなり広い空間に出た。
ざっくりと広さは体育館ほどかな。
突き当たりに巨大な扉が見える。
おそらくだがその扉の向こうが最上階の天守であると思われる。
僕たちがそこに向かって歩き出したとき、床に巨大な魔法陣が浮かぶ。
光につつまれたその魔法陣から何者かが出現する。
そこにあらわれたのは巨大な鶏であった。
体長はざっくりと三メートルほど。
濡れた白い羽が不気味だ。
魔獣コカトリス。レベル52。
固有特技、石化、体質異常化攻撃、物理攻撃回避とある。
戦闘力と魔力はかなりある。しかし、素早さは低い。
強敵ではあるが、勝てない相手ではない。
「燐太郎、この人をお願い」
そう言い、麗華はエメラルダスを僕に託す。
「うん、わかったよ。あいつはここを守る門番のような存在だと思う。魔獣コカトリス。石化攻撃に気をつけて」
僕は麗華に言う。
「わかったわ」
麗華が答える。
魔獣コカトリスの瞳が黒く光る。
これがきっと石化攻撃なのだろう。
麗華、アルファルド、アヴィオールはそれぞれ散開する。
まず、右に飛んだ麗華が竜剣ジークフリードを高らかに頭上にかまえる。
「切り裂け、
そう叫ぶと竜剣ジークフリードから水の竜が出現し、その牙でコカトリスの羽を食いちぎる。コカトリスの羽が桜の花が散るように撒き散らされ、ぼとりと翼が床に落ちる。
コカトリスが悲鳴を上げるよりも速くアルファルドさんは駆ける。
一息でジャンプすると魔獣コカトリスの眼球めがけて二連撃の刺突をくりだす。
アヴィオールは瞬時に
アヴィオールの牙は深く深く突き刺さり、床に押し倒す。コカトリスはじたばたと暴れるがアヴィオールの力が圧倒的だ。
麗華とアルファルドさんによって深く傷ついているので抵抗する力はかなり弱まっている。
アヴィオールは完全にコカトリスの首を噛みきった。べっとゴミを吐き出すようにその首を床に捨てる。
コカトリスは完全に沈黙した。
やはり今の僕たちにとってこの程度の魔獣は敵ではない。
「狩人」の称号を獲得しました。
また文字が視界に浮かぶ。
門番であるコカトリスを退治した僕たちはその部屋の奥にある巨大な扉に手をかける。
僕と麗華はその扉に手をかける。
エメラルダスはアルファルドさんが背負っている。
扉はキギギッときしむ音をたてながら、開かれる。
扉の奥はさらに広い空間が広がっていた。
そこには玉座があり、翼の生えた人物が腰かけている。
その人物を守るように一人の女騎士がいる。
それは羽柴マリアであった。
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