第42話ロトの光
天空要塞ラピュタの下腹部に集まる光熱のエネルギーが僕たちにむかって発射されれば百鬼軍の壊滅は必至であると思われる。
僕の不可侵領域ならば周囲の数人は救えるかもしれないが、それでは意味がない。
今、百鬼軍が全滅すれば魔王軍からの領土奪回は絶望的だ。
そしてあの光熱エネルギーはもうまもなくこちらに向けて発射されるであろう。
見るからに禍々しいその光エネルギーは臨界に達しようとしている。
ギャアという鳴き声と共に空の魔物と戦っていたアヴィオールがこちらに向かって帰ってこようとしている。
すでに
彼女だけなら簡単に生き延びることができる。なのにアヴィオールは戻ってこようとしている。
僕たちのことが心配でたまらないのだろう。
アヴィオールと過ごした数日で僕は彼女がそんな優しい女の子だということを知っていた。でも、アヴィオールは確実に助かることができる。
なら僕は主人として彼女の命を優先させなければいけない。
「アヴィオール、命令だ。ここから逃げろ‼️」
僕は精一杯の声で叫ぶ。
アヴィオールの首に巻かれた従属の文字がくっきりと浮かぶ。
そう、呪いを書き換えた主人の命令は絶対なのだ。
アヴィオールはギャウウという悲しそうな声を上げて、空高く消えていく。
そうだ、アヴィオール。君は確実に生き残れるのだ。せっかくローレライのもとから解放されたのだ、生きてほしい。
「呪言」の称号を獲得しました。
オーディンの義眼越しの視界に文字が浮かぶ。こんな非常時にも称号が得られるのか。
その時、パチンという指を鳴らす音がした。
肌感覚だが、空気が変わったような気がする。
目の前にステンノーがあらわれたのだ。
「空間を一時停止したよ」
亜麻色の髪を持つ魔女ステンノーが言う。
「まあ、それほど長くはできないけどね。ここは君の深層心理世界のエネルギーでなりたっているんだからね」
ステンノーは付け足す。
「何、ここはどこなの?」
背中の雪がキョロキョロと辺りを見渡す。
ヘラクレスを駆る麗華が僕の隣に並ぶ。
「何、どうなっているの」
と麗華が言った。
時が止まった空間に困惑しているようだ。
常に冷静な麗華でさえそうなのだ。僕もかなり混乱していた。けど、ここは落ち着かないといけない。あわてふためいても状況は打破できない。
「成長したね」
うんうんとステンノーは頷く。
「何、あなたは誰なの?エウリュアレさんにそっくりだけど」
雪が訊く。
麗華が竜剣ジークフリードを手にかけ、警戒している。
「まあまあ、うちはステンノー。この
ステンノーは関係の部分にイントネーションを強めて言った。
そんなのは今は気にしていられない。
その打開策というのを聞かなければ。
「不可侵領域を広域展開する。ウロボロスの発動さ。でも、それには燐太郎の魔力が足りない。そこで魔法使いのお嬢さんの魔力を借りようと思う。でも、それでもまだ足りない。で、ベガを
ステンノーは言った。
ざっくりいうと僕たちの生命力と魔力で不可侵領域を強化して、あの超光熱のエネルギーを防ごうというのだ。
「それをしたら燐太郎の命はどうなるの?」
麗華が訊く。
「ぎりぎり、死にはしないだろうね。良くて二、三日は寝込むだろうね」
ステンノーが言う。
「あの光はかつて快楽にふけり、天空人の不興を買ったソドムとゴモラの街を壊滅させた光だ。まあ、それぐらいの代償は必要だろうね」
ステンノーが言う。
なら、決まっている。
そうやってあの光熱エネルギーを防ぎ、百鬼軍を全滅の危機から救うのだ。
「わかった、やるよ」
僕は言った。
「でも、燐太郎」
麗華が言う。
優しい彼女は僕が傷つくのが嫌なのだろう。
「僕はやるよ。麗華、雪、力を貸して欲しい」
僕は二人に言った。
「わかったわ、燐太郎がそこまで言うならね」
麗華が答える。
「わかりました。燐君、私の魔力全部君にあげるわ」
雪が言う。
「なら、話は決まりね。もうすぐこの空間の維持も限界なのよね。うちはこれでまた君の影にもどるわね。あんな一人よがりの正義をおしつけたあいつらの光なんか跳ね返してよね」
そう言い、ステンノーは僕の左目に息を吹きかける。左目がじんわり熱くなる。
「ウロボロス」の称号を獲得しました。
ウロボロスを
文字が視界に浮かぶ。
ステンノーが指をパチンと鳴らす。直ぐに彼女は消えていく。
そしてまた時間は動き出した。
僕はオリオンは正面に走らせる。
麗華はヘラクレスを走らせる。
僕たちがあの光熱の正面に立った時、そのエネルギーがついた発射された。
僕は不可侵領域を発動させる。
この戦場すべてをおおうイメージで展開させる。左目に鈍い痛みが走る。
温かいものが流れる。
それは僕の血であった。
うっすらとした光が前方に展開される。
それは瞬時に広がり、傘のような形になり僕たちと百鬼軍すべてを包み込む。
天空城ラピュタから発射されたロトの光は不可侵領域の光の壁に激突する。
光と光の激突だ。
目が痛いほどまぶしい。
それに息をするのも苦しい。
オリオンを降りた雪は両手の手のひらを不可侵領域の光にかざす。
手のひらから魔力が供給され、光の壁が強化される。
僕は血の涙を流しながら、
二度目は慣れたものだ。
麗華にアルマエルの能力が付与される。
銀色のフルアーマーを装備した麗華があらわれる。彼女にアルマエルの絶対防御の能力が宿ったのだ。
麗華は手に持つ鋼鉄の大盾ですでにオリオンから降りている僕の横にたつ。
その大盾を僕の前にかまえる。
そうするとどうだろうか、光の壁は分厚く、さらに広くなる。
完全にロトの光を防ぐことに成功した。
しかし、代償は凄まじい。
みるみるうちに体力がうばわれ、僕は膝をつく。
麗華も竜剣ジークフリードを杖代わりにどうにかして、立っている。
雪は無言で地面に倒れた。
ロトの光は僕たちによって強化拡大された不可侵領域によって完全に防ぐことに成功した。
僕たちを焼くことができなかった光のエネルギーは左右に逃れ、何もない荒野と岩石を焼くだけであった。
やった、防いだぞ。
けど、もう僕の体には指を動かす力も残っていない。
僕たちは完全に油断していた。
あの光を防いで、敵はすべてどこかに消えていったものと思っていた。
だがぎりぎりの所で一匹残っていたのだ。
体長三メートルはあろう鷹の化け物がその爪で僕の体をつかむと天空につれさってしまった。
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